富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月十日(水)昨晩遅く山崎俊夫作品集補巻二読了。大正十年の文芸倶楽部誌に竹原文糸の名で発表の『お三輪の人形』なる短編佳し。妹背の道行を材に人形遣いの玉七なる若者主人公に亡父ともどもお三輪の文楽人形に祟られる話。これで山崎俊夫作品集五巻読了。〆て三五二九一円也。この山崎俊夫を現代に甦らせたこの作品集の編者生田かをる(耕作)の偉業。殆ど文芸史からも消えていた山崎を生田が知ったのは荷風先生の大正三年「三月山崎俊夫その著『童貞』の上製を上梓す」のたった一行。荷風先生をば敬愛した生田がこの一行で荷風先生が評価した山崎俊夫なる若い作家の存在知りそれがこの作品集と結実。本日。快晴。香港でPrince of Wales病院舞台にSARSが初めて大量感染した日より丁度1年。余の昨年三月の日剰読めばこの時期SARSのサの字も記載なく月末になりマスクする人多きこと綴る程度。それが四月に入り実際の感染者の増加よりWHOによる香港渡航せぬべきといふお触れ出てからの、殊に事態は収拾に向かっている中で全くそれを理解せぬ「日本を原因とする混乱」で忙殺されることになる。ところで。香港政府の申訴専員(Ombudsman)に戴婉瑩女史再任される。吉報。戴女史の五年前のオンブズマン就任は旦那が運輸署署長であることから利益衝突があり公正な職務遂行難しいのでは?と立法会でも指摘されたがこの五年の戴女史の職務賞賛に値すること誰もが認め寧ろ董建華による政務司司長・陳方安生、香港電台の張敏儀女史、機会平等委員会の胡紅玉など有能なる公務員が(奇しくも偶然女性ばかり……)リベラル的立場であるだけで更迭され続ける中で次は戴女史と噂されたがさすがにここでオンブズマンの交替では董建華も印象悪しきと「英断」か。いずれにせよ目出度いこと。旧知の戴女史ゆへ鉄棒運動選手の絵に「堅持」と書かれた絵はがきでお祝い状を差し上げる。医療サービスに従事のH氏と話す機会あり家禽ウイルスだの狂牛病だと騒いでいるが年間数十万人が世界で死亡し日本でも数千人の死者を出す通常のインフルエンザのほうが怖い伝染病でありその予防の怠りと鶏禽への異常な対応の矛盾を語られる。納得。晩に近々帰国されるO氏夫妻らとハッピーバレー競馬場のStable Bend Terraceにて食事しながら競馬観戦。N氏が難しい4Rで43倍の大穴一着を含む200倍近い三連複当て馬番と枠の勘違いすらしていたことが後で判明したO氏まで95倍の三連複当ててしまい余は途中からかなり負けが込み鬱としたが最終7Rは馬主T氏のVictory Warriorがクラス2に降格し久々に一番人気で予想紙も一押し。余はこの馬昨季一勝した際の口取りにもN調教師に招かれ加わらせて頂き本来祝儀でこれを単勝とすべきところ(而も騎手は今晩既に二勝のWhyte君)最後の最後で見習・魯柏軒君騎乗のWyndam Easyに惹かれこれの単勝とVictory Warriorとの連複としたところハナとったWyndam EasyがVictory Warriorの追い上げ躱して逃切り単勝でHK$77、連複もHK$112.5に注ぎ込んだ分回収も少なからず本晩の負をば解消した上にそこそこの儲けあり。Z嬢は余のWyndam Easyの推薦信じず。
▼ビクトリアハーバーの埋立に反対する市民の声高く政府相手の訴訟は裁判所が政府の埋立計画支持の判決あり中環中心に17haの埋立工事再開される。紐育ですらマンハッタン島を埋立てで拡張せぬのはマンハッタン島といふ高価地の資産を薄めぬ為。それが理解できずたんに土地増やしビル建てて儲けようといふ浅ましき金欲。
▼「護苗基金」なる子供の性的虐待防止団体が10〜18歳の学生五千名弱対象にセクハラ調査の結果小学生で23.1%、中学高校生で43.4%が何らかの形で被ハラ経験ありと回答あり数字の高さに一瞬驚くが護苗基金の分析によると「校内でのとくに男子トイレが盲点」だそうで何かと思えば「被害」の多くは男子中学生で級友にエロ話聞くを強要されたり巫山戯て性器触られたりといった他愛ない行為。中には同級生に口交肛交など強要されたといふのも僅かながら17名あるが思春期で何らかの性的他虐あるは今に始ったことでなく、たかだかこのテのことを今さら「性的虐待」などと大騒ぎする、健全ぶったその大人たちの思考であるとかまなざしこそフーコー的、ピンクフロイド的に卑猥であること。昨今こういった健全ぶった組織がファッショ的に蔓延ること恐ろしきことなり。
▼話旧聞に属すが昨秋に香港にてAmCham(香港米国商工会議所)の音頭取りでSARS基金由りHK$100億捻出し開催され開催に意義なしと非難囂々の内に終ったHarbour FestはAmChamは香港にてローリングストーンズなど米国芸人らの演奏会開催ばかりかその公演録画をば世界中にてテレビ放映することにて世界に香港=SARSの記憶払拭し好印象与へると宣いしところ米国にてHK$600萬費やしMTVにて“Hong Kong Rocks”といふ演目にて放映されれば放映は深夜にて視聴率僅か0.2%、30萬余の視聴者しか得られず、と。ちなみにこの放映の数時間前のグラミー賞授賞式はCBSの放送にて二千七百萬人の視聴ありとか。遠き香港の彼の地で今さらローリンスストーンズだのプリンスだの懐メロ公演をば米国にて誰が見ようか。結局はAmCham通して香港の貴重なるSARS基金の資金が米国に流れたこと。殊に当時のAmCham会頭のJames Thompsonの愚劣ぶりとそのト氏の暴挙阻止するどころかそれに乗った在港財界、殊にAmChamに屈託した政府系投資会社InvestHKも資質をば疑われ当然。