富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月廿九日(水)晴。昨晩遅く読了の“Sarah”に続けて“the heart if deceitful above all things”読む。Sarahの散文に比べずっと小説っぽく列挙された事実が現実問題となる。映画“Ken Park”彷彿。映画“Seabiscuit”見る。月刊『ハロン』のS編集長は海外へ行ってでも早くみたいと言うほどだし月本裕氏も忙しいのに一昨日の東京での試写会で見て、と皆さんの熱意。それに対して余は先月から香港で上映され巴里でも“Pur Sang”の題で銀幕に掛かり、いくらでも見れる状況で見ておらず深く反省し漸く場末の映画館にて鑑賞。1920年代。米国が自らの夢を叶えることが未だ他人の迷惑にならなかった美しき時代。日本が支那にて泥沼の侵略行為続ける頃に米国で国を挙げての喝采が名馬War Admiralに対するSeabiscuitの挑戦だったてんだから日本が米国に戦争で勝てるはずもなし。役者もいいが何といってもSeabiscuit役の馬にアカデミー賞最優秀男優?(牝優賞か)、そして誰よりも名演はWilliam H. Macyの巧妙な競馬実況中継アナ役(日本なら小沢昭一であろう、あれができるのは)。自分の競馬に足りぬものは馬への愛であると反省。帰宅してテレビで競馬中継参観。複勝が二つ入ったのみ。“the heart if deceitful above all things”読了。LeRoyの短編いくつか読む。
島田雅彦先生<無限カノン>三部作完結させ天皇制について語る(朝日)。陛下のお言葉の節々に見られるように「皇室は憲法擁護の立場」なのだが、それに対して今日の政治的状況は政治家が国家主義的で国家の体裁を示すために軍隊を有したがり改憲につながっている。世界が小さな国家意識を越えて普遍性を目指す時代だからこそ日本国憲法が生きる、と島田氏。だが、だからといって「皇室も平和を愛するならばダライ・ラマのように国際的平和活動に奉仕することができるのではないか」というのはちょっとねぇ。陛下が護憲派であることは紛れもない事実、陛下の臣たる保守政治家が陛下の御意志を軽んじ改憲とは不敬千萬のはずなのだが、その矛盾には「改憲主張する親皇派」の保守政治家自身もマスコミも触れず。この矛盾は先帝の三島嫌悪と三島先生の先帝に対する歯痒さに象徴されるもの。
文化功労者に選ばれたイスラム中東研究の板垣雄三先生(東大名誉教授)。昨晩の報道でも確かにいわゆる「受賞の喜び」にしてはかなり重い発言で「日本人がイスラムに目を向けるべきだし、自分もそのために役立てれば」と耳に残ったが、多摩のD君より、この板垣先生『インパクション』だの『情況』といった雜誌の寄稿者としては初の文化功労者では?、と。9-11の直後に『インパクション』に掲載された「ニューヨークがアフガニスタンに接続する理由」は今でも、というより今だからこそ必読。あの9-11直後の懸念が現実となる。今回の受賞は曽野綾子先生と同時でバランスがとれたのかも(笑)。といいつつ確かにD君の指摘通り曽野先生もイラク戦争には批判的。