富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

八月卅一日(日)快晴。朝刊届き競馬予想ざっと済ませ雑用片づけ昼までVictoria Parkにて水泳。天后の場外馬券場に赴けば香港島にては閑散ぶりでは一二を争ふこの場外もそこそこの混雑、競馬に加え蹴球の賭博ありその雑多ぶり甚だし。馬券購入し灣仔にて買物済ませジム。Z嬢と邂逅。四年続け観戦してきた競馬開幕日ながら金鐘にて夕方どうしても抜けられぬ打合せあり。終わって銅鑼灣にて資料の書籍購入。帰宅して競馬の結果見れば今期幸先よく上手く賭けほどほど儲ける。第一場は五班の下級馬戦にてどの馬来ても不思議ぢゃなく普段なら棄てるべきだが開幕戦といふことでご祝儀、何故か1400mでは出走馬のなかで時計は1.23.0とダントツのChampion Boyが7.8倍の三番人気、それに未勝場ながら1000mの試走にて二着と調教はいいPowerfulは21倍の七番人気と震わず、この二頭で連複とまでは言わぬが二三着くらいならあり得て倍率も旨しいかとQPで賭けたらChampion Boy一着でPowerfulも三着に入りHK$133.50と幸先吉く、第七場二班1200m芝にては堅ひところだがFlying Machine、Bobo Win、Snippeydoodaと三着まで的中してTrioはHK$779、本日の主戦香港特首盃(一班1200m芝)は特首董建華君現れず財政司司長・唐英年君代理(董君来たれば烈しき野次罵声浴びるは必至にて次期特首(特区首長=行政長官)の呼び声高き唐君といふ選択か)、一番人気は今年三月の四班での初陣より四戦三冠一季と活躍著しく今期一班緒戦迎えるCheerful Fortune、二番人気はDanehill系のHidden Dragonが一二着と順当、Size厩舎のGreat DelightがSize潮にて三番人気だが三着はSelf Fitが入り連勝まで取れたが己れを信じられず○をつけていながらSelf Fitまでは買えず反省。第九場二班1400m芝、敵なしと読んでいたFloral Dynamaite(2.1倍)が二番人気とはいへ前季未勝で10倍のSize厩舎の潮州勇士に負けやはり今期もSize魔術に踊らされるのかと早くも痛感。灣仔波止場餃子食す。ふと今年いっぱいの諸般藪用など考えれば頭痛、それでなくとも日曜日の晩ほど憂鬱な時はなく、このままではかなり鬱になることは必至、気分転換に明日出かける革鞄を整理、革靴の靴磨き、Joe Hendersonなどジャズ聞きウィスキー飲みつつ爪の手入れなどして気分転換図る。あちこちと移動する車内にて戸板康二折口信夫坐談』読了。折口信夫が贔屓にしたといふ大正の頃の中村魁車であるとか二代目の延若、喜劇では曾我谷五郎とか舞台を想像するばかり。折口先生が「梅幸は今、身体の色気を出すことに夢中だ。菊五郎(六代目)は、梅幸を自分と同じ女形にしたのかしら」といふ言葉あり。これは昭和22年のこと。当時、まだ若女方であった梅幸であるから、色気をまず身体から出すことに熱心で、年を増して役者として円熟するにつれ身体の色気が精神的なものに変化してゆくことを先生は想像したのであろう、が、まさか折口信夫梅幸といふ、歌右衛門と並ぶ戦後を代表する女形がまさか老いてもなお身体からフェロモンの如く色気振りまくとは思いもせぬことだったか。ところで、現代(いま)の人は吉田屋の芝居についての語りで折口先生が「格子先の道具がよくない。あれでは、むかしの新宿だ」と言っても、何が昔の新宿なのかわかるまひ。花魁の夕霧と夕霧を好た伊左衛門のご存知「廓文章」は大坂新町の花街が舞台、廓では格子の向ふに女郎が居すのだから舞台でも格子は大切な大道具、ましてや大坂の新町といへば江戸の吉原と列ぶ花街、そこの格子が貧弱では当時は武蔵野の原っぱのなかの内藤新宿の花街(現在の新宿二丁目)くらい野暮、といふこと。ところで戸板康二があとがきに綴っているが、いい芝居を観たあとに「目を正月にした」といふ言葉があるそうな。京都の南座の顔見世などまさにこういう表現なのであろう。羨ましいかぎり。