富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月初五日(金)快晴。晩に鯛と大根の煮物、ちょっと大きなシメジの如き茸のバタアソテイありZ嬢に尋ねれば「えりんぎ」といふ泰西の菌類だと。エリンギなる音が何かと思えば拉丁語名Pleurotus Eryngiiと云い拉丁語のEryngiと識る。日本語では別名、白鳳茸や味が鮑に似ており鮑茸、中国語では杏鮑?、仏語のBlanc du Paysは荷風先生ならさしずめ「鄙の細白(ひなのさいはく)」とでも訳すだろうか……我ながらBlanc du Paysを鄙の細白は久々の妙訳かも。晩のニュースなど見ればトップニュースは香港上海匯豐銀行(HSBC)にてこの世界第二の規模誇る銀行のインターネットバンキングにてwww.hsbc.comに対して偽のwww.hkhsbc.comなるサイトありデザインまで本家と瓜二つ、ウッカリここでログインしようものなら賊に口座と暗証番号識られ本当の自らの口座から盗金されるといふ単純だがなかなか面白き手口。幸い未だ被害はなし。最近面白いと評判のテレビのTVBはPeral局で土曜日放映のQueer Eye for the Straight Guyなる番組、何度か土曜の晩で見る機会逸しZ嬢録画したのを見る。紐育舞台に5人のゲイの青年、それぞれ料理やインテリア、ファッション、教養といった分野の専門家、目利きにてセンス良し、が視聴者のストレートの男性でどうも不精であったりセンス悪く恋人もできず、のそれをこの5人のエキスパートが自宅に押入り徹底的な模様替えから本人のファッションまで弄りまわして徹底的にセンス良きキャラに仕上げて、その成果で夢が叶うかどうか、つまり恋人ができたり就職できたりの可否を見るのだが、ありがちな専門家によるお宅やファッション、髪型大改造番組ながらオカマの視線で見たセンスの良さ、その5人のオカマのべっしゃりの上手さなどで確かに笑える。だが今夜も一人の若い男が彼女に婚約叶うのだが結局、すべて他者によって演出された虚像の世界、しかも一流のショップとのタイアップでの商品宣伝番組と思うと胡散臭さ。
▼刑法について堅苦しき法律に意味深い点あり。中学校長(60)が16歳の卒業生の男子を自宅マンションで「このままでは精巣ががんになる。触って治してやる」などと言い少年の下腹部を手で触る「など」した疑いで逮捕(讀賣新聞)というのも困ったもの。この校長少年がまだ在学中の昨年7月から母親の許可までとり少年を「個別指導」と自宅に招きその数今年十月まで150回に及び宿泊もあり。この「精巣癌治療」も含め(「触って直す」って心霊治療か)何故この少年がこれまで150回も訪れたのか。法学的に気になるのはこれが「準強制猥褻」といふこと。何が強制猥褻で何が準かといふと刑法に依れば強制猥褻は「十三歳以上ノ男女ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ以テ猥褻ノ行為」であり(それぢゃ十三歳以下には何をしてもいいのか?とマイケル容疑者のようなこと考えてもちゃんと同条に「十三歳ニ満タサル男女ニ対シ猥褻ノ行為ヲ為シタル者亦同シ」と規定あり)、で問題の「準」強制猥褻だが「人ノ心神喪失若クハ抗拒不能ニ乗シ又ハ之ヲシテ心神ヲ喪失セシメ若クハ抗拒不能ナラシメテ猥褻ノ行為ヲ為シ又ハ姦淫シタル……」と。少年の拒否不能といふのは「校長が高校進学での便宜とか持ち出したので止めろ!と言えなかった」とかいう意味での外部環境、条件的な意味での拒否不能ではなく、例えば「よくある」のは熟睡や泥酔状態で拒否反応ない場合での勝手な悪戯、医療行為であれば麻睡施された場合などだが、築地のH君の指摘では、麻睡など施されずとも医者が診療と称し猥褻行為に及んだ場合この準猥褻が適用あったのでは?、と。すると今回は診療と称した虚偽だが被害者が診療と信じたことでこの「準」適用か、と推測できるが、「準」適用の場合、被害者が精神薄弱で判断ができぬ場合などもあること一考に値す。いずれにせよ強制でも準強制でも強姦でも加害者の罪は同じ。この準の規定は被害者が拒否しなかったことが容疑者の不利にならぬための条文。法律の(といってもイラク特措法などではなく)古典的なる法のじつに味わい深さ、意味の深さ。
▼同じニュース棚に並んでいたが、同じく少年に対する痴漢行為で警察庁鑑識課課長補佐(59)が捕まる。中央線車内で容疑者は「都内の少年の下着の中に手を入れる「など」猥褻な行為をした疑い」(毎日新聞)だそうだが、前述の校長先生といいこの鑑識課課長補佐といい公務員が定年間際でいきなり人生最大のカミングアウトか……。この場合、こちらは上述の強制猥褻が適用されず都迷惑防止条例の「何人も人に対し公共の場所又は公共の乗物において人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑猥な言動をしてはならない」に違反。どこからが猥褻でどこまでが迷惑(羞恥や不安)なのか素人にはよくわからぬが、強姦等の猥褻行為の場合、明らかな拒否を圧しての暴力的行為に対して、で、迷惑条例適用は拒否の姿勢も見せられずで痴漢主は「この子拒否しそうにないな」という状況かと理解すれば、その猥褻と迷惑の差もわからぬでもなし。下手な犯罪記事よりも適用される刑法によりかなり具体的な背景だの状況理解できるのは刑法の面白きところ。それにしてもこの記事の「都内の少年の下着の中に」の「都内の」が可笑し。一瞬、車内、の間違いかと思ったが。べつに都民でも千葉県でもいいのだが。この鑑識課課長補佐が「都内の」少年の鑑識がお好みであったわけであるまひ。