富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月朔日(月)薄曇。晩にNHKで今日が地上波デジタル放送開始だかで記念番組。朝から続く記念番組も終盤、もうネタもなく世界文化遺産と無理矢理に地上波デジタル結びつけ余りの内容の浅薄さに唖然とするばかり。出てくる芸人だの司会だの東大教授だのコメントといえば地上波デジタル放送での「無限大の未来」だの「これまでに実現不可能だった創造性」だの「私たち人類が体験したことのない映像空間」だのと陳腐な言葉が並ぶばかり。生放送でとにかくその言葉の使いまわしだけ。司会の松平定知君の表情にも、それでなくとも本音の感情が顔に出てしまうことで使いづらいと局内では定評のアナだが「馬鹿野郎、こんなネタもないのにコメント続けさせるなよ、映像ないのかよ映像」と顔にしっかりとコメントが(笑)。大阪万博岡本太郎が訝った虚ろな進歩主義へのアンチテーゼを思ふばかり。
▼ここ数年、本の乱読ならまだいいが乱買続きさすがに書棚に未読の書籍積り始め真剣に書籍購入をば控える必要あり。だがそういう時にかぎって読みたき書籍上梓されるもので例えば平凡社の『植草甚一コラージュ日記1』がそれ。晶文社から同氏の『スクラップブック』が出たのがもう28年も前!、当時とても買う余裕なく書店で眺めていたもの、それが今回、平凡社からの出版。銀座にあったイエナ書房で、余はちょうど天賞堂からでも出てきたのだろうか、イエナ書房のまえで烟草を吸うためか路上に本を持ち出して立ち読みに耽るJJ植草氏を一度だけ拝顔。それから一年だかで逝去が79年。今にして思うと、かなり老成されていたがJJ氏享年71歳で若者の間で評判になった当時はまだ六十代だった、と今になって理解。七十年代までのいい時代。今のようにインターネットもPCもなく、情報は雑誌や本屋で漁り喫茶店で頁をめくり友と語らい面白き教養を得ていた時代。その時代といえば、週刊読書人(12月5日号)に『パンタとレイニンの反戦放浪記』彩流社の記事あり。パンタといえばお若い方はご存じなかろうが反体制ロックバンド頭脳警察のリーダー。全く存じ上げなかったがこのパンタ氏らが二月に米国のイラク侵攻に反対するため進右翼一水会木村三浩氏を代表として、副代表に元赤軍派議長の塩見孝也氏と一水会鈴木邦男氏、それに新宿ロフトの平野悠氏ら錚々たるメンツでイラクに滞在されていたとは。この本はパンタ氏と元新左翼運動家レイニン氏の旅日記。何より驚いたのはパンタ氏がすでに五十半ばであること。当然なのだが、この記事にも載せられているパンタ氏の写真が、それが頭脳警察の時代より更に若く、少女漫画から抜け出てきたが如きギターを抱えた長髪の美少年、そしてイラクでの写真がアラブの民族衣装を纏った容姿が顔もまるでリビアのガダフィ大佐の如き大人ぶり。時代の流れを感じ入るばかり。
▼日本からは遠く、単に米国の派遣の意図に任せてのイラク派兵がさも重要なことのように審議され、それと北朝鮮ばかりが焦点となるが、実際にいま慎重に眺めるべきは台湾問題。台湾が中国側が謂わば容認している実質的な主権体としての現状維持から一歩踏み出すための公投(国民投票)が政治日程に挙がったこと。与党民進党および李登輝の台聯など独立派はこの公投にて国名、国旗国歌の変更の是非を国民に問い台湾独立をば勝ち取る算段。野党国民党、親民党などはその独立をばする日が中国が台湾に攻め込む日と台独の動きを牽制するが、独立派にしみてみれば米国の覇権強まったこの時期、米国には台湾関係法をば立法化した強力なる台湾ロビーあり、中国も米国の反発喰らってまで08年の北京五輪を控え台湾侵攻などできぬという安心感あり、前総統李登輝君が台独の象徴として君臨するこの機を逃して台独なし、という積極的姿勢。