富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

九月十七日(水)快晴。丸善本店洋品部傘掛宛に修理の傘郵送す。夕方に養和病院。夏風邪だろうか発熱なく悪寒と発汗あり。病院内医者も職員も口罩し髪覆ひ疫禍に臨む。養和病院出づれば目の前がHappy Valley競馬場とは方便この上なし。満貫廰にてS氏夫妻及びS夫人同僚女史それにZ嬢と競馬観戦。Happy Valleyらしいレース展開多く余の予想も悪くはなし。但し馬劵の買い方宜しからず。儲けも損もなく終わる。『文藝春秋』十月号読む。NHK会長海老沢勝二君「巨大メディア独裁化の内幕」といふ記事とくに目新しき内容なきもの。海老沢君の縁戚だか知古で就職し大した仕事もできぬが安泰といふ人も余ですら通信だの金融で数名存じ上げる。寧ろ関心は保守である文藝春秋が、かつての田中角栄批判であるとか、左派革命勢力に非ず保守の大立者記事にせし時は何か裏に策略あり。同じ号に「特別企画・父が子に教える昭和史25の「なぜ?」……「日本はなぜ負ける戦争をしたの?」と子供に聞かれたら」あり。当然のことながら文春らしき保守反動の歴史の見直しオンパレードのなかに突然、山中恒氏あり。題が「新聞はどうして戦争に反対しなかったのか?」で内容は落としどころは「文春でも」反対する個人情報保護法について、で山中氏起用に「さもありなむ」と合点。文春の読者たるオトーサンたちが創痍の身、このような記事読み少しでも元気出すための企画、それ故にせめて中国政府などこういった記事に「反動」だの日本軍国主義復活などと非難せぬことを祈るばかり、これは単なるオトーサンたちのカンフル剤にすぎず、ちなみに25の疑問の最後が天皇の戦争責任でそれを語るのが松本健一といふのが出来すぎだが、いずれにせよこの特別企画の問題は、その嘘が歴史的事実の嘘なのではなく、それ以前の問題として、今どき父がこのような歴史を子に、しかも子の疑問に対して「非自虐的な」史観でもって父が堂々と「わが国は歴史で間違いもあったが堂々と今日まで営まれてきた」などと教えるような空間は家庭にも社会にも存在せぬこと。だいたいここで提示された25の質問、子供が疑問に想ふやふな歴史問題でもなければ、かりにさふいふ疑問を抱いた子は国史を自虐だの威光だのとでしか見ることのできぬ父になど疑問を呈せず自ら感性で思慮するもの。それを見ずして(見ぬふりして)その存在もせぬ場を設定した上で「父が子に教える……」などとすることが欺瞞。
▼昨日杭州飯店閉業か?と綴つたが昨日の信報にて唯霊氏、中環の高級日本料理「福喜」閉業、と。福喜といへば経営者が業界筋か開業には梅蘭芳などスタァ数多く集ひ竹中工務店による数寄屋風の店構えも立派、大した寿司供し評判。バブルの当時は日本人の小学生の女の子に「福喜のお寿司が好物」と言われ返す言葉もなし。当時、真っ当なる寿司供す店などここと尖沙咀の見城くらい。数年前に奇を衒ひ金色の雲紫色の海に浮かぶが如き岡本太郎的な外観となり、かなり修行積んだらしき地元の板前それなりに奮闘しているが余とZ嬢の他に一組、「ジョニ青」持ち込み板前にも振る舞ふ「未だバブル氏」だけで客も少なし。香港の最高級「日式」の終焉。