富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2003-10-06

十月初六日(月)気温一段と下り朝摂氏六度でしかも雨。週末のHerald Tribune紙にPonpidou Centreで開催中のJean Cocteau展につき展示内容がこれまでのCocteau展に比べかなり評価高い紹介あり殊に美術の教科書的な部分以外のCocteauのかなり好事家的な面にスポット当てたことを紹介につき早速Pompidou Centreに向おうとホテル出でSt-Michelのメトロ站にて昨日の最終レースで単勝30倍であったRegrix君に祝儀でせめて複勝だけでもと買ってレースも見ずに競馬場後にした為その結果見てみれば驚くなかれ一着にLegrix君の名が……複勝でも六倍は見事、余の負債も半減されたこと嬉しいものの、何故にこのレースのみ単勝買わなかったのか(買っていればEuro10でもEuro300とかなりの小遣い)、二日もLegrix君応援して何故最後のレースのみ見放して帰路についたのか、Legrix君の大穴の殊勲に声援贈れずなんと失礼なことをしたのか、と悔んでも悔みきれぬばかり。全く今回の二日間の競馬は馬券うまくいかず。だが負け越しを半減してくれたことにLegrix君に感謝するばかり。呆然としつつ手許にはその複勝の勝ち馬券。昨晩この最終レースでLegrix君の複勝のみ買ったことカフェにて話し「そんな時に限って勝ったりするんだよね」と話していた月本氏に電話で驚きを報告、で馬券は?と尋ねると、ひょっとすると競馬場でしか換金できないかも……と。確かにそんな気もしつつそういえば先週、St-Lazareの鉄道駅前に場外馬券場あり、Pompidou午前11時の開館にて半時間ほどありZ嬢がForumにて買物している間に仏蘭西の競馬会と観光案内所に電話してみるが何れも有料制にて携帯からはつながらず。近くにCitadineの系列ホテルありフロントで尋ねると近くの場外教えられるが多少如何わしきSt-Denis街に場外見つからず。PompidouにてCocteau展参観。確かに見事。一時間半ほどかけてじっくり。展示物もいいが展示のレイアウトだの照明だの、これはやはり仏蘭西と敬服するばかり。展示物を透明の硝子什器に並べ照明でできた展示物の影までオブジェにしてしまふ美しさ。Cocteauの映像がかなりあり、パリの小劇場舞台にした映像見ていれば1920年代、パリから浅草繋がっていたことを改めて理解。コクトーの装飾した舞台の青年が田谷力三に見え演出も菊谷栄のものを見ておらぬがエノケンの「最後の伝令」もこういったパリからの影響あったのだろうか、と思ふ。コクトーの描いた走り書きの如き有名な一連の作品ばかり見てきてコクトーは下手上手などと思っていたが展示の最後のほうに「この先のコーナーは性的描写が際どく成人向けの内容と判断されますのでお子さんの立ち入りについてはその点を理解の上判断をお願いします」とけして「18歳以下立ち入り禁止」とせぬのが仏蘭西らしいが、その性行為の描写は性器や結合部分のデフォルメからし春画の影響もあろうと思うが、その素描の肉体の線の確かさ、コクトーの場合、女人の裸体の素描に比べ男色の二人の男の絡みを描く時のその肉体の線の的確さなどはコクトーという人を下手上手などと言っては絶対にいけぬ、と反省。コクトー展の会場出ると記念品売場が、一面の壁の向こうにパリの北側の市街が見事に広がり、しかも硝子に薄い黒い遮断がありそれが風景をまるで精緻な絵か写真のように見せ、現実の単なる眺望ではない作品化をしており、マカオの歴史博物館を出た時以来の感激。コクトーの描いた猫の絵のTシャツ購う。Pompidou前のbrasserieにてCroque Madameとサラダで昼食。コクトーで憑れ赤葡萄酒一杯で少し酔ふ。Z嬢羅馬通りに楽譜買いに行くのに合せSt-Lazare駅前の場外馬券場。当たり馬券窓口にて素直に受け取られたので安堵すると機械に刎ねられ係員が「これは競馬場の馬券だ」と余に告げる。確かに競馬場の馬券だがここは同じ競馬の場外だろう、と思ったが埒あかず。最後の最後で単勝30倍を逃しせめての祝儀の複勝の馬券は換金できず、とツキがなし。