公投に関しては野党の尽力功を奏し公投の内容をば国名変更など含めぬ憲法の条文改正や原発などについてのみとしたものの、与党側は公投をば来年の総統選挙に同時実施し阿扁総統の続投勝ち取り台独に向けて加速したいところ。当然、中国はこの台湾の動きに強い不満示す。本来、日本は立場的にこの中台問題に何らかの役割果たせる立場ながら表面上は北京政府の内政問題という前提に従うばかり。事実上は中台それぞれの政府財界要人らに予約なしで口のきけるような、かつてなら政治家なら保利茂君、灘尾弘吉君、財界なら岡崎嘉平太君といった先達が今はおらず、ただ中国の意向に従う連中か単に反中国での台湾贔屓多き現状では日本は何も出来ず。だがイラクよか、中台の緊張は日本への打撃大きく本来もっと深刻に検討されるべきこと。
▼ところで信報が常識ある書き手揃えるなかで何ゆえに台湾の、というより中華民国の老ジャーナリスト、陸鏗君をばああも多用するのか理解できず。現在サンフランシスコ在住の陸君はもともと大陸生まれの外省人にて当然のことながら台独に動く李登輝民進党など大嫌い、台独は中国の平和的統一を阻害、台独は中国の台湾侵攻をなさせるばかり、と警笛ならす陸君の主張に一利あり、だが、台湾でもすでにジャーナリスト生命の終わった、ゆえにサンフランシスコに隠居する陸氏を今さら信報が台湾問題の権威として扱うことには疑問。主張は反李登輝、反民進党で余りに単調、とくに読むに値する論拠もなし。
イラクでの日本外交官二名の殺害。朝日は「米英主導の占領に反対する武装勢力によるテロ」で社説では「イラクを愛し、危険も顧みずに身を粉にして働いていた人たちが、なぜ殺されなければならないのか。事件は余りに痛ましい。どんな理由があろうと、犯人を絶対に許すことはできない」と。確かに「人道的見地でイラク復興に携った外交官の死」は惨い、だが、殺された外交官の「米軍襲撃が絶えないファルジャール、ラマディなどイラク西部から過激派が南部へも出撃しているとの情報がある」から「この地域に援助を投入し民生の安定に役立てたい」(朝日)という発想、民生向上のための非軍事的援助とはいえ結果的には米軍のイラク統治の後方支援というとらえ方も可。喩えは幼稚だが同じ中学校の三年生の不良グループが隣り町で悪さ仕放題、で同じ中学の1年生が「ぼくたちに何かできることはないだろうか?」と考えて隣り町の道ばたで清掃活動したら隣り町の不良に「てめーらアイツらと同じ中学の学生だな」と暴力振るわれたようなもの。「ぼくたちは何も悪いことしてないのに」と思っても相手にしてみれば同じ中学であるだけでじゅうぶん。この外交官が外務省HPの省員近思録にイラク便り掲載しており、この事件でこのサイト取上げられ省員近思録といふ普段は余り目立たぬコーナーながら外務省トップページよりリンク可、さすがに今日は閲覧も混雑の様子、朝日の天声人語も「強い使命感を帯びて日々励んでいたことが、痛いほど伝わってくる」と。こんな立派な人が、という多くの国民の感想は朝日の記事(こちら)であるが、見方変えれば日刊ベリタが伝えるこのイラク便りは「CPAを通じた人的協力に参画中」と自らを紹介し米国の対テロ戦争に同調し米英主導の復興支援にどれだけ積極的な支持を見せる外交官であるか、という面もあり。朝日の社説のように短絡的に「イラクを愛し、危険も顧みずに身を粉にして働いていた人たちが、なぜ殺されなければならないのか。事件は余りに痛ましい。どんな理由があろうと、犯人を絶対に許すことはできない」と感情的正論に陥るべからず。