富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月十七日(水)曇。朝日新聞連載の「毎朝読むには重かった」柳美里『8月の果て』未完のまま終了。すでに告知されていたことだが朝鮮を舞台にもはや新聞小説といふ範疇では表現に限界あり、か。当然、革命から天皇制までキョービの如きファッショの世では連載も能わず。総合版のため辻井喬の『終わりからの旅』なる連載もあるが元来辻井喬といふ人をさっぱり理解できぬ(この人の「書く」といふ行為を理解しようともせぬ)余には「香港にて」といふ章も香港でも台北でも上海でも結局は何処でもいいのであり、これは柳美里がどうしても書かなければならず舞台が朝鮮であることの必然性との対照。東京とり久々にY氏来港でI君誘いZ嬢とハッピーバレーで競馬観戦しつつ晩餐。日暮れ前の競馬場にて葡萄酒飲み葉巻燻していればI君とY氏引き続き参られ競馬前に歓談款語。葡萄酒三本も空けて競馬始っても競馬どころでなし。結果も当然惨澹たるもの。ムール貝食すが大ぶりで何よりも味付けが鹹すぎて昨秋の巴里彷彿するばかり。馬主C氏のDashing Championは6R(クラス2)芝1650mで12倍、けして一着は狙えぬが先行して入賞期待するがハナで走って最後直線で五六着まで落ちる。
▼香港離れるフライトのまえに尖沙咀で空港行きの直前に入った吉野家で牛丼食した日本人男性が450万円入ったルイヴィトンの鞄を置き引きされる被害あり。日本では食せぬ牛丼を香港の思い出に、といふ算段か、1杯の牛丼が450万円とは世界で一番高価。
▼台湾の総統選挙。民進党の亜扁総統ではちょっともう無理、民進党が4年政権にあった事実だけで成果あり、というわけで健全なる民主政治としては下野しいろいろ勉強もしたであろう国民党にここは政権交代、といくのが筋なのだが、問題は国民党の候補・連戦氏に個人的魅力が全くないこと。元国民党の宋・元台湾省長を副大統領候補とすることで反・亜扁票も獲得に有利だが、今回国民党支持する多くの者が「連戦はねぇ……」といふ気持ちか。本来であれば国民党のホープ馬英九台北市長こそ、なのだろうが最後の候補「まだ」担ぎ出しには時期尚早。煮えきれず。
▼都立板橋高校で定年退職していた元教員が来賓として卒業式に招かれ、その場で「都教委の方針を批判的に報じた雑誌(『世界』か……笑)の記事のコピーを出席者に配布」し保護者らに自分の考えを訴えたため学校側が退去を命じ開式が約5分の遅れ。都教委は「保護者から苦情がきており、学校側は許容の範囲を超えていると判断」しこの教諭を威力業務妨害容疑などで刑事告訴を検討中と(朝日)。都教委は「保護者から苦情がきており、学校側は許容の範囲を超えていると判断した」としている。東京都のことであるからこの「偏向」元教員を招いた段階で「何かしてくれること期待」だったのかどうか、いずれにせよ「保護者から苦情」がポイント。都知事の極右性には鈍感だがこういった「赤色教員」の偏向といったことには過剰に敏感する都民。東京都もこの「保護者から苦情」には反応しても当然この刑事告訴は過剰といった「保護者からの苦情」はけして利用せぬのであろう。更に都教委は今回の卒業式での生徒への「日の丸・君が代」不徹底校を特別調査(朝日)。「担任らの日常の指導内容を確認し生徒の行動に影響を与えたと判断すれば処分する」そうで調査結果によっては学校名の公表も検討。さすがに生徒の処分は検討しておらぬようだが生徒の大半が国旗国歌で起立もせぬ学校もあることに「国旗国歌を尊重する気持ちが育っていない。教員の偏った指導や言動が影響を与えている」とし、更に区市町村立の小中学校についても「不起立」が目立てば各教委に同様の調査を求めることもあり得る、と。基督教信者や親が「偏向的」な家庭(笑)など子が国旗国歌に応じない場合その指導の徹底怠った教員を処分対象に、と。先生の責任になることを理由に不服従の生徒も靡くか、が狙いか。もはやここまで来たら徹底的にやりたいだけやるほうがよいのかも知れず。どれくらいひどくなるか結果が楽しみ。完璧に崩壊してみればやっと気づくのだろうか。その前に亡国も十分にあり得るが。
▼六月歌舞伎座十一代目市川海老蔵襲名披露。昼の部は新之助海老蔵)出ずとも菅原伝授手習鑑のうち「寺子屋」は松王丸に仁左衛門、源蔵が勘九郎、それに福助の戸浪で千代が玉三郎。かつての孝夫玉三郎のコンビも玉三郎がもはや「きれい」だけに非ずこの寺子屋は地味でいい芝居かも。吉右衛門が源蔵だったりすると想像も絶するが(笑)中村屋であるし。そして「口上」も雀右衛門菊五郎吉右衛門仁左衛門玉三郎勘九郎團十郎と並べばさすが成田屋の襲名披露口上といふもの。夜の部では海老蔵の「助六」に揚巻は玉三郎(この揚巻はてっきり京屋雀右衛門かと思っていたが京屋はやはり新之助君の団十郎襲名まで「待ち」なのだろうか……笑)、白玉が福助、福山のかつぎに松緑(本来なら海老蔵に高1の時に生ませた隠し子とかいるとこの役につけるのだが)で、髭の意休と曽我満江の役は当代この人しかおらぬであろう左團次田之助。でくわんぺら門兵衛の吉右衛門も想像するだけで好演のはず。真剣に東京に戻って見てみたい助六である。