富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月初五日(月)晴。昨年ふと煙草を亦た吸い習慣的になってしまひ別に健康など気にはせぬが吸いたくてイライラする中毒症状が厭で元旦よりあらためて禁煙。休日気分なら煙草など気にならぬが日々の諸般雑事始まるとつい煙草吸いたく不愉快なる気分。煙草吸わぬと珈琲、甘味、酒の量が増え結局健康など程遠し。いまも「山崎」をば心地よく飲み続け日剰綴る。大西巨人神聖喜劇」第四巻第七部「連環の章」三百頁ほど読む。昨晩第三巻の解説(保坂和志)で知ったことは「神聖喜劇」なる書名実はダンテの「神曲」の原題“Divina Commedia”の正確な訳であること。成程。僅か三ヶ月の軍隊生活を原稿用紙四千七百枚にて物語綴り延々と、その軍隊における必要以上の教養と論理性、と逆なる幼稚ぶりと非論理性、この矛盾こそ軍隊そのものか。この小説ほど妙題も稀。
▼先月アメリカンエクスプレスよりカードにて所得税支払いは如何?といふ案内届く。税金支払いの為の融資ではなく単にクレジットカードで税金一括払い、ゆえ利息分カード会社に徴収されるワケでもなし、支払ふ側にしてみればこのカード払いだと納税の1月と3月の分割が1月迄の一括払いでキャッシュフロー上の負担も多少大きくはなるが、楽しくも嬉しくもなき税金の支払いにカード会社の指摘する通りせめてマイレージのポイントがつくだけでもまだ見返りあり。所得税ともなれば加算されるマイレージもバカにならず早速カードでの税金支払い実施。だが見当つかぬことはAmexなりカード会社はどこで儲かるのか、といふこと。まさか対政府にカード手数料で5%の請求もできぬであろうし政府とて手数料払ってまで民間依存する徴税業務に非ず。取引銀行の担当A嬢にこの点尋ねれば昨年すでにHSBCがカードの顧客相手に始めたものだそうでAmexはそれに今年参入とのこと。確かにこの仕組み通りではカード会社に利潤うまれぬのだがカード会社への支払い延滞の場合に金利発生するわけで、マイレージ加算などの旨みでついカード一括払いしたもののカード会社への支払いに困難生じれば延滞金利が発生、かりにカードでの納税者の5%でもそうしてくれれば十分に利ザヤあり、とA嬢。なるほど。
兵庫県警が相次ぐ警官の不祥事の防止のため家族や恋人など大切な人の写真をば携帯して勤務に当らせる、と(嗤)。「大切な人を思えばこそ、仕事もきちんとこなす」のが狙いだそうで、この写真携帯は義務、所持しているかどうかの抜き打ち検査までする徹底ぶり。写真は夫や妻、子どもや両親、婚約者や恋人でも構わぬそうだが、大切な人がビン・ラディン師であったり麻原師であったり、恋人が同性の同僚警官であったり、そういった場合どう対処するのだろうか。また妻の写真なぞ携帯させたばかりに妻の顔を写真で見るたびに「ああ、家になど帰りたくもない」と風俗遊びに走ったり、とか。こういった浅薄な発想する県警幹部も幹部だが「命をかえりみず凶悪犯に立ち向かわねばならない時に怯んでしまふ」とか「暴力団の組事務所で写真を落しでもしたら家族に危害が及ぶかもしれない」などと不安がる警官も警官。凶悪犯に立ち向かう瞬時にポケットの家族の写真が気になるってたらその時点で命などおとしているであろうし、「暴力団の組事務所で」といふのも暴力団で警察手帳から家族の写真を落すなどという状況ぢたい暴力団事務所のガサ入れどころか事務所のソファで茶飲み話だろうか、とても家族に危害が及ぶとも思えず。
週刊読書人(十二月廿六日号)の〇三年思想界総括する鼎談。ネオリベラリズムの風潮に乗っている人たち自身が「自分たちが何をしているのかをあまり理解していない」といふ指摘あり。これは小泉三世もその象徴で姜尚中教授の指摘するように小泉といふ人は自分のしていることの戦後政治での重大性を全く理解しておらぬこと。鼎談で指摘されているのは、この人たちのナショナリズムが戦中派までの体感とは異なる「習い覚えた古い愛国教育のボキャボラリーで動いていたりステレオタイプ的な戦後批判のジャーゴンで自己理解」しているような点。例えば、曾て戦後教育批判する際に「受験教育で競走ばかりさせられている」と言われていたのが今では戦後批判する輩は「戦後は平等社会で競走がないからいけない」と宣い、戦後教育=日教組に牛耳られた教育は共産主義的平等主義で全員手を取って一緒にゴールさせる点が非難されるがルーズ・ベネディクトが『菊と刀』で指摘していることは戦前の日本の教育が競走を極力排除し生徒が他人と自己とを比較せぬよう極力画一的なる教育が施されそれが日本軍の軍人に性格に顕著である、と。つまり画一的なる教育は戦後の日教組の産物ではないはずなのだが、批判することが目的ゆえその批判材料など如何様にでも利用できること。これは小熊英二君が戦後思想での徹底的な分析がすでにあり。