富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月七日(月)快晴。摂氏30度超える高温警報が実に六日、計131時間続き、これは99年にこの高温警報が制定されてからの新記録。七七事変(支那事変)六十六周年。朝のニュースで昨晩自由党が23條立法について立法審議の延期要求し九日の立法会での通過では反対票を投じる決定、同時に党首の田北俊が今回の23條立法化ついて独自に上京の上北京政府が立法化に時限なく立法化は香港の内政であり中央政府はそれに介入せぬ文言を引き出し今回の政府方針に反旗を翻すことになった責任をとり田北俊が行政長官の諮問母体である行政会議のメンバーから辞任を発表と。これを受け政府は深夜零時より行政会議の緊急会議を開き本日午前二時まで審議、自由党が反対にまわることで九日の否決必至となり23條立法の審議延長を決定、同時に田北俊の行政会辞任を承認。董建華の声明は午前二時の苦渋に満ちた声明発表はこちら。一日の50万人デモにより市民の広汎な政府不支持を受けひとまず23條立法問題は最悪の事態での可決強行が避けられる。が、財界を基盤として董建華政府の強力な支持母体であるはずの自由党の今回の動きは董建華にとって打撃大きく行政会すら一枚岩ではなくなれば董建華が二期目で打ち出した局長級問責制を含め瓦解寸前。自由党といえば自由党の元主席であり現在は名誉職的に全人代の香港代表の一員となっている老獪なる李鵬飛(李鵬に非ず……)、この御仁、英国統治時代は親英派と見做されていたが97年が近づくにつれ次第に北京に歩み寄り、いつの間にか全人代入りして正に政界の鵺のような御仁。その李鵬飛曰く「田北俊の行政会議からの辞任により政府は立法会での多数派与党を維持できぬことは既に政府の管制力と威信に重大な影響あり、董建華とその構成内閣は総辞職すべき」と。つい先ごろまで董建華を支持しておいて相変わらず無責任な李鵬飛だが、この御仁の政治的臭覚の鋭さ、つねに政治的に次の主流に合流している才能(笑)からすると、つまりもはや董建華は実質的に捨て去られた存在である、ということの証左。ふと思ったが71デモ以降の政治的急変を見ていると、これでは田北俊(自由党主席)を次期行政長官に、という声が上がっても不思議でない。じつはきちんと脚本の出来上がっている政治劇かも。家柄、財力、知性、見た目、それに今回の北京訪問から董建華への謀反による民主派からの好感度といい、今香港で行政長官になる適材ということに。
▼今月に入ってからの信報、23条立法化されたら廃刊という危機感あってか、これまでにもまして内容とその論説の冴え見事。珠の如き記事と文章並び一つ一つ熟読。日本になぜ論説の充実したこういった高級紙がないのか不思議。信報の特異な点は基本的には中道左派のリベラル陣営であるが保守派も無視できぬ理論的学術的な背景と威信あること。それゆえに政府の主要公布もこの新聞とSCMPにて為されるわけで(かつては明報がそうであったが失墜)、今日の紙面にも半ページぶち抜き政府広報
政府は市民の広範な世論を考慮し国家安全条例草案について重要な三つの修正を加えました。(略)市民の声を積極的に受け入れると同時に、特区政府が各界の皆さんに理解してもらいたいことは、基本法23条による立法は棚上げすることのできない責任ということです。一日も早く草案の立法化を遂げて、政府と社会各界が一体となって経済回復に努力しましょう
……と。これは本日未明の政府決定以前の表現でありわずか一晩で政局はかなり動いたわけだが、それにしてもこの「一日も早く草案の立法化を遂げて政府と社会各界が一体となって経済回復に努力」って何だ、この修辞、詭弁は。本当に経済回復に努力するためには「一日も早く董建華とその一味を退陣させて政府と社会各界が一体となって経済回復に努力しましょう」だろう。
