富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月九日(火)曇。日刊ベリタのS氏来港され夕方S氏と初めてお会いし記者倶楽部の酒場。ベリタの運営につき口はさむ立場にもないが英国のTrust団体であるとか米国のNational Geographicの如く興味もつ者が毎年会費払い記事提供や閲覧を続けるような維持の方法は如何なものかとご提案差上る。S氏より香港の殊に日本占領期や政治問題につき健筆揮はれる和仁廉夫氏から余の日剰の記載につき話題に上ったとお聞きし和仁氏にご覧いただいていたとは嬉しいかぎり。雑誌『世界』に書かれたSARS総括の文章や週刊香港に書かれる歴史モノなど和仁氏の記述はいつもじっくりと読むべき内容。萬宜大厦の上海料理・小南国。香港ポスト編集長S女史いらっしゃり、香港が中国の支配下でどのように政経、人権、自由といったものに変化あったが日本の関心なれど、例えば具体的例として人口がほぼ同じ香港と大阪を比べた場合、地方自治として自治体の自治の権限で見れば香港は大阪を遙かに陵駕、報道の自由とて英字紙South China Morning Post紙が親中派財閥の傘下となっても中国政府に批判的な報道もあり、英国BBC的に公営放送体である香港電台(RTHK)とてNHKと比べてどちらのほうが時の政府与党に手厳しいかといへばRTHKである事実。董建華とてかなり愚政と非難されるが北京政府より経済優遇賦かるだけでも功績もあり、SARSの時の納税者への還付金とて現金払いであるだけ日本の地域産業復興意図した地元の商店街での、老人と子どもだけ使用可の現金券よかよっぽどマシ。マカオとて都市規模では四日市市程度であっても財政基盤の大きさでは三重県なみ。そういった「実数」で見た場合、香港の中国統治での「惨澹たる様」見るのは日本側からの「香港はこうあるべき」なる共同幻想にて、他所のこととやかく眺め、イラクに派兵などすることより日本のひどき様を直視することのほうが大切ではなかろうか……などと鼎談。帰宅する途中の車内でネタ妄想続け帰宅して〆きり一週間誤解していた週刊香港の連載原稿書く。麦酒、ヰイスキソオダ、紹興酒飲んでからでも原稿書けるのは余の才能か、はたまたアル中の進行か。
▼昨日のこと。訪米中の中国首相温家寶君、紐育にて証券取引所訪れ、来賓だの上場企業主だの恒例の朝の取引開始での小槌叩き。温首相、それを済ませ拍手したまではいいが中国要人らしく拍手し始めれば笑顔にて証券取引所のなかを見渡し拍手続け温首相の周囲の者も拍手続けたが傍にはべる証券取引所の高官らしき米国人の表情に多少の引きつりあり。だが温首相の拍手続き証券取引に従事する者らも拍手続け、有線テレビのニュースでの実況生中継は余りに変化なき拍手続く場面に痺れきらせスタジオにパン(笑)。人民代表大会ぢゃないのだから鳴りやまぬ拍手はいけない。あれで証券取引、何億か損じたのだろうか。やはり資本主義のルールご理解されておらず。和やかなる光景。
▼築地のH君夕方のテレビ中継にて首相小泉三世の演説眺めておれば小泉三世曰く「日米同盟と国際貢献をいかに両立させるかが、わが国の安全にとって不可欠」と発言。ぼんやりと「小泉さんも日本が普通の国としてやるべきことやるのに大変だねぇ」なんて思ったら大間違い。H君ゆえ即座に「日米同盟と国際貢献が二律背反の命題であることを認めた」と読解。御意。本来、小泉君らの主張は日米同盟=国際貢献のはず。それを両立させるか、と宣うことぢたい日米同盟と国際貢献がじつは相反する二つの異象であること暗に証言しているが如きもの。本音か。いや結局、小泉君ではこのような命題がわからぬか。それにしても小泉三世「イラク派兵は憲法の崇高な理想に合致」などとよくも勝手な解釈を。改憲所望するのなら現行憲法の崇高な理想などと口にするべからず。違憲という主張ぢたいは思想信条の自由だが、立憲国家の首相たる者、本来、個人の考えは別に現行憲法あらば国の最高法規たる憲法に従い国家運営に当る義務あり。それを勝手な解釈にて違憲行為も全く平気のへの字。この小泉純一郎なるヒトの存在ぢたいが違憲(笑)。
▼同じくH君より報せ。岩波の『思想』11月号巻頭論文で上野千鶴子先生が樋口陽一先生批判。おフランス流の近代人権思想はジェンダーを排除しており普遍思想ではありえない、というような趣旨。ジェンダーの問題があるのにジェンダーがないようなフリをして済ます、つまり抽象的な「人間」を普遍的なモデルとして取り出しているが実際はそれは人間=Homme=男性を暗黙の準拠枠としている、というような……とH君。それを聞いて余はこの上野先生の批判、なぜ日本のリベラリズムの牙城ともいふべき樋口陽一先生を敢えて批判しなければならぬのかつくづく理解もできるところ。結局、フランス的な思想の色気……抽象的すぎるから具体的にいえば例えばフランスの志楽大統領の色気、あのダンディズム、なぜ相撲が好きで霧島がいいか、の様式美、長谷川一夫、デュヴェルジェ教授の薫陶……そういったもの共通項としての樋口陽一先生の知的な色気。Femmeでは介入できぬジェンダー上野千鶴子先生とか一生懸命にジェンダー超えたところでやろうとしているのにリベラルでもっとも崇高な位置にある憲法学者が「あれぢゃ」femmeからしてやっぱり「ちょっともう、どうにかしてよ」って感じ……と余は感じたが、H君それを受けて、近代主義フェミニズムの齟齬、と。本来、近代主義ジェンダーをこえるべく努力しているようでいて究極的なところにhommeという他者排除的なジェンダーの見え隠れ。逆に小泉三世であるとか安倍三世、福田二世、石破二世などジェンダー以前の問題(笑)、実に素直なお子ちゃまたちか。
天皇誕生日近づけば台湾にて天皇誕生日祝賀の会開催につき中国政府が非難(朝日)。てっきり中国から見て日本軍国主義の象徴たるべき陛下のご生誕など中国人として台湾も祝うべからず、といった趣旨かと思えばさに非ず。反天皇制の意味でなく天皇誕生日祝賀会の開催は財団法人交流協会=外務省=日本政府が台湾を国と見做す国家的レセプション、と中国側。だが中国でもすでに日本大使館にて開催の行事。香港でもずっと開催されてきた行事であり、台湾も中国の一部なら香港と同じく理解すれば開催も許容範囲か、とも思うが、香港総領事館は在中国日本国大使館の下部組織であるから開催は可、だが台湾はそうぢゃないから×。なるほど。ところで香港で共産党政府傘下の新聞・文匯報は在香港総領事インタビュー含む天皇誕生日記念しての日本特集ページ発行とか。在港の各社に協賛広告募り広告収入得るのが目的の、よくありがちな各国特集で、通常は独立記念日であるとか君主国の場合は君主の誕生日をそれに当てる。日本なら建国記念日ぢゃなくて天皇誕生日。畏れおおくも陛下のご生誕をば祝賀と称し経済的利潤獲得に利用。それも封建的君主制打倒し共産主義社会実現をば意図する共産党政府の系列紙が……何たる思想的矛盾。