富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月三十日(月)晴。土曜日にM氏とEast Endにて歓談の折にポケットから床に落として外殻が破損したNokiaの携帯修理に出す。中国主張温家寶君SARSにかかわった医療関係者への慰労だの家族を失った遺族への見舞いだのAmoy MansionやPrince of Wales病院の視察だのと精力的に動く。それについてまわる我らが行政長官、首相の横で愛想笑いしているだけなら無能だが温首相がかなり能弁でその北京語についてゆけぬ市民に対して董建華君通訳となり珍しく有能。明日は温首相昼には離港だそうで午後3時からの10万人規模といわれる23条立法反対デモを見る機会なし。もともとは明後日までだか滞在の予定がこのデモの規模拡大があり滞在日程変更という噂もあり。岩波の『世界』七月号を読む。自衛隊の海外派兵、有事法制、教育改革……日本がどんどんおバカさんになってゆく。寺島実郎氏が書いているが日本がどれだけ独自の外交などと口にしたところでアジア諸国は日本を米国の子飼としか見ておらず、大国とはむしろ「米国との関係を決定的に損なわない範囲でイラク攻撃に反対」した中国であり、日本がいくら親米主義をとろうと「米国はみずからの世界戦略の枠内でしか日本を守らない、という常識」である、と。ただ危険なのは下手にその米国からの自立を提唱すると反米だけを支柱とす陳腐なる国家主義となること。今さら大人になれ、といっても半世紀もガキのままだと今さら自分で考えろ、といっても自民党の総裁からそのへんのオジチャンオバチャンまで思考回路は閉ざされているかも。『世界』の特集は石原による東京都の教育改革について。各公立校への教育主幹の派遣、これってほとんど校長教頭のかわりに「何でもやります」の学校配属将校になってしまうか、もしくはPHP的であり松下政経塾的な(つまり本人の自意識過剰があるだけで役に立たない)幹部候補教員養成コースだろうが。その悪夢のような都の教育に対して橋本知事の高知県にては生徒と教員と保護者による三者「共和制」での学校運営が行われている。こちらは強権で上からの改革など押し付けても生徒保護者のニーズに適合しておらぬ公立学校の現状を見た知事がこれではマジに公教育が崩壊してしまうという危機感から始めた教育改革。同じ『世界』にムネオ疑惑での背任だの不正業務妨害などで拘留中の元外務省主任分析官佐藤優氏による拘置所で書かれた『冷戦後の北方領土交渉は日本外交にどのような意味をもったか』は秀逸なる外交論。
▼中学生用の保健体育の教科書(学研)を見る機会あり。余が中学生の頃に教科書に比べると喫煙や飮酒と並び薬物乱用だの性感染症までかなり具体的な記述多し。99年の東京都での調査で「性情報をどこから得るか」という質問ありアダルトビデオという本来中学生が見てはいけない(ことになっている)媒体からという答えが10%おり、少なくても教科書に健全なタテマエだけが書かれていないことに共感覚えるが、そのAVの10%のほかダイヤルQ2が3-4%、パソコン通信が1-2%とあり、もうこの4年でダイヤルQ2はほぼ消えてパソコン通信にかわるインターネットがかなりの比重になっているはず。それにしても畏友M君と先日話していたのだがかつての青少年にとって「どうやって見えないものを見るか」にかけた情熱と労力は凄まじきもので、それに比べるとキョービの若者はインターネットにて恐らく数秒で目的の画像をゲットしてしまうとは楽すぎはせぬか。でいちばん興味深いのは薬物乱用での大麻の記載で
大麻を乱用すると、感覚が異常になったり、精神が錯乱状態になったり、幻覚や妄想が現れたりします。乱用をくり返すと思考力が低下したり、無気力になったりします。また、精子の減少や月経異常などの性機能の障害や、気管支炎、白血球の減少などの身体的な障害が起こることもあります。
と、この記述のうち正確なのは、幻覚や妄想が現れるというくらいだろうか。思考力の低下や無気力もただ思考力と気力が盛り盛りであることを積極的にとらえることぢたい偏向しており、喧騒なる世の中たまに思考力を低下させ無気力で気休めも好し、という発想も可。そもそも人間のほかの動物に比べるとかなり低下している本能の鈍い感覚を正常として、大麻での覚醒を「異常」としてしまうのも短絡的。でかなり読みごたえあるのが「大麻乱用患者が書いた手紙」という資料で29歳の男性が
こんどみんなとあうときはほんとうのほんとうにきれいになってあいたいです。はやくおうちにかえりたいです。もうこりごりです。ふかく考えることができるようにどりょくします。ほんとうにこりました。はやくおうちにかえりたいです。はやくいち人まえになっておやこうこうをしたいです。たいまやくすりなんてひつようがないのにてをだしてしまったのはぼくの心がよわいからです。たくさんはんせいします。たいまをすうとあたまがぽーとしてふわふわするだけでねむくなっておしまいです。おさけとあんまりかわりません。ぼくのむかしのことはよくおもいだせません。せんせいどうもすみません。ひとつひとつおもいだしてかくと3日も4日もかかりますのでかけません。
と、かなり29歳でこの子どもにフラッシュバックしてしまったとはジャンキーな方だが(まぁこれは大麻だけぢゃないでしょうが)、それに大麻乱用患者とあるがもしかするともともと頭のヘンな人(大麻乱用以前に“患者”だったりとか)である可能性もあり。いずれにせよこの手記を読むと「施設での療養」という環境がかなりよく出ている。大麻への反省より施設から出る=家に帰ることへの憧れ、それと最後に突然あらわれる「せんせいどうもすみません」という施設の指導員への詫び=恐怖?が興味深し。で詐欺っぽい専門家とかなるとこの手記を読んで「ほら、見てください、平仮名しか書かない患者が漢字を使ってますね、どこですか?、人と心ですよ。人の心が大切なのです」などと(3日と4日の日という字は敢えて見なかったことにして)道徳などを説いてしまうのだろうか(笑)。ところで最後の「ひとつひとつおもいだしてかくと3日も4日もかかります」という大麻での確執で本当に3日も4日もかけて綴った粘着質な文章での「むかしのこと」を読んでみたい。そう考えると大麻も吸わずに書かれたソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』であるとか大西巨人神聖喜劇』は凄い。