▼林行止が専欄で指摘しているのだが、下の備忘に綴ってあるが23条立法草案での三つの大きな改正点、これらはこの条例の根幹をなす重要な点であり、確かにこの修正がなされれば信報は社としての憂慮は半減される、が、この立法に最も関与する律政司司長梁愛詩と保安局長葉劉淑儀の二人のオバサンが修正は絶対にないと公言していたものを董建華がこの二人の原案堅持を翻し最も争議性のある条文に修正を加え、それを法曹界や立法議員に諮ることもなく僅か三、四日で立法化してしまうという、この粗忽さ。そして条文についてこれだけ大きな譲歩をしてしまうことが容易で何故に立法化の政治日程の延長には応じられないのかという不思議。常識的に考えれば修正で安易な妥協をせぬことと上梓日程を比べたら優先されるのは安易な妥協をせぬことなのだが……。デッドラインを設けずに落とし穴(強行採決)を回避せよ、と林行止の主張は憂慮よりも死に体の董建華政府に対して余裕ある助言にすら聞こえ始める。
▼中華社会を代表するで保守派リベラル言論人の重鎮、李登輝嫌いでも有名な陸鏗氏(桑港在住)が信報に寄稿して、三日に北京中央で23条立法問題に関する政治局拡大会議ありCoquinteau総書記が主持、香港訪問を終えた温家寶や政治局常任委員が出席していることは北京中央の香港重視の顕れだが、陸鏗氏は温家寶首相が在港中に23条立法に反対する市民少なからずと記者が述べたのに対して「我々は香港が外資流入に有利な香港の安定した環境を求めている」と応えたことも北京中央が挺港不挺董(香港を支持し董建華を支持するではなし)の姿勢になりつつあることである、と。その上で香港がいま直面している状況からいえば問題は董建華だけにあるのではなく江沢民が政治に当った時代に残してしまった一連の未解決の問題であり、本来は「河水不犯井水」で一国両制が維持されるべきところ、河水が井戸の水を犯しており、もし董建華がきちんと問題を把握して対処できれば香港が一国両制の典範となるのだが、と。陸鏗氏の論評はここで終わっているが、これがこのまま続くと当然、台湾の中国統一を支持する文言となるのは必至か(笑)。
▼日頃思考上の示唆受けること多き友人S氏(といってもまだお会いしたこともないのだが)曰く「ネット上の発言の駄目なところは言葉を記すことにおいて自らを鍛えるということがないところ」と。自戒の念。これと近いことを爆笑問題太田光氏も言っていたというがネタが出来ていても本番ギリギリまでネタの推敲続けるという太田氏ならでは。S氏続けて「古来「文は人なり」と云われますが、それは逆に云うなら、文を鍛えることにおいて人(知性)を鍛えることもできる」のだが「いかに多くの言葉を書こうとも無責任に、断片的に単語を書き散らかすばかりでそれを文として鍛えることがないなら」それは意味がなく、ネット上の「掲示板ばかりの話ではなく、個人サイトの日記でも多く該当する」わけで「単語を羅列しただけのような短いものばかりですが、どれも皆、読む価値のないものばかり」と。ますます自戒の念。「確かに短い語で何かを表現するというのはかっこよいことですが、難しいことでもあって、長文さえ満足に書けない者に短文は書けない」ことは確かに作家が無駄な文章を削りに削る呻吟(例えば石川淳)にて明らか。せめて日々の断片の記録にあたり単なる言葉並べにならぬよう鍛錬を続けるのみ。この日剰など饒舌と過剰なる文字数は読み抜かれ易い短文回避かも(笑)。

この一週間の備忘いくつか。
