富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月十六日(月)曇。昏時美孚に藪用あり時間持余しふと地下鉄を茘枝角にて降りて地上に出ず。九龍湾と並び香港代表する工業地帯にて香港の軽工業らしく大工場が並ぶのではなく工業ビルのなかに紡績や塑膠などの小さな工場並ぶ。ちょうど退勤時にて香港工業中心や香港紗廠工業大廈など立ち並ぶ大きな工業ビルより工員吐き出され片側四車線の長沙湾道はバスとその日のうちの原料だか製品の運搬と納入急ぐ貨物自動車で咽るほどの排気ガス。この界隈など10数年香港に居ても自動車で通り抜けたことあるばかりで、こうして街路に企つのは4、5年前だかの香港マラソンにてこの地下鉄駅に近いSham Shui Po運動場が終点であったから、と3年前にトレイルの練習の帰りに城門水塘よりタクシーで下りてきて以来。夕方の散歩なら楽しかろうが悲しいかなこの界隈、香港でもこれほど雑然とした場所なきほどに工業大廈立ち並ぶだけ、せめて幹線の長沙湾道さけて一本裏に入ったが其処も渋滞と工場から発せられる騒音ひどく大通り以上の渋滞と排気ガスの充満、思わず数週間ぶりにマスク装ふ。中国茶で有名な茶藝楽園がこの工場街にあるのを見つけたが藪用あってはのんびり茶を啜る暇もなし。茘枝角から美孚に向かう街外れ(長順街と甘泉街の角)に汚いが美味いとタクシーや貨物車運転手に評価高いという公営の熱食中心あり(写真)。だが夕飯時前で従業員が賄い飯しているだけだが、あまり賑っている気配なし。この一帯も海側の埋め立て地に新しい集合住宅建てられどその殺伐とした光景はまるでウルトラセブンに映し出された都会の如し(写真)。九龍バスの本社と車庫(大規模工事中)の裏を抜けて美孚に至る。
▼本日のSouth China Morning Post紙の投稿欄に横田淳総領事の一文あり……ほとんど誰も見ておらぬだろうが、同紙にて連載もつ時事評論家Frank Ching氏の日中関係についての反論なり。かつてNY Times紙の記者であり香港に戻りSCMP紙の記者となり文革末期から登β小平の時代始まる時代の北京特派員として西側に数々の報道を続け名を馳せたChing氏の論調は、旧日本軍が中国にて生物化学兵器を使用したことについて法的な賠償責任を負っておらず日本政府の誠意のなさを非難し、小泉靖国参拝など障害が多く、日本政府が高度なレベルでの変革を遂げぬかぎり日中関係は打開されない、というもの。それに対して総領事曰く、今日の日本政府の対応は、化学兵器禁止条約の当初よりの批准国家であり、遺棄科学兵器 ACW(Abandoned Chemical Weapons)についても旧日本軍が中国に遺棄したそれについてUS$53億の予算で処理に当たっており、日本は1995年に村山首相が日本の戦争責任について談話を発表しそれを認めており中国など被害を受けた諸国に対して謝罪の念を表明、また親密な外交関係も維持されておりChing氏の指摘するような日中関係の未成立はない、と総領事。外務省の公式見解といってしまえばそれまでだが、実際、この遺棄科学兵器についての日本政府の対応などきちんと報道されておらず、ただ日本が過去の戦争を蔑ろにしている、というのは間違いであり、やることはやっている、「が」歴史教科書だの首相の靖国参拝だの石原の差別発言だの尖閣列島の領有権などでそういった誠意ある遺棄科学兵器対策など見失われているのが事実。それにしても、このFrank Ching氏のこの文章、見た記憶もここ数日なく???だったが、実はこれ5月22日の掲載だとのことで、つまり一ヶ月近く前。それの対応としては、やはり総領事名の一文ともなると東京の本省の内容批准とか必要なのか、ただ香港での対応が遅かっただけなのか……余りにも投稿が遅すぎる。