読売は社説で「テロに遭った可能性」が高いが「ひるんではならない。自衛隊の派遣をはじめ、日本のイラク復興支援が後退することがあってはならない」と当然の政府支持。何も思考しておらず。それに対して産経が「イラク戦争大義があったかどうかの議論は簡単には済まないだろう」と一瞬「ほーぅ」と産経の見識に期待するが、だが「イラク戦争を招いた責任はフセイン元大統領にあった」のであり「大量破壊兵器はまだ発見されていないが、それを持つ意思があったことは確実だった」って(笑)それぢゃムラムラとしただけで強姦罪覚醒剤ってどんなに気持ちいいのだろうと想像しただけで麻薬取締法違反になってしまふ……と無理矢理に「イラク国民の多くはフセイン独裁政権の暴虐から解放されたことを歓迎している」と、だからそれがイコール米国のイラク侵略統治への支持ではないのだが、強引な論法。その上、自衛隊派遣が徐々に難しくなることに対して「小泉首相の戦争支持も、総合的な安全保障や国益の観点からのものであった」と弁護した上で「米英軍などの占領は領土獲得が目的ではなく、治安が回復されれば撤退する性格のものであること、いま手を引けば、日本はテロに屈して計画を取りやめる最初の国となり、テロリストたちに勝利を与えるのみであることなども考えなければならない」と。だからどんなことがあろうと日本はイラクから撤退できぬ、のが産経。日本が自衛隊派遣を取りやめても大勢に影響もなければテロリストもそれで勝利を得たなどとは理解もせぬのだが……自意識過剰(笑)。さらに「一部にはまた、イラクでのテロは、テロというよりレジスタンス(抵抗運動)だという議論も出ているが、テロリストたちの卑劣な暴力を正当化しようというもので、論外である」と捨て台詞も忘れず、さすが産経。いずれにせよ殺された外交官本人に「イラクを愛し、危険も顧みずに身を粉にして働いていた」意識があろうとも米英の正当性なきイラク征伐、占領統治にあって、それを支持した日本政府を代表してイラクにてCPA(米英占領当局)との連絡調整にあたる外交官という立場考慮すれば血も涙もなき「テロリスト」に狙われたことは偶然に非ず。ところで「日本の新聞を読んでいても世界が見えぬ」と言ったのは宮沢喜一君だったか竹村健一君だったか信報はこのイラクの状況を「11名駐伊非美籍(米国籍)外国人遇襲喪生」とここ数日で二名の日本政府外交官、七名のスペイン情報部員、二名の韓国籍従軍者が狙われたこと取り上げ、イラクでの反米闘争が対米だけでなく親米国家に拡がったことを強調、また日本人外交官の殺された場所ティクリートフセイン君の故郷であり殊に抵抗運動が盛んであることなど短い記事で的確に報道。これを読むほうでイラク状況が感情に流されずかなり客観的に把握可。ちなみに蘋果日報にはAFP電で霊安室?に放置されたお二人の外交官の惨い遺体写真(上半身裸で顔面傷多くお一方は手をホールドアップしたようなまま)掲載あり。日本の新聞は家族の悲しみを気遣って、か掲載なし。イラクの戦時的状況がどれほど劣悪か理解するためには遺体写真は報道されるべき。フセインの二人の息子の遺体とて死化粧まで施した写真が掲載されたのだから。だが当然、この悲惨な写真出れば自衛隊派遣に疑問の声高まるのも必至。
▼余のお恥ずかしき毎度の誤記、或る方より11月1日の記述で石原慎太郎君を直木賞受賞、と記載ありとご指摘いただく。確かに芥川賞の間違い。確かに直木賞は新人も対象となるが基本的にはすでに傑れた大衆文学作品を書き続けた作家への授賞。先生はかなり寡作であるが(こちら)『太陽の季節』の次は96年の裕次郎追悼本『弟』が印象に残る、という方も少なからずや。