富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月八日(水)久々の快晴。午前中出掛けにDauphine街の瀟洒なホテルに寄り次回に機会あれば泊りたいとtariffだけでも頂こうかと門を敲けば日本の若い女性二人checkoutらしくブランドの大きな袋たくさんでフロントにあり。係員に丁寧な英語にて「昨晩、部屋のミニバーのご利用はありましたか?」と尋ねられるとその女性、日本語にて「ラストナイト……」と鸚鵡返し、係員がYesterdayと付け加えると今度は「……昨日」と答えた?だけであとは宮島ならぬサンジェルマン・デ・プレのだんまり決め込み係員諦めて面倒くさいとミニバーの件は触れず。このような稚拙な者らが高級ブランド品漁り歩きパッケージだから多少は安いだろうが一泊Euro300と料金掲げるホテルに宿泊しているかと思うと呆れるばかり。日本は日本への渡航者に厳しいビザ申請求めるのなら同等に海外に渡航する国民に一定の審査でも実施すべきでは? 昨日巴里にて購買欲なしと言ったは虚言にて今日になりMadeleineはVignon街の眼鏡の老舗Lafontにて眼鏡誂えBaccaratにてウヰスキー用にと細工なき単装の、Baccaratと言われねば其れとわからぬグラス購ふ。昼にホテルに戻りZ嬢と一緒にもう一度だけあのムール貝食したしと8区はGeorge五世通りの海鮮料理屋 Marius et Janette にて白葡萄酒でムール貝とCarpaccio。ムール貝は何度食べても秀逸、Carpaccioも伊太利料理だとソースだの味が強いがこの店のは殆ど刺身。デザートのMille-feuilleもFondant au chocolateも実に美味。昼もぎっしり満席の盛況。それにしてもビジネス客なのだが昼に二時間かけてこれでけ喰らい酒を飲み、この人たちの仕事ぶりというもの猜うばかり。魚料理の店らしく店内には至るところに魚だの釣りに纏わる飾り物あり丁度Z嬢の背後にヘミングウェイが使った疑似餌あり(写真)。小雨ふる中メトロにてグランパレ美術館、タヒチゴーギャン展に赴くが入場制限され長蛇の列、雨具もないまま外で小一時間、ようやく入場しても混雑でまともに絵の鑑賞できる様子もなく折角だが断念。買物するZ嬢と別れホテルに戻り午睡。夕方市街をぶらぶらと歩いてから巴里最後の晩、オペラ座ガルニエにてバレエ鑑賞。George Balanchineの生誕百周年記念でビゼーの“Symphonie en Ut”、プロコフィエフの“Le Fils Prodigue”にHendemithの“Les Quatre Temperaments”の三幕なり。二幕目の“Le Fils Prodigue”は父の教えに反し浮かれて放蕩尽す息子がさんざん遊ばれ身包み剥がれボロボロに果てて父の許へと戻り父の許しを得る贖罪の物語、非常に聖書的な筋でこの主人公演じたNicolas Le Richeが三幕目の“Les Quatre Temperaments”でも鍛え上げた体躯に柔軟な踊り素晴らしく、バレエというより舞踏的な圧倒感あり。プリマドンナはAgnes LetestuとKarine AvertyだがRicheの存在感が全てを圧倒。踊りの見事なRicheだが敢えていえば色気に欠け踊りが多少音楽より遅れるような気もしたりするがバレエの素養なき余は語る資格もなし。それにしてもオペラ座の格調高く美しいこと。建物と内装の見事さは当然として(シャガールの描いたモーツアルト魔笛モチーフにした天井画(写真)が余にはけしていいとは思えぬが)、バスティーユオペラ座半蔵門国立劇場ならこのガルニエが歌舞伎座なのだろうが、芝居撥ねて正面玄関より真っ直ぐにルーブルまであでやかな通りを眺めれば自然と気持ちも高揚するといふもの、歌舞伎座など出ても向かいは弁当屋、せめて銀座を向けば多少は賑わうが、国立に至っては半蔵門から皇居の暗闇ではやはり華というものなし、歌舞伎座もこのオペラ座とまでは言わぬがせめて1920年代にでも松竹兄弟が大谷に姓に肖かり大谷光瑞師の支援を得るなりして辰野金吾設計で築地の本願寺なみの芝居小屋とか、朝香宮様風にアールデコの劇場作ってしまうとかしれいれば……歌舞伎座はあまりに豪華さに欠け国立など論外も論外。オペラ座出てグランドホテルのカフェに入ろうかと思ったがすでにオペラ座よりの客で混雑し十三夜の月を愛でつつオペラ通り下りPyramidのカフェ。折角のオペラ座の帰路だというのに何故かラーメン食したくなるが(Z嬢はさすがに反対)十時半にてすでに来々軒もさっぽろラーメン2ももう一軒も軒並み暖簾を下ろしてしてしまいメトロにてSt-Michelまで戻り頼みの香港快餐店を覗いてみるがここも閉店。結局、正油味の麺が食せぬ無念。
▼メトロの構内に映画ラリー・クラーク作品“Ken Park”の宣伝かなりあり。当然、合衆国の真実描いたこの作品はノーカット版で香港で修正された広告写真も当然だがそのまま無修正。これが自由というもの。見たくなければ見なければいいのであるし、これを猥褻だの判断することのいやらしさ。
▼メトロの広告といえば明後日(10日)より音楽博物館にてPink Floyd回顧展あり。見られぬのが残念。
▼十日ほど前の新聞に記事あったのを突然思い出したがジーンズのLevi's社、02年に米国内の工場閉鎖し北米で最後に残っていたカナダの工場もついに閉鎖、と。主力工場はみなアジア、北米の象徴であるジーンズのはずが。いま米国製のLevi'sがあればビンテージ物として貴重。ちなみにLevi'sはフランス名のLevi Strauss(文化人類学者と同じ名)を略したものだとか。
▼今日のヘラルドトリビューン紙(紐育タイムス)の記事に米国が5つのイスラム国家に米国のThe Dept. of Homeland Security(母国保安省?)直属のビザ発給審査機関を設けることを決定、と報ず。これまで国務省、移民局が発給していた査証だったが9-11でのテロリストの入境に無防備であったことが非難され今年に入りこの母国保安省が設置されイスラム国家で特に米国ビザの発給多い埃及インドネシアパキスタン、モロッコアラブ首長国連邦にこの事務所を設置しアルカイーダなどテロ組織にビザ発給されぬよう発給審査をするそうな。実はすでにこの機関はすでにサウジアラビアとリヤドに設置されていたという事実。それにしても何という横暴さ。せめて国家保安とか国家安全保障というのなら百歩譲って理解できるがHomeland Securityと云っていまうところがさすが愛国法を制定した国家だけのことあり。感心するばかり。