富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月十一日(木)晴。気温十七度と肌寒し。今週末に競馬は香港国際盃あり月本氏はじめ日本から知古の来港の方少なからずその報せ頂く。毎年こうして諸氏にお会いできるのも競馬の楽しみ。昼に某氏に誘われ銅鑼灣の日本拉麺横丁。某氏北海道旭川山頭火所望され昼時ではもう満席と昼前に訪れるが十一時半の開店ですでに満席の模様。その客が食べ始めるところで回転悪く暫く待つ。人気は塩らーめん。確かにじゅうぶんな味と麺のコシだが余は並んでまで拉麺を食さむとは難儀。繁盛の店もあれば客足寂しい店もありさすがに昼の繁忙時間ともなれば他の店の行列に呆れた客空いた店にも流れかなりの混雑。いずれにせよ余はテーマパーク的な空間が苦手。休刊まであと三号となった『噂の真相』届く。かつては二十年以上も前か書店で『噂真』誌、文藝春秋中央公論、世界といった総合誌の棚に非ず『スパイナー』や『薔薇族』といった好事家誌の棚にあった頃もあり。多少購入も羞ずかしく家でこっそりと読む。世の中アホになるにつけ『噂真』の主張の真っ当さ評価され始め画期的なるは東京高検前検事長・則定衛君の醜聞でそれまで『噂真』なるブラックジャーナリズムなど無視されてきた媒体が朝日が一面トップにて「月刊誌『噂の真相』によると……」とリードに書いたことで『噂真』がメジャー誌となり、これをもって岡留氏が噂真の経営上はよくももはや反権力誌としてのアングラ性欠けることで休刊決意するも理解に易し。それにしてもあと三号と思えば一頁一頁が貴重、一行情報とて至宝の如く感入るばかり。岡留氏の編集長日記読み氏の筆致、殊に見事な句点の作法など今となってあらためて敬服。テレビのニュースにてイスラエルにて反イスラエル派による無差別爆弾炸裂。被害者としての重傷の市民の悲惨さ映るが市民巻き込むといふ点で虐たらしくも被害者も現イスラエル政府成り立たせる有権者であるという点ではパレスチナの民にとっては加害者の一員でもあり。つまり日本とてイラク派兵となればその派兵実行する国家の有権者として日本人が無差別「テロ」の被害者となる可能性も高まるは当然。そういったリスクも承知で国民はイラク派兵に挑む政権をば支持しているといふ覚悟ありやなしや。
▼サッカー選手中田英壽君のサイト。世界に名をば馳せる中田君ゆえサッカーでの印象よりかなりクールさ想像するがサイトに掲載される日記一読すればそのクールな容貌とのギャップに驚くばかり。引用したきところ「本サイトに掲載されている記事・画像等の無断転載・引用・借用等は堅く禁止いたします」と引用すら禁じられ、ではどういふノリかといえば話題は「みんな甘いものって好きだよね〜。僕もそうだけど、とくにチョコ。たまらないよね、もうビックリマンチョコには目がないんだ〜(笑)」といった様。まぁ個人の性格にとやかくはいわぬがファン期待するは当然中田君のサッカー試合に対する文章だがこれも「先週のニュージーランド戦。みんな見てくれたかかな? 何よりも自分がノートライだったのが残念。でも見てくれた人はわかるだろうけどオールブラックスってさ、ほんと壁だよ。(笑) リングの中であの壁にぶち当たるって感覚、わかるかな? それと試合してて痛感したのは、やっぱり世界で一流のチームってフォワードはもちろん強力だけど何といってもセッターがいいんだよね。確実に第四コーナーまわって直線に入った瞬間に内ラチの「ちょっと、そこから来るかよ〜」(笑)みたいなところからトスしてくるんだ。あれってやっぱり勉強になるよ」の如し。世界の一流選手とは思えぬ中田軽薄調は個性。数ヶ月前に『噂真』誌にてこの日記揶揄され余も初めて読んで唖然、以来時々覗くが期待裏切られること皆無。十二月八日の「冬、到来」も白眉。冬のファッションや入浴の愉しみ、知人の選手の子供のことなど話題はいたって尋常ながら、それが中田軽薄文で「だよね〜」(笑)(苦笑)最高!! で続く筆致。まぁ普通に読めと言われれば読むが、中田君らしさは写真の趣味。部屋に飾るお気に入りの写真の話題だがミラノでもギョーカイ筋で有名な“Corso como 10”で迷いに迷って購った写真はMary Ellen Mark撮影の男の子と犬が遊ぶ写真。Bruce Weberもお気に入り。ウェーバーなんて二十数年前に当時東京では青山のギャラリーワタリとか オンサンデーズ、渋谷のパルコの書店とかに写真集が並んでたよね〜(って中田文体)……ってそういうノリか、中田君にとっては。素人さんなら知らぬ写真家の名前見て「さすがヒデくらいになるとサッカーだけじゃなくて写真とかも詳しいんだな。俺なんかサッカーしてるばっかりで写真だって篠山紀信アラーキーくらいしか知らねぇもんな。やっぱ違うなぁ」で済ませてしまふが、写真に多少の造詣あればMary Ellen Markは傴僂など奇形、サーカス芸人の小人など「かなり」な被写体をば独特に撮る異色の写真家。中田君曰く家には写真や家がたくさん飾ってあるのも綺麗で好きな物に囲まれているのが気持ちいい、といふが男の子が犬と遊ぶ姿とはいへMary Ellen Mark選ぶとは。「なんだ〜」「だよね〜」でこの二人の写真家語る中田英壽。すごすぎ。確かに逆から見えば写真が趣味とは誰でも言えるが部屋に飾ってあるのが日本サッカー協会のお偉いさんから「中田君もこれくらいの写真を飾りたまえ」と譲られた浅井慎平であったりマガジンハウスから寄贈の『ターザン』誌の写真額だったりしたら中田君の感性に幻滅するであろうかも。そして、ここまで「うーん」と唸るほどの写真談義のあと、ここがまた中田君らしいが最近はミカンが美味しい季節になってきたから(……とここで(笑)が入るのがよくわらかぬが)ミカンでも食べてそろそろ寝よう、と結ぶ。これは日記文学上の革命なり。誰もマネできぬ世界。個人サイトでは日本でも有数のヒットサイトだといふが事務所とかこの日記の検閲はせぬのだろうか。これが中田君の「売り」という寛大さか、何もわかっておらぬのか。いずれにせよこの中田ワールドが続くことを祷るばかり。