富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月二十七日(金)小雨。晩に西湾河の香港電影資料館にてMurnauの“Faust”(1926年・独逸)観る。ゲーテの原作をこれもまた疫病蔓延する中世の都市にて疫病の病原菌を究められぬ老学者のところにメフィストが現れ囁きファウストが若返ることで物語が始まる。また疫禍である。都市と疫禍というのがMurnauにとっての大切な舞台。それにしても役者が悪魔メフィストは独逸の平幹二朗ファウストは老年が往年の勘三郎で若返ったのを若い頃の猿之助みたいな役者がやっているクドサさ凄まじ。これでもか、これでもか、とねっとりと見せる二時間余の大作。終わって太安商場の三益麺家にて雲呑麺。牛南飯であるとか目玉焼き乗せただけの定食とか見てて美味そう。
▼今日のSCMP紙の2面半頁で突然にPeter呉光正氏(貿易発展局代表でWarf財閥の総帥)の“It is time to address the city's big problem”という論説あり。内容はとくに目新しいこともなき地価対策で、それがなぜ総合面のこのような位置にデカデカと掲載されるのか、と思った瞬間、これは下手すると次期行政長官か、と察す。97年の行政長官選挙は董建華出来レースであったが呉氏も形式的に立候補。この呉氏のその論説は董建華支持で最後を結んだものの97年後の香港経営において香港経済の根幹である地価対策の不能についての論評であり明らかにこれは董建華の失政であり、いくら董建華を実際には否定するもの。ちなみに今日の信報にも同氏の“「後典型」的地産樓市機遇”という同じ記事あり。董建華が任期中に失脚するとしたら病気とかの理由になるのだがろうが。競馬とちがいこういう予想は当たっても配当もなし。
▼7月1日の特区成立記念日に予定されている大規模な23条立法反対デモ。董建華と保安局長葉淑儀(絵)はこの立法が市民生活に影響ないと宣伝に躍起になっているが23条といえば葉局長の横で男芸者ぶり発揮するDepartment of JusticeのLegal Policy Division(日本の内閣法制局だろうか)そこのSolicitor General(首席法制官)であるRobert Allocock氏が昨日の新聞でこれ以上の23条の条文の改正は中国政府にかなり悪い印象与え得策でなし、と表明。政府のお抱え法曹官は默々とただ法の精神に基づき法制の準備していればよろしく、こういった政府のプロパガンダ宣伝に出てくるとはこれでも法曹人士だと思うと呆れるばかり。いずれにせよこの23条立法について民主的手続きを求める側と民意など汲まず立法に盲進する政府との間で断絶は深くなるばかり。政府への失望、信頼の墜落あるばかり。
▼香港の星巴珈琲が慈善団体Oxfamの提唱する“Trade Fair”に共鳴しこのタンザニアの生産者から直接買い付けられた無農薬の珈琲豆も購入、と。この取引きにより現地生産者は食物大手会社により買い叩かれる価格の3倍の利益を得て、それ以外の収益がOxfamにより福利活動に回される、という仕組み。この問題も上述の貧困の問題と同じで、厳しい現状はplantationの構造では珈琲生産量が増大すればするほど儲かるのは食物大手だけで生産者は経済的に貧困に陥るという現実。ちなみに4大メジャーはKraft、Nestle、Procter & GambleとSara Leeとなる。ところで偶然見つけたが、このSara Lee Bakeryなる米国の大手菓子屋、“Nobody doesn't like Sara Lee”って宣っているが少なくても私はこれみただけで(写真)とても食べたいとは絶対に思わぬが……。
▼香港の空港近くに建設中の香港デズニーランド。商売上手のこの帝国企業に対して香港は上海とデズニー鼠の誘致合戦で争わされ広大な敷地の埋め立てだの地下鉄延長工事だのインフラ工事を全て香港政府が支出するというデズニーには好条件にて香港での開園となり、デズニーが嘘つき鼠であるのは(ああ、こういうこと書くだけで名誉毀損で数億ドルの賠償を請求されるのであろうか……笑)それでいてちゃっかり上海でも将来の開園を計画していること。で何が問題かといえば自然保護団体 Friends of the Earth の指摘によるとこの香港鼠園のための埋め立て地 Penny's Bayはかつての造船所で、そこに堆積された3万立方米の土が発癌性のあるダイオキシンを含有するそうな。政府はこの造船所19haでのダイオキシン含有する土の除去作業にHK$450百万(そのうちHK$350百万は毒素除去)を要す。この土地の不明朗さは土地は所有会社から香港政府に2001年にHK$15億で譲渡されたが、この会社の着港権について二者の間で合意みられず会社は政府にこの慰謝料としてHK$25億を請求。また売買契約成立前に政府側はこの土地への立ち入りが会社側により許可されず売買の僅か2ヶ月前にようやく実地検分となりHK$15億の売買価格が決定してから、このダイオキシン含有が発覚。そのため当初の土砂除去の予算HK$22百万をHK$450百万に増額するハメとなる(香港の高等裁判所での審議経過かこちら)。そこまでして何故この鼠楽園の誘致なのか理解できぬが、そういえば浦安でもこの土地の建設にからみ(株)オリエンタルランドにはいろいろきな臭い噂もあり、と思い出す。
新華社香港支局といえば英国領香港にて実質的な中国政府の出先機関としてながく存在し、この支局社長が事実上の中国政府の香港代表者。というわけで香港にて反中国の示威運動があればHappy Valleyの競馬場前に位置するこの新華社香港支局がデモに囲まれ、当然、かなり警備厳重なビル。歴代の支局長のなかでも登β小平の開放改革の時代の許家屯氏はその温厚な人柄でかなり親しまれたが天安門事件にて中国政府に愛想つかし米国に亡命……と何かにつけ新華社は香港で中国の象徴だったのだが、97年以降は軍部だの外交部だの中共の政府機関が当然のことながら公然と駐港できるわけで新華社香港支局も歴史的役割を終えて一国営通信社と位置づけられる。で、いつの間にかこの湾仔の地から上環の新しいビルに遷っていたのが事実。で、空家となったこの旧建物、いったい何にするのかと思えば中国政府側はこの物件の売却を選び、買い手捜していたそうだが、関係者の話では中国側はこの売買について価格よりもとにかく買い手の素性に拘ったそうで、SwireであるとかHK Landといった英国系財閥が買い手となることだけは名誉として避けたく、結果的に中国での商売を主とする香港の地場会社に譲渡。で、ここをその会社がどうするかといえばホテルなのだそうな。……と以上SCMPの報道で以下は余の憶測。新華社香港支局といえばCIAであるとかKGBの如き諜報活動もしていた印象あり、そんな特務機関のビルを改修したくらいでどうしてホテルに?と思われるだろうが、事実は、この建物、ビル全体がそんな特務機関なのではなく、その中上層部のほとんどが大陸から公務だか特務でやってきた公務員の宿泊施設(笑)。特務だから外に泊めたくないのか、じつは内輪で反革命的な裏切り者を傍聴していたのか、たんに外部のホテルに泊まる資金節約か、いずれにせよ宿泊施設であったのが事実。であるからちょっとの改修でホテルとなる。ちなみに報道によると歴代支社長の執務室は客には開放せぬそうな。そりゃ支配人室であろう。