富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

九月廿二日(月)曇。朝起きれば漢方かなり効をを奏しここ一週間ほど続いたシャツびしょ濡といふほどの発汗もなく養和病院にて風邪でもなしと血液検査までされし症状、手足の悪寒、疲労倦怠もほとんど治る。中医と漢方にあらためて畏怖の念。静養したきところ雑事に追われ晩もお声かかれば失礼できぬが芸妓の勤め、九龍某所にてお座敷に上がる。帰宅する地下鉄で休刊まであと6号と銘打った『噂真』読む。隣に企つ乗客に噂真の頁大のエロ風俗の広告見られ余は「エロ雑誌読んでる」と思われたのは確か。『噂真』が政治、巨大マスコミのグロな醜態暴露しているかと思えばこの世の究極のエロ雑誌と思われるにも道理あり。『世界』少し読む。
▼岩波『世界』に「教養の再生のために」なる特集あり。碩学加藤周一先生が教養とは「教育とは少し違って、学び、知識を積み上げることによって人格をつくり出すこと、個性ある人間が自己実現していく過程を意味します。学問をすれば、勉強すれば、人格が淘冶されて次第に豊かな自分自身を実現することができるという考えです」と。どこかの改造内閣の顔ぶれみて「個性豊か」な変人揃いで教養などとてもないことが頭を過る。加藤先生は戦前にも教養があったが和辻哲郎ですら戦争協力したように教養にも弱い部分があり、だから新しい形での教養の再生を、と述べるのだが、浅学の余には加藤先生の言わんとすること一つも理解できず。結局のところ加藤先生とて戦時中、レジスタンスせず軽井沢でメーメーと羊の歌していたことが問題だったのだが。その加藤先生よりも加藤先生に続くシカゴ大学のNorma Field教授に目から鱗おちるほど。小林多喜二など戦前のプロ文を熱心に読んでいる、というField教授は、「私たちの無力感そのものが「灰色の現実」を表現している以上に、(その現実を)作り出しているように思えます」と。アメリカのイラク攻撃の事前に史上最大の反戦運動が世界で同時多発したことの重要性。だが攻撃を阻止できなかったことを敗北と感じることに退廃が始まるのである、と。戦後「いみじくも」中産階級化した日本で「バブル崩壊後景気の低迷が津路手いるとはいえ、「貧困」や「階級」といってもあまりぴんとこないかも知れません」が「近代史が教えてくれる」ことは「国家は経済難を戦争で克服しようとする」のであり「戦時体制を準備するために欠かせないのが無批判な愛国心ナショナリズム」であり「愛国心をあおり立てることによって階級間の矛盾や福祉の削減から市民の目をそらす」わけで「国家が戦争を利用して押しつける団結とは違う団結を市民の教養として創造することが切実な課題」と。実に解り易い力強い主張。「日本の豊かさが生み出したもので尊いもの」はいくつもあり「捨て難いものをはっきり見極めておかないと手遅れ」になる、と。アメリカの愛国法や日本の有事法制は「私たちの生活を根底から変えてしまう」し教育基本法まで危機に瀕する状況。これを立て直すには「空洞化してしまった議会政治、それを支える選挙制度を取り戻し、民主主義のために活性化させる」ことが大切で、Field教授が最後に放った一言が「民主主義とは一度確保したら持続するものではなく、永久革命を必要とする制度であり、思想であり、生き方に他なりません」と。そのためにこそ「想像力を解放し、教養の再生を図りたい」と結ぶ。如何だろうか。これは日本が最も理解しておらぬ神髄。
▼小泉三世続投にて安倍三世幹事長就任。月本氏の日記に朝からテレビは安倍物語ばかりとか。月本氏の言ふ通り「当選三回の若手異例の抜擢というが岸信介氏の孫にして安倍晋太郎氏の息子」で異例に非ず。永田町にはいまだキッシーの亡霊存在。月本氏は「小泉氏も三代目、まあ滅びるにはいい頃合ということだろう」と余もそう期待したいが民主党自由党の合併などこの小泉&安倍ですっかり色失せ国会議員の6割が小泉支持したことと同じ結果が次の総選挙で「フレッシュ自民」に数字で出るのであろう。「若い人に期待」なんて氷川きよしの支持層がPHP出身の若手保守に投票してしまったりとか、嗚呼。下手すると「そこのけそこのけ蓮池通る」先生ばかりか氷川きよし議員とか。比例代表制では一番欲しい集票芸人であろう。若手が台頭すれば何か変るかって、今どきの安倍、石破らの若手などかつての自民党タカ派集団・青嵐会ですら常識的に思えるほどの非常識お坊ちゃま集団、自衛隊派兵、対北朝鮮強硬路線、住基ネットに個人情報管理、教育基本法改正で最後は憲法改正まで何から何までやりたい放題。その平成の大改革の結果がどうなるか、もはや楽しみ。結局は彼らを国会議員に推挙し国政権を与えた国民に責あり。最後の竹篦返しは国民に来るといふのに。今度の選挙にて自民党圧勝するかどうか、で全て決まり。かりに小泉政権で地滑り的勝利でもおさめれば全て終り、そういう選択を国民がしたことに。その段階でその国の未来に危惧の念抱くものは長野県か高知県地方自治を極めるか、沖縄を独立させるくらいしか選択肢ないかも。もしくは日本に居たたまれずディアスポラの運命、そろそろ真剣に日本国籍を放棄する場合の行く先を検討するべき時代になるか。護憲派は海外で憲法の精神に則り非武装に徹し東アジア反日武装戦線の結成を!、だははははははは……と筒井康隆か、これぢゃ。そういえば筒井先生、今月も『噂真』の連載「狂犬樓の逆襲」つまらぬ神宮前界隈の食べ物屋紹介。
全日空では中文で「一日じゅう空っぽ」と読めるからと中国では社名をANAに統一のANAの新聞広告「ちょっと違う。ANAのサービス。」と銘打つが内容はといへば、PCや電話でフライト状況の確認、予約時に座席指定可、エコノミー客でもマイレージの上級会員であればラウンジ利用可……とどこが他社と「ちょっと違う」のか全く理解できぬ内容。この程度のこと広告にするのが「ちょっと違う」か。国際線ビジネス正規運賃客は(と述べることぢたいどれだけビジネスも割引運賃適用されているか、の裏返しだが)成田→羽田で乗り継ぎリムジンバスが無料、といふのも所詮たかだかバスの話、ハイヤーに非ず。