富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月初六日(土)快晴。昨晩遅く読んだ『東京人』四月号23区散歩ブックという特大号で保存版とまで銘打つがちっとも散歩の実用性もなければ内容も陳腐でつまらぬ代物。どうせなら一号ずつ徹底した各区特集に徹すれば23区で二年は保つか。爽快なる晴天に昼すぎまで在宅してベリタの記事(中国全人代と米国での下院外交委員会での香港民主化問題公聴会について)送稿して雑用身辺整理。午後九龍での藪用。九龍への日がな午後のんびりとバスに乗り車中、村上義雄『東京都の「教育改革」』岩波ブックレット読む。呆れるほどの東京都の教育「改革」だが石原の暴政を糾弾するよか三百万の良識ある都民が石原を推挙したことのコトの重大性。推挙され当選したのだから石原が何をしようが本凶は石原を選んだ都民、それの責任。何も考えておらぬ、小泉さんなら何か変えてくれるのでは?という浅慮と同じ。また石原に反対する側も所詮、石原に勝つ候補者擁立できぬのだから非力を認めるしかなし。小泉といへば大江健三郎君が外国特派員協会で講演し小泉三世の「平和憲法に反する、現在の「戦争への運動」を批判し」「小泉首相の国会答弁は質問に答えておらず、表情から「薄笑いをする首相」として記憶されるのではないかと皮肉った」と(朝日)。「最近の日本人は、テレビの影響で会話中心の思考が多く論理が弱くなった。その延長で小泉首相の内容をともなわない言葉が人気を得た。靖国参拝などの問題も、国内での口頭表現が、国際的にも通じると判断を誤ったのではないか。書き言葉の論理性の復活が必要だ」と指摘し「現在が戦争と平和の分岐点にあると強調し、かつて日本にあった「平和の文化」と「平和の運動」の一致を再現し、平和憲法改定につながる教育基本法改定の動きに反対する必要性」を語ったそうだが、大江君の講演が記事で「英語で……語った」と書かれることぢたい寂しい話だし、大江君がどれだけ真っ当なこと語ろうともその主張は日本の「大江作品など全く関心のない」大多数の人たちには何ら影響もなく、大江君がフランス紙に掲載した一面大の意見文も同様(朝日)。少なくとも海外に向けて大江君の如き良識が今の小泉ジャパンにもあることが知られるだけでも意味あろうが。晩に中国語の翻訳通訳及び最近は日本人相手に北京語広東語の教授に多忙なS君とC嬢来宅。小学校教師であるC嬢より香港の学校も一向に教育環境の整備進まずそれどころか本来の教育とは関係なき教員管理だの学校運営「正常化」だのに無駄な労力費やす現状を聞く。本来の教育に熱心な優秀なる経験ある優秀な教師がこの体制に疲労甚だしく退職してゆく現状は憂えるばかり。この昨年八月に恩師K先生より頂いた沖縄は豊見城の忠孝酒造の泡盛十年古酒S君と飲む。美味。誠に美味。四十三度の泡盛は飲んでも微かに酔ふばかりで久々にいい酒に拝した気分格別。Z嬢の酒の肴もまた泡盛に合い江藤淳的酔心地。
▼築地のH君より成田屋親子が総理官邸を訪問とか。海老蔵襲名のお披露目か中村屋赤旗登場に対するお詫びか(笑)。
▼最近気になるのはメールで、での「〜ですか? 〜ですか?」といふ質問の立て続けの書きぶり。誰かに何か質問するのに質問多いのはわかるが「Aはどうなっていますか?」「BはCになるのですか?」「Dはどうすればいいのですか?」と羅列されると心配が当方への非難にすら読める書きぶり。本来丁寧な書き方はexcuseのあとに「下記の点についてお手数ですがご教示いただければ幸いです」として「Aについて」「BはCと考えてよいか」「Dへの対応について」と箇条書にでもすべきこと。「ですか?」「ですか?」「ですか?」が許されるのは不安感と絶望感、例えばさだまさしの「不良少女白書」の歌詞での用法とか。マジに大江健三郎君の憂慮ぢゃないが会話中心の思考が多く論理が弱くなり、例えば「〜かじゃないですかぁ?」の多様な多用……「私って意外と神経質じゃないですかぁ」と「テメーのそんなこと知るわけねーだろうがぁ、このアホ!」と思いたいが、そういふ会話口調だけでの思考(思考といふのも勿体ない無思考ゆへだが)書き言葉の論理性の復活が必要なのは事実。テレビを三年くらい放送禁止にするのも善策かも。
▼やはり長嶋茂雄といふ人の容態が気になるのは余も昭和戦後人ゆへか。子どもの頃に野球に興味なくとも柴田高田王長嶋末次黒江……に森堀内それに高橋一三とタチドコロニ名前並び経団連のオトーサン風の川上哲治、あのまさに破竹の勢いの日本企業の如き様。父親が仕事も手につかずテレビの画面見入ったは浅間山荘と長嶋引退。巨人軍は永遠に不滅です!という長嶋の叫びに「不滅だなんて……」と懐疑心。だが日本の大多数はあの言葉に酔っていた。巨人=日本。猪木vsアリの格闘技戦あたりから世の中の胡散臭さ露骨。監督長嶋も解任されることで日本企業も成果主義であることに気づいたが、まさか長嶋茂雄が渡辺恒夫より先に倒れるとは……。結局、若い頃から政財界の宴会に招かれ「長嶋君、キミには日本を牽引する力ってものがあるよ」とか座敷で言われ、言ったのが茨城訛りの橋本登美三郎だったからか聞いたのが長嶋だったからか長嶋は「ケンエンって確か犬と猿?」とか思いつつ「そーですねぇ、日本シリーズも頑張りますよぉ」とか受け答えていた(……って知らないけど、どうせそんな感じだ)、その場を仕切っていたのが讀賣新聞政治部の辣腕ナヴェツネだった、といふこと。憂鬱。