富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

八月廿七日(水)昨晩遅くに読んだ東京人九月号にて川本三郎が横浜の本牧歩き堀川を山下橋にて渡るとバンドホテルといふ記述あるだけでも懐かしきものを川本氏は三島由紀夫の『午後の曳航』にて「ゆうべ二人は山下橋の駅にある小体なホテルに泊った。大きなホテルに泊ることは、横浜ではかなり顔の売れている房子には憚られた。房子がその前をとおったことは数しれぬほどあるが、埃っぽい植込みをめぐらした二階建の趣きのない建物、区役所のような玄関、船会社の大きなカレンダーを壁に貼った殺風景なフロントが、入口の素通しの硝子ごしにのぞけるそんなホテルに、いつか自分が泊まることになろうとは思わなかった」といふ文章を挙げ、このホテルがバンドホテルであろう、と。指摘されれば確かにその通り。曾て全く気づかず。『午後の曳航』のこの部分、こうして読み直すと、この余りに写実的なホテルの入口の描写、つまりは三島先生みずからが「自分が泊まることになろうとは思わなかった」と感じつつ房子の如くお忍びでこのホテルに投宿したからこそ、のものと最初にこれを読んでから数十年して今ふと判る。この『午後の曳航』読めば今日の少年犯罪の凶暴化などといふ社会的苦悩がお題目に過ぎぬこと晰らか。少年はいつの世でも凶悪。この『曳航』の性と暴力の描写を思えば芥川賞受賞の吉村萬壱ハリガネムシ」を宮本輝が酷評したことも道理あり、と納得。朝まだ曇のこるが昼前より快晴。日暮れにZ嬢と天后に待ち合せ、偶然道すがらご一緒したU女史もお誘いし三人にて簡単に、と清風街陸橋下のPoppyにて晩餐。地場の西洋料理屋にて場所といい名前といい余り美味そうに思えるがさに非ず、お手軽な葡萄酒もいいが有機野菜の新鮮さと味は香港では此処は秀逸、味つけは単調ながら(よくいえば素朴か)、野菜と烏賊の天麩羅、蝦と貝柱のサラダ、野菜のパスタに鴨の脚肉のソテー食しティラミスと美味なるアップルタルト(自家製のパイ皮が格別)と、何処が簡単に、なのかわからぬが(笑)満足できる料理の数々。赤葡萄酒は智利国のMontes Reserve 00年がHK$172はまだ良心的。