富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月廿五日(土)晴。殆ど使わぬマンション付属のクラブハウスの退会手続済ます。昨年の引っ越しも落ち着いた晩秋に眺めば肌寒きなか早朝より泳ぐ人多くてっきり温水プールかと思い入会手続せばさに非ず寒中水泳にて春を待ち利用したものの月に一、二度程度では勿体ない限り。昼前に銅鑼灣。Boseの直営店にてheadphoneのQuiet Comfort現品試す。驚くほどの周囲の雑音の消去ぶりに唖然。但し現品は初型にて新型は来月中旬入荷、と。すでにこの店だけで20名ほどの予約者あり。昼に中環。FCCにて海南鶏飯食す。競馬予想。馬主C氏のDashing Champion観戦できぬ残念。パリの写真焼き伸し受取り、中環場外で馬券購入。旺角。九龍某所で高座あり。早晩にZ嬢と尖沙咀にて待ち合せペニンスラホテルの酒場。独逸麦酒一飲。尖沙咀には北京道一號といふ高層ビル出来て周囲の様子も一変。Z嬢とCitysuperへ。Z嬢は何故かオリエンタルカレー好きで香港にもオ社のカレー店出来たそうでZ嬢試食所望。Citysuperのフードコートにて探すが見当たらず同じCitysuperの経営する広東道向いのビル地下のフードコートでは?と行ってみればオリエンタルカレーあり。カレー食す。当然「あの」パンチなき昔のカレーの味というか、色だな、あれは。香港文化中心にてレニングラード・フィル、元へ、聖ペテルブルグ・フィルの公演。どうしてもソ連時代でレニングラードって味気ない名前なんだけどやっぱり一流のすごいオケってのに郷愁感ず。突然、なぜ香港にYuri Temirkanov将いる聖ペテルブルグかといえば当然、日本公演(日テレの03年秋ロシア芸術祭だか)あり17日までサントリーホールでの終えての来港。よくあることだが日本で興業終えてたんまりギャラもらって帰路香港でお買い物&食の堪能で公演も一二晩といふやつ。いずれにせよ香港に単独でこういったオケ来ることなど考えられず素晴らしい機会。これで一流の音楽会場あれば言うことないのだが香港文化中心の音響の悪さは今更言う必要もなし。ムソルグスキーの「モスクワ河の夜明け」にてさらりと余裕の始まり。チェロがNatalia Gutmanでドボルザークのチェロ協奏曲。Gutmanは一流のチェリストでも例えばアントニオ・メネシスや(好きじゃないが)馬友友とか楽団がどれだけの音を鳴らしてもそれに負けぬソリスト性に比べGutmanは悲しいかな音量は秀でず。ゆえにチェロのソリストを迎えた時に一歩禅り伴奏に徹する楽団であればいいのだろうが、聖ペテルブルグともなれば楽団の力量もそうだしTemirkanovも愛する我が楽団を遠慮なく鳴らしてしまふからGutmanのソロは活きず。それでも技量的なこの女性の凄さで楽団と対峙するのが面白いのだが。終わって喝采の中で弾いたバッハの無伴奏組曲の二作品で、このGutmanのチェロの上手さ、けして見た目華麗でもなくむしろ「下手そうに見える」弾法でチェロ鳴らすが、出てくる音はカザルス的ななめらかさ。不思議。休憩あってラフマニノフ交響曲第二番。この楽団の真骨頂。凄い、ただただ凄い。とくに木管の演じ手、とくにクラリネット(Vakentin Karlov)と、まるでソ連が開発したティンパニー演奏のための完璧なサイボーグの如きSerguei Antoshkinはお見事。このTemirkanovによる聖ペテルブルグはバーンスタイン先生の紐育フィルと同じ「吟う楽団」ぶり。やっぱりオケはこうでないと。N響デュトワで変った、変ったというがデュトワ自身がフランス人とはいえ非常にN響に近い真面目さがあるから、どうも楽団が「銀行員の同好会」に見えてしまうし聞こえてしまうのだが……。このラフマニノフの二番。今まで聞いたなかでこんなに明るいラフマニノフなし。曲の解釈、演奏は世界の状況によってどんどん変っていいのであり、今のロシアを表す演奏がまさにこれなのであろう。それにしても本当に世界の至宝といふに値する楽団。宮廷楽団として創始、欧州でも名声を得てからの二度の革命を経て練りに練られた結果がこれ。Temirkanovが何度も客の万雷の拍手に応え、香港でもこれほど客の盛り上がりは今まで見たこともないほど。終わっても客の会話から興奮ぶり伝わる。素晴らしき一夜。確か明晩は沙田の公会堂にてチャイコフスキーのピアノ協奏曲とかのはず。Temirkanovの聖ペテルブルグが沙田ってのも凄すぎだが、受けたTemirkanovも音響だの施設などに文句を言う姿も想像できず、当然プログラムはふだん余り音楽聞かぬ人から子どもまで楽しめるわけで沙田の公会堂でこれほど一流のオケ聞けることの素晴らしさ。それで音楽の素晴らしさに覚醒る子どもが何人もいればそれでいいのだから。ちなみに本日の競馬はDashing Champion三着に甘んじるが入賞でHappy Valley CHallengeの更に総合点上昇単独一位。このHSBC100周年記念盃、固いレースだが三着まで見事的中のほか4つレースとり結果的にかなりの収穫あり。こういう日に馬場で観戦できぬのだから……。
▼昨晩読んでいた月刊東京人に六本木特集あるが六本木ヒルズ出来たことで何をあんなに大騒ぎするのか理解できず。東京の都市開発は何処か寂しげ。理由の一つは周囲の全く主張なき何の美しさも有さぬごちゃごちゃした環境に突然未来都市現れること。パリのような完成された市街にポンピドーセンタがあったり香港のような絵面にもならず。狭い路地、醜悪な電柱と電線、その向こうに六本木ヒルズ、これぢゃ演歌聞こえてくる。そんな新しい都市?に出来たLouis Vuittonは年中無休、夜は日曜から水曜が21時まで、木曜から土曜は23時までだそうな。一流店というもの平日だけでそれも夕方終ってしまふから、その時間に店訪れられる客だけの、それで捌ける程度の数量市場に出回ることで一流品の格あり。コンビニか神社の縁日ぢゃあるまいに。六本木ヒルズを写真に納めた赤瀬川原平氏らのライカ同盟の写真もいいところ全くなし。同じライカ同盟でも例えば恵比須でガーデンヒルズに対して昔からの恵比須の下町を撮ったり(東京人)、97年香港返還で旺角界隈を撮ったり(芸術新潮)、赤瀬川氏らの仕事はそういった良さが売り物であるのに、出来合の施設の中に入ってしまっては当然いい写真など撮れるはずもなし。