駅前にて雨空見上げ呆然としておれば、ふと「さふいへば帰路の飛行機のreconfirmationは72時間前」と突然思い出し、といふことは……と数えたら今日が期限。最近、アジアの日本便などreconfirm要らぬ航路ばかりで72時間前のお約束などすっかり忘れる。慌ててZ嬢に電話すると探した楽譜もなく羅馬通りで交通事故見てしまい気がすぐれずといふので飛行機のreconfirmもホテルに戻らねば電話番号もわからず、Z嬢の乗ってきた地下鉄に乗り込みホテルへと戻りreconfirm済ます。72時間と10分前のこと。で、馬券である。「わからなくて当然か」と思いつつホテルのフロントに尋ねると最初は「この近くの馬券だのLottoだの売ってる烟草屋に行け」と言われたが場外馬券場でも受付けられず競馬場へ行けと言われたが行っても今日は開催なし(今日の公営競馬はニース競馬場などパリ以外)、Longchampまで出かけて閉鎖されていては話にならず、その点をどうにか競馬協会に電話して確認してくれ、と請うと6倍の配当がホテル1泊分とわかったら「それは確かに」と途端に神妙になってくれ競馬協会に電話。やはり競馬場の馬券は競馬場内でしか換金できず、次のLongchampの開催は木曜日なのでその日かそれ以降の週末に換金せよ、と。木曜日はパリを発つのだ、と説明すると、それならどこかの競馬場へ、と協会側。わざわざTGVに乗ってニース往復するかっ!とフロントの係員も呆れ、結果、勝ち馬券を協会に郵送すれば配当を小切手にて送り返す、と。これだけでも大した成果。そもそも馬券だけ買って早々に退場した我々がいけないのだが、場外で配当受け取れると思うのも常識ではないか。馬券を買うのは口頭で伝える窓口だけでレース終れば20分も待って配当金が決定し競馬場の窓口でしか配当受け取れぬというのは余りにも不便。しかもこのシステムのことなど競馬をせぬ者は誰も知らず。香港なら勝ち馬券を持って「これを現金にしたいのだが」と尋ねれば中学生以上の98%が市街のいずれかの場所にはある場外馬券場を教え、そこで窓口に出せばすぐ換金できる、ちなみに場外が開いてるのは競馬開催日とMark-6の当日と前日、あ、最近はサッカー賭博も始まったから殆ど全日開いてるよ」と教えてくれるだろうし、場外だって英語が通じることは当然。なんと便利な競馬を楽しんでいたのか、と香港を懐かしむ。で、問題は小切手である。ホテルのフロントの係員も「小切手が出るのはいいが仏蘭西フランの小切手を受け取って自分の国で入金処理ができるか」と(Euroをついフランと言ってしまうわけだが)その点を心配。ひとまず大丈夫、と答え香港の銀行に電話してみると香港時間は深夜12時近いのだが銀行の24時間サービスセンターの係員がちゃんと応じ「お客様の総合口座にはEuro普通預金がありませんがEuroの口座を開いておけば手数料は額面の0.25%、それに振出し側銀行の手数料が銀行の系列と額面により異なりますが……」と実に懇切丁寧で「今、お電話でEuro口座を開設されますか?」と迅速なこと限りなし。夕方になり天気回復し4区のPont Luis Philippe街よりboutique並ぶFrancs Bourgeois街散歩しつつ(写真)Bastilleへ。ムール貝すかいらーくLeon de Bruxellesにてムール貝の白葡萄酒蒸と浅蜊烏賊白魚の揚げ物食しBastilleのオペラ座にてPucciniのオペラ“Boheme”観劇。幕間に三鞭酒は此処では余の好むLansonの黒。歌劇の素養なき余は、その理由はどうしても全てが歌で進行し歓びも悲しみも歌で表現される、この歌劇という形態であると余はどうも「退いてしまい」それ故にこれまでも歌劇はあまり関心なかったのが事実なのだが、今宵は舞台装置といい照明といい圧巻され、ただ歌劇歌手の声量に驚き楽団のいきの合った演奏にため息ばかり。それでもこのBohemeは話の筋が弱くないだろうか。パリで絵画や詩に夢を追う貧乏な若者たちと、そのうちの一人RodolphoとMimiの愛が叶ったのにMimiの死をもって悲劇となるのだが、素直な若者たちにそれ以上の魅力が感じられず。貧困という問題がありMimiの病気を療養するにもいい旦那でも見つけねば、というところがあるがコミュンテルン運動とか民族問題が絡むとかMimiが置屋に身をおき廓から出られぬとか不条理がないことが筋の弱さなのだろうか。オペラ撥ねメトロにてホテルに戻る。