富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月五日(土)。薄曇りにて10時前に家を出てParker山の峠まで登り大潭のダムを抜けて海岸。雲はすっかり蒸発して真っ青な快晴。クラクラと眩暈するほどの快晴。新潮文庫中野好夫訳の『デイヴィッド・コパフィールド』第3巻の31章から読む。岩波文庫の少年語りに比べやはり中野先生の老人による若い頃の回顧潭らしい表現、それとこの小説の根底に流れる「差別」と階層社会の現実が嫌でも痛感される階層に応じた会話表現。これがあって初めてなぜコパフィールドがエミリーに恋しそうで恋せず、寧ろ高い階級にあるスティアホースがエミリーと駆け落ちしたのか、つまりコパフィールドこそ中途半端な階層にあるが故に階層社会の一員であってスティアホースのほうが実はそんな階層など気にしていないことが判る。中野好夫読んで翻訳文によりいかにその小説の面白みが違うか、ということを痛感。岩波のに比べ数十年ぶりに中野訳を読んでこの『デイヴィッド・コパフィールド』がこんなに面白かったものか、と思う。夕方一旦帰宅して日暮れ前からランニングクラブのホタルの夜企画でまたParker山道を上り大潭に降りる澤でホタルを楽しむ。香港のホタル、やはり香港の電圧が220Vと高いだけあって光具合が日本よか断然明るい。明るすぎて大味でもあるのは南国らしさ。終わってQuarry BayのGrappa'sにてクラブの定例会。
▼23条立法は財界を基盤とする与党自由党の党首田北俊氏が秘密裏に上京。北京にて政府関係者と会談し23条立法は香港内務にて北京中央は23条立法も含め内政には関与せぬ、また23条立法化についてとくに立法化の期限はない、という文言を引き出し自由党はこれまでの23条立法賛成から一転して12月までの審議延長を示唆。これにより実質的に7月中の強行採決は回避された形となる。この自由党の“超技”により失意にあるのは民建聯と葉劉保安局長で、民建聯は97年以前の英国統治でパッテン総督による民主化に対して97年後の政局安定のため保守派強化のために作られた御用政党で当然23条も立法賛成、50万人デモは市民が騙されたと吹聴していたが自由党が突然の造反。このまま賛成を維持する以外に政策などないのが民建聯だが自由党は財界が基盤であり立法会選挙も業種別区にあるため民意の反映にかかわらず議席が安定しているのに対して民建聯は民主派と議席争う地方区で今回の23条立法支持により民建聯の支持がかなり下がることは必至、自由党に裏切れて唯一の悪役を仰せつかった格好となりこのままでは秋の区議会選挙での大幅な議席流出が懸念され絶望的。結局、財界は見事な翻身を見せてその鵺の如き変り身の早さ見せつけたが保守派市民層というのがいかに権力に弄ばれるかの現実を見せつけられし思い。そしてもう一人、立場が悪いのは葉劉保安局長。そもそもこの23条立法は基本法にあるとはいえ5年も政治日程に上梓されることなく来たものを昨年の秋に突然、来年7月までの立法化が北京中央との共通認識であると述べ、それに基づき立法化が進行したのだが、自由党の田党首がそのような立法化の期限などない、と述べたことで昨年のこの葉劉の発言ぢたいがデタラメなのではないか?という疑念が生じる。このオバサン、Immigration署長から保安局長への抜擢で下手すると董建華と組んで二人の自らの業績向上のため23条立法化を推進したことまで考えられる。
▼昨日綴った築地のH君教えてくれた産経抄はこちら。それにしても香港の50万人デモを「激しい熱気」「この熱気は官製のやらせでは決して生まれぬ」「真剣な市民の気持ち」と絶賛だが、このデモがお気楽だの安易だのという指摘もあるわけで、ようは一枚の写真であれ一つの現象であれ見る方によりどうにでも解釈できるということ。それにしても香港のデモは「やらせ」ではない、でそれに対して日本の「反戦平和」「戦争反対」のデモは「面白半分だったとしか考えようがない」と揶揄するが基本的には当然のようにデモ主催者がいて市民がそれに参加するという点では同じなのだが、産経くらいレベルが低いと解釈など適当。たんに日本の市民デモなる大嫌いな対象を否定するために香港のデモなどどうにでも解釈できる、ってこと。それにしても曽野綾子イラク攻撃における「今度の戦いで日本人の多くは事実の裏も読めず、厳しい現実にも参加せず…ただその場限りの平和を唱えることで、自分は善人であることを証明しようとした」という言葉はそのまま「その場限りのテロ対策を唱えることで、自分は正義であることを証明しようとした」と言葉を置き換えられるのだが、曽野綾子も産経もこんなコメントがたんに意味のない修辞であることもわかっておらず。ちなみにこのコラムの最後は「ただ“証明”のためのデモもあるらしい」と結ばれているのだが香港50万人デモも「証明のためのデモ」なのだが(笑)。