富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月十二日(日)時差惚けか朝の五時に覚醒てしまい夢野久作ドグラマグラ』下巻半分ほど残っており読了。夜明けに朦朧とせしまま読むには良書かも。後半は意外と平凡。現当時では奇書だろうが。少し寝入り、午前Island Shangrila Hotelに宿泊の旧知のY君尋ねる。Y君はかつて香港に居住、今回松任谷由実の公演あり十日と昨晩の公演最前列と二列目の中央で参観だそうな。昼に尖沙咀は広東道の糖朝。十年ほど前にハッピーバレーにあった店と同じか、いずれにせよ通りがかりで初めて来てみれば客の半数は日本人。松任谷由実で日本から三千人来たそうで糖朝の客も殆どユーミンかも。糖朝、東京の青山と日本橋高島屋にまで店あるそうだが、甜品以外の点心、麺類はけしてお勧めできず。日本人に流行るにしてもけっこう地元客も多くそれが驚き。注文は注文票に記入するのだが頼んだ蓮子杏仁茶の蓮子がなかったらしく、普通なら給仕が「蓮子がないが普通の杏仁茶でいいか?」と尋ねるところ女給頭か内儀か私らの卓に注文票を投げ捨て「蓮子はないよ」と一言残し立ち去り唖然。普通の杏仁茶にして注文票をこの女の坐るレジに持参してポンと放ったら憮然とした表情。自らのサービスの欠点も理解できておらず。ちなみにお会計はレジに伝票持参。茶餐店なら当たり前だがこの程度の格の店なら普通は卓でお会計だが、日本人客多い故か、普通、卓で埋単!といえばHK$100もこえれば伝票持ってくるが「レジに行け」と横柄。客が店を作り店が客を選ぶ、ということを納得。Y君とスタバで雑談し別れジム。旅の垢落しに垢抹りと按摩。パリのLafontで購った眼鏡にレンズ注文。巴里より戻ると香港が路上に塵や煙草の吸い殻はなく犬の糞を気遣う必要もなく地下鉄は駅は美しく空調行き届き車両は広く快適(路上の人の混雑と市街の大気汚染だけは別だが)。どちらも勝手な生活文化だが、違いといえば歴史的にみれば巴里は市民革命歴ての市民の権利行使としての自由であり香港は権利も保証なかったが故の自由か。自由であればそれが一番であることは同じ。帰宅してドライマティーニ飲みつつ雑事済ませ湯豆腐と酒は菊正宗。有線テレビで「ランチの女王」最終2回分続けて見て(平凡な内容)Glenmorangie飲み日記整理す。
▼話は旧聞に属すが広東省珠海での日本企業集団売春の話。外務省が「関係したとされる」企業から取締役一人を呼んで事情聴取を行った結果「会社として組織的に買春行為を行った事実はない」と発表。企業側の説明では「表彰式後のパーティーには多数のコンパニオンが手配されていたが」し「自由行動となったためその後の個人の行動は会社として事実関係を把握していない」そうなのだが(以上、東京新聞)この言い訳で面白いのは何処までが組織で何処からが個人かといふこと。この釈明では「パーティー後出席宿舎である別のホテルへ移動」したためその後の個人の行動は把握していないとしているのだが問題は「社員は社員だけでバスに乗り」の部分。ここで社員から除外されているのは何か。重役か、責任者か。ただ重役だの責任者とて社員。つまりこの釈明で何が言いたいかといふと「会社はバスに乗って宿泊先のホテルに戻らなかった」ということ。会社という組織がバスに乗らないのは当たり前と思われるかもしれぬが会社とは法人であり法人とは「組織体に法-人格を与え自然人と同様に法律行為を含む様々な経済活動をなし得る」(広辞苑)なわけでツマリ会社とて熱海の温泉で芸者上げても珠海で買春もできてしまう。だからこの重役は「法人は公的行事したホテルに居残り」その法人を組織する構成員がバスに乗って宿舎に戻って買春したのだから偶然にその買春客らが法人の構成員であっただけで法人としての会社としては免責ということ。バカな話のようだが法的にはとても重要なこと(笑)。法的にはそういうことだが実際問題として日本から珠海に出かけた会社ご一行の社員が自発的に買春できるはずもなくお膳立ては当然。買売春は個人の勝手だが組織ぐるみとは野暮。これにつじて余は九月末日のHerald Tribune紙で読んだのだが、それによると中国紙の報道では買春客には16歳のお若い方までおり(中卒で採用の社員?、家族かバイト君か……まさか)まだ「お隠れ」で遊ぶならまだしもホテルのロビーから昇降機まで泥酔した買春客が淫売婦にかなり烈しき抱擁やチューなどしつつ御練りしたそうで、それが顰蹙かった次第。毎年反日感情の高まる「満州」事変の時期だなど、このテの買春族には識る知識もなかろうが。多少気になるのはこの買春から二週間もたって地元の新聞が報じた事由。かつての韓国へのキーセン観光だの台北の北投温泉だの会社ぐるみでの買春ツアーなど現在に始ったことではなし。組織になれば何でもできるのが組織の怖いところ。したきゃ荷風先生の如く個人の責任で遊ぶべき。
世界銀行の調査によると会社設立にかかる手間、日数、コストを経済体別に比較した結果、豪州が手続2つ、2日で世界1簡単に会社設立可、以下カナダ、新西蘭と続き4位のデンマークは費用0で以下米国、プエルトリコ、新嘉坡と続き香港が第9位。香港は設立費用が安いようで上位9社の中で最も高いUS$249となる、といっても3万円だが。で日本は38位、手続11個、日数31日で費用は世界一高くUS$3,518となる。この調査では言語を比較要素としていないが言葉の弊害考慮すればもっと順位も落ちるはず。更なる構造改革だの衆議院選挙だのと空虚な盛り上がりしている暇あらば、こういった現実の問題を凝視して改革せねばならぬのだが、全くわかっておらず。どれだけ日本が世界から取り残されているのかといふ事実。
▼香港のビクトリアハーバーの埋立て反対を主張してきた保護海港協会の主席で弁護士、倫敦大学でも法律教鞭とる徐嘉慎氏が主席を辞任。理由はこの埋立て反対に対する運動に対してこのまま継続すれば本人及び母親の生命の保証なしといふ脅迫状受け取った故。その脅迫遊びでないのはここ数ヶ月の九旬を迎えた老母の行動を緻密に尾行した記録まで提示された故、徐氏本人は倫敦大学での講義のため香港を離れる期間など母親の安全が保証できず、と涕の辞任。海を埋立て建物たててナンボの業界の方々にしてみればカネの沸き出でる海を自然保護のため埋立て反対など宣はれては「命惜しくないんかいっ!」だろうが、どこが脅迫の元凶か知らぬが最終的に埋立てで儲かるといへば大手財閥系デベロッパーであり埋立てのお膳立てするのは政府。李嘉誠あたりが埋立て反対とでもいわぬかぎり無理な話か。
▼七月初日の50万人デモの後九日に立法会議事堂より退場の際に抗議デモの市民に向かい「中指立てて」男を上げた親中派保守の議員(親中派の商工団体・中華総会が選出母体)黄宣弘が香港政府よりGold Bauhinia Star (GBS) を受賞。これはGrand Bauhiniaに次ぐ勲章でいわば勲二等。さすが董建華ともはや嗤うばかり。