▼御用政党民建聯は党首曽(金玉)成が一日のデモに対して「市民は騙されいる」と発言し三日に23條立法は賛成するものの條文の緩和を提案していたが五日ついに「選挙民に対しての謝罪」を表明。このままでは秋の区議会選挙で大幅に議席を失うことが必至で今さらながらの市民への媚び売りながら既に遅し。結局、政府の単なる賛成票マシンであることだけが民建聯であることが今さらながら露呈される。
▼23條立法について政府の提出した条例(案)でいくつか修正された点は3つあり、まず中国国内で法的に禁制された組織は香港にても非合法とされ取締りの対象となる条項の取り消し(これは法輪功などが該当)、次に政府機密の非法取得並びに公開を有罪とすることについて公共の利益を事由としたマスコミの取材並びに報道については非合法とせぬ緩和(これはマスコミが中国報道する場合にそれを即非合法とせぬこと)、最後に官憲が裁判所の承認なしでも自宅捜索できる権力が与えられることの取り消し。つまりこの修正をもって香港での人権や表現の自由が保証されこの23條立法はあくまで中国の国家安全を保護するための目的であることの明確化というもの。内容は改善みられるがいずれにせよ政府が国家轉覆を企図した動きと認めれば実力行動、テロばかりか一般の政治活動まで非合法とされることには変わりなし。
▼『信報』は四日に創刊三十周年迎えたが今年は祝賀どころか23條立法による新聞界としての憂慮あり嚴肅なる評論続くなか曹仁超の筆名で“投資者日記”の健筆振ふ取締役でもある曹志明が23條立法されれば今後の報道での規制多きく、また政府の怒りかえば家宅捜索までできる状況では真っ当に報道続けられず、その場合、廃刊か新聞の売却を示唆。大手資本でなく経済学者然とした林行止による自立した報道姿勢とそれを愛読する真っ当な購読層が築き上げてきた香港の良識を代表する新聞であり、これが廃刊となればまさに月刊誌『九十年代』の廃刊に続く香港の良識あるマスコミの危機。
▼返還から六年、ざっと回顧するだけでも政務司司長Anson Chan陳方安生の在任期間中の引退、廉政公署(公務員汚職取締)署長某氏や香港電台の台長張敏儀女史の更迭など香港政府の良識ある役職者の排除続くなか今度は平等機会委員会(性別や人種による差別撤廃の活動)首席胡紅玉女史の任期更改なし。胡女史の積極的な歯に衣着せぬ言動が好まれず。次は政府申訴専員(オブズマン)戴婉瑩女史の去就が狙わそうな趨勢。結局、有能なる公務員を董建華政府の意向に沿わぬだけで排除し続け無能な従僕のみで身辺固める董建華の政治手法のバカさ加減。しかも星島日報社主Sally Auの不正を超法規的措置にて免罪とし大陸生まれの香港市民子女の香港居住権を認めぬ律政司司長梁愛詩、自動車税増税を図る中で自ら増税前に自家用車購入した財政司司長梁錦松、SARS発生後にこの感染が大規模にならぬことを強調し結果的に対策遅れてSARS蔓延し死者を増大させた衛生福利及食物局局長楊永強、低価株の上場取消しを突然提案し株式混乱に追い込んだ財経事務及庫務局局長馬時亨、そして何よりも23條立法で強引な姿勢が今回の23條立法の敗因となった保安局長ファシスト葉劉淑儀などどうすればここまで顰蹙かう無能無策、出来の悪い連中ばかり集めてしかもその失態を庇えるものか呆れるばかり。明らかにこの連中を揃えた内閣責任制など失策あっても誰一人として更迭もなく無責任制であることは明白。このような無能ぶりでは北京政府とて董建華に任せておけず。少なくとも返還からの一期目は香港を中国にシフトさせるために子飼いであり中国政府に負債をもつ奴隷・董建華の任命に意味もあったろうがニ期目に入り香港内政に様々な問題が露出する状況にては董建華では対応しきれぬのであり、しかも北京政府が董建華を任命した江沢民からCoquinteauと温家寶という新しい世代に替わったことで董建華に任せ続ける意図もたぬことも明らか。もはや董建華、死に体。早く辞任すればよし。