富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月初三日(金)曇。布屋など巡るZ嬢と別行動にて一人セイヌ川沿い散歩してMarais地区。Poet Louis Philippeの文房具屋など素見かすが色とりどりの装丁の帳面や飾り物の類ばかりで実用性なければ興味なき余にはあまり楽しからず。競馬新聞買いカフェにて一読。仏語解せぬも競馬新聞となると意味理解に能ふ。それにしても巴里にて仏語解せぬは文盲の如く自らが粗野と思えてならず。昼になりメトロにてPyramidに参り国虎屋にてとろろ昆布うどん。Vendome広場のCartierにて当然何も買わぬが商品名言ふと取り出だす越後屋以前の商法。鰻の野田岩のまえ通れば鰻丼Euro18にて国虎屋のうどんEuro10と思うと鰻丼高からず。一憩。St-Honore街歩き再びマレ地区。裏通りの商店あちこち眺め歩きFilofaxの直営店にて来年のrefillや過去のrefill閉じるbinderなど購ひメトロにて夕方ホテルに戻る。Z嬢Montmartreの布屋からバスにて戻る。晩に15区のDupleix付近、Phetburiなるタイ料理屋にて夕餉食し巴里日本文化会館にて浄瑠璃の公演観る。演目は万歳、近江源氏先陣館より和田兵衛上使の段、盛綱陣屋の段。浄瑠璃は竹本津駒大夫、千歳大夫、睦実大夫、三味線が豊澤富助、Sosuke、Ryoichi、Ryoji……とちなみに太夫も三味線も出演者の名が漢字で表示されておらず太夫と富助の名は余もわかったが、会場の係員もわかっておらず。三百人ほどの観衆の八割は仏蘭西人。途中に三十分ほど浄瑠璃と三味線の解説入り二時間半に及ぶ公演は立派だが盛綱陣屋はかなり端折り、しかも折角和田兵衛の段あってもこの段での酒盛りが陣屋にどう繋がるのか肝心な部分も端折っては首実検までの策略がよく見えず。それでもきちんと日仏対訳の端折る部分が薄書き解り易い本が用意されたのは立派、端折りすぎと思ったのか後半は大分端折りをやめきちんと演ず。源平の乱世に佐々木が盛綱、高綱が敵味方に分かれ母の心労、その犠牲になる子の小四郎と、忠義ゆえの理不尽が日本的などと安易な捉え方はあろうはずもなく、HugoやShakespeareにも通じるもの、と捉えたし。途中の休憩にて日本語堪能にて古典芸能に造詣深き老人に声かけられ、これは何時代の話ですか、と。源平の話なら平安末期、だが鎌倉時政公現れ鎌倉かと思えば三井寺の鐘が鳴り南蛮渡来の鉄砲まで現れては確かに理解不可能か。江戸時代に歴史まぜて筋作るのが当時の作法、とお答え申し上げる。英国の諸侯を登場人物に普仏戦争を用いて舞台は維納にてアラビアの火薬兵器が出てくるようなもの。それにしても浄瑠璃で盛綱陣屋聴けば人形が玉男で盛綱演じしをまた観たい、と思はざるを得ず。終わって巴里で初めてのタクシーでSt-German des Pres、教会向かいのBonaparteといふカフェにて今晩東京より着かれた月本裕氏とお会いし麦酒一飲。Z嬢先にホテルに戻り更に月本氏贔屓のセイヌ街のLa Paletteなる百年老店のカフェ。競馬の話がいつものように歌舞伎の話となり政治の話となり歓談尽きず。衆議院選挙にて自民党の覇権崩れば日本の何が間違っているのか明らかになるはず、そうなれば彼方此方の、例えば競馬でも歌舞伎でもある自民党的なるものが崩れ、自民党でも有能な若手代議士だの歌舞伎であれば中村屋だのが本来の力を発揮するはず。だが今回は自民党の圧勝の予感もあり。雨のなか深夜ホテルへと戻る。