富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

二月十三日(金)晴。早朝に養和病院。Viral Gastroenteritisより回復せず昨日よりdiarrhea特有のevacuationを伴わぬgasのみ腸内目まぐるしく動き回る症状続き医師の診断請えばdiarrheaの症状としては回復期にあり暫し服薬にて治癒の見込みとのこと。富柏村絡みの世界復活。夕方独り記者倶楽部にて早酒。Jamsonを氷で一杯。ここ数日抱えていた新聞読む時間なく読みそうな記事のみ切り取り。晩の開店したばかりのJimmy's Kitchenのバー。ドライマティーニ飲む。Z嬢現る。いつも客も少なく香港でかなり上品なバー。銀座の、山本夏彦氏などが通ったJollyなどに通じる雰囲気あり(写真)。ただ一つ今晩の欠陥は、明日が聖ヴァランタイン節で今晩は金曜夜でどの料理屋もこの節句の特別メニューなど用意して商売熱心、この店も例外でなく、支配人(あきらかに×国人であるが×国であることを偏見で用いぬため敢えて伏せ字とす)花屋よりこの特別メニューの客に配る花が届かぬのか花屋に苦情の電話は罵声。かなり苛立ち五月蠅いこと甚だし。Z嬢と夕餉のためバーよりダインに移るが今度はこの×国人の支配人、薄桃色の生地にて店中に飾り付け始め自分のイメージ通りにいかぬのか給仕らを大声で叱るばかり。聞いていて明らかに支配人本人の管理能力の不足と発想の貧困さが原因、それを給仕らに当たるから始末に負えず、副給仕長級の黒服などその彼が明日の予約の確認だかに来た客と話しているのに、この×国人の支配人はこの黒服を何度も大声で呼び黒服氏も堪り兼ね“I'm busy now!”と言い返すほど。余りの始末の悪さに余も我慢の限度を超えこの支配人を見れば支配人も生地もったままこちらを向いたので「静かにすべし」と注意勧告。ひとまず支配人、声は静め須臾して余の卓に参り「申し訳ない」と謝るが「ついお客さんがいるのを忘れていた」などと吐かし余の呆れ百倍。先程からバーで飲みアナタと何度も眼が合いダインに移っており何が「客がいるのを忘れた、だ」、客商売として非常にunprofessionalであるし店の中であヽも呶鳴り散らして非常に下品粗野、猛省すべし、と申し立てる。食事終り珈琲の美味さはいつも感心。退出時に何度か顔合わせ先方も当方をば認知せし黒服氏出勤し居合わせ、給仕の青年らは仲間内で「さっきアイツ(支配人のこと)あのお客さんに注意されてたんだよ、まったく」などと話していたからこの黒服氏にも何があったか通じていたのであろう、黒服氏いつにも増して余を客送りなどするから、店を出てから、あらためてあの支配人がどれだけ下品粗野であったかをこの黒服氏にきちんと説明。黒服氏も「いい人なんだけど感情的で」と庇護っているのか支配人の欠点を認めているのか。いずれにせよ香港の格式ある老舗であれはあるまひ。中環の街には聖ヴァランタインの節句祝う花束抱えた異教徒の恋人たち多し。スターフェリーで尖沙咀。文化中心にてヱイン・ショオタア(Wayne Shorter)のカルテットの演奏会。当然の如く日本ツアー後の来港。余にとってWayne Shorterは初めて名を知った頃はすでにアート・ブレイキイ楽団やマイルスとの共演時代も終りヱザアリポオトすらもう実質的に活動中止していた時代。つまり過去の演奏だけで今日に至る。Wayne Shorterもすでに七旬。今回のカルテットはDanilo Perez(P)、John Patitucci(b)、Brian Blade(ds)といふ三十も年若き奏者将いる。その奏でるフリージャズが新しいのか七十年代の同ジャズと異なるのかどうかすら余にはわからず、ただ耳慣れてくるとマイルスのBitches BrewであるとかLive Evilの頃の音色も彷彿、即興というのがあれは確かKind Of BlueのLPジャケットのライナーノーツだったか即興は東洋の禅僧の書に通じるものがあるといふようなことを確かギル・エバンスだったか記憶定かでないが綴っており当時それを英語でimprovisationなる単語すら解らぬまま辞書引きつつ訳して読んだもの。Wayne Shorterの演奏は本来の即興なのかイワユル「老人力」なのか少し分からぬ点もあるがいずれにせよ侘び寂びの域。今思えば一流のサクス奏者でありながら常にアート・ブレイキイ、黄金期のマイルスと巨人と供にあり、ジョー・ザビヌルと組んだオリジナルバンドのヱザアリポオトもジャコ・パストリアスといふ天才彗星の如く現れジャコの印象強まり……とつねに一流の奏者でありながら最大級に強烈な印象なし。寧ろヱザアリポオト以降のオリジナルのカルテットこそ達観の域に達したWayne Shorterの真骨頂のはず。それを初めて耳にして、和声を崩し微妙なズレを企図しつつ再構築試みる一連の演奏は確かに今になって思えばポストモダンそのもの。二十年前なら前衛と思われていたが今聞くと何処か不安定なる時代にフィットする感もあり。同じ演奏でもマイルスであればマイルス現れトランペット一吹きするだけで神々の管楽の調べの如く聞き手からウォーッと歓声上がるのに対してWayne Shorterは老成し枯れて確かに禅僧の如し。スターフェリーにて中環に渡り帰宅。本日、余のふとした電脳上の誤解にて月本氏に余計な誤情報供してしまひあらぬ驚き与え猛省。冷静に的確なる手段で事実確認せば判明すべきところ電脳のキャッシュなどに頼り冷静さ失い余も電脳上でのハイパーモードに冷静さ失っているのでは?と唯唯反省するばかり。この場を借りて(月本氏もよく酔った上でのことをネット上で謝られていたが)あらためてお詫び。神経衰弱か頭痛ひどく酒は断ち薬服す。せめてもの心憇めと荷風先生の日剰少し読む。