基本法23条に則った国家安全のための条例制定についてこの週末、香港の大学数校が共同で世界各地より有識者専門家集めて23条立法の討論会開催。殊に興味深い指摘はかつての香港米国商工会議所会頭にて天安門事件以降は中国の人権監視続けるDui Hua Foundation(対話財団)運営する米国のJohn Kamm氏が指摘していることで、香港が23条立法することが単に香港のみならず、寧ろ中国国内において、この香港での立法化が引き金となって人権蹂躙や集会結社の制限などこれまで以上に管理が進む懸念がある、と。中国は国家治安維持の法令こそあれ具体的に国家転覆標榜する(もしくはその「危険性」のある)団体を治安目的で抑える法律が現状ではないのであり(香港政府は中国において「社会団体登記管理条例」「民弁非企業単位登記管理暫行条例」と「中華人民共和国国家安全法」の3つにより国家安全に危害与える団体の規制ができる、としてるが法律専門家から見て、国家転覆の危険性ある団体を具体的に法的に規制する条文がないそうな)、これは余も不勉強で知らず、当然あると思っていたが、言われてみればそれ故に「あの」法輪功であれ中南海の政府要塞を人の輪で取り囲むほどの行為に出ても未だに個々の信者の活動こそ逮捕拘束できても法輪功じたいを危険団体として信者一括拘束するなどの強攻策には出られぬ、ということか。納得。で、その状況にあって香港で23条立法があれば中国はこの「国内」の条例をテコにこれまで以上の治安維持を図る恐れがあるのであり、今回の23条立法は香港が中国国内のそうした人権や自由の悪化に寄与したことになる、明らかなる歴史の汚点である、と。香港政府側の答弁は、この立法化は予め香港基本法で決定している法制化にすぎず、これは香港市民の自由などを迫害するものではなく、あくまで中国という国家の安定化に寄与する、としているが、今回指摘されていることはそれとは逆にこの立法化が大陸でどれだけ悪い作用をもたらすか、ということ。また今日の香港の繁栄は、香港が政治化にかかわらず自由を維持し資本が経済活動のみ効率的に運用されてきた成果であり、香港政府の政治化と、その政府と反目する市民という社会の分断化が香港の経済発展に何らメリットなきことも指摘される。今日の信報「林行止専欄」は基本法においてこの国家安全条例の立法化が規定されており、それを避けられぬとしても、一番の問題はこの立法化の手順が全く市民の意見も世論も重視されぬまま政府内で詳細が独善的に決定し保守系政党の多数により立法会でも可決が見込まれるなかで香港の自由と法治が蔑ろにされ、これを憂う市民には街頭デモという行動しかもはや選択肢がないほど追い込まれている、と。信報は今年創刊30周年の記念すべき年だが、このような状況下では祝賀は一切行わず、徹底して香港の伝統的な報道の自由の原則で報道続ける覚悟であり、市民のなかの知識分子は沈黙せずに「帝力於我何有哉」(帝力我に於て何ぞ有らん哉)でみずからの言論空間を維持すべき。だが香港は一歩一歩閉鎖的で愚昧な世界となっており、これは政府指導の誤りであり、香港の悲哀である、と結ぶ。日本のマスコミもSARSばかりかこうした香港が中国の下でどのような障泥を受け、また香港のこの状況悪化がどう大陸だの経済発展に影響を与えるのか、など焦点を定め報道すべき。
▼そういえば昨日NHKのニュースで新宿のゴールデン街で家事があり飲食店経営の男性一人が被害、というニュースを見て余は咄嗟に「中国人男性か」と思ったがZ嬢は「ゲイバーのママの場合でもやっぱり報道は男性なのかしら?」と。いずれにせよ新宿らしさ、か。同じニュースでミャンマーのスーチー女史の自宅監禁解除かとミャンマーの人権問題の報道があったが、軍事政権だの独裁だのと揶揄されるミャンマーであるが、外務大臣が西側マスコミのインタビューで英語でミャンマー政府の見解を示しているだけ、少なくとも政治的状況に西側とミャンマーに乖離こそあれ、言葉が通じているだけでもまだ英語という言葉すら通じず外交経験も外交理解すら乏しきド素人が外務大臣になる国家よか、まだマトモと思わざるを得ず。