富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月二十二日(木)快晴。非典型肺炎にて、といふよりもその肺炎の感染に戸惑ふ社会の「感染幻想」にて何かと雑事多く生活の歩調乱され「煙草は免疫力を衰えさせます」といつた広報など見ていたら無性に喫煙したくなり衛生防疫至上主義のなかでつい煙草を吸い始め「SARSに終止符が打たれたらまた禁煙」と思つていたが、もはや終息に近づき、それよか煙草なしでは生活できぬほどかつてのニコチン中毒に陥りさふで慌てて禁煙再開。煙草ぢたいは好きであるし禁煙してまで健康体でいたいなどといふ希望もない老体であるが煙草を吸えぬ場所で「吸いたい」と煙草所望し苛々続く「あれ」が不快。図書館、飛行機、星巴、映画館、ジムといつた余の好む、本当なら寛げる筈の場所にかぎつて禁煙で煙草吸いたいと思ふ、その分快適に過ごせず、その不快感が釈せず、それなら禁煙して煙草なく生活するほうがマシか、と。SARSといへば広州にて「非典型肺炎」の「非典」登録商標にすれば今後「非典石鹸」だの「滋養強壮非典液」「非典枕」に「非典安全套(コンドーム)」とでもいつた具合だらふか、「非典」の冠つけた商品の商標料だけで喰っていけるのでは?と思った男おり早速広州の商標登記所訪れて申請したところすでに山東省で二人の男がこの商標めぐり争議中だそうな。
▼数日前に日経の「春秋」に書かた「りそな」という名称が実はラテン語であるということを綴ったが、余の敬服する博識とそのセンスよき某氏が日記にて余のこの内容を接けて「りそな」とは形容詞「resonus」の女性形のつもりだろうが、その発音は正しくは「レソナ」であること、なおこの形容詞「resonus」は動詞「resonare」つまり「反響する」が自来、これが「sonare」「響く」「響かせる」つまり英語の「sound」に「re-」がついた形であり、と解されている。やはり英語ならresoundでよかった、と浅学の余は安堵。ちなみに氏がそれに続けて述べていることは形容詞の「sound」について。これが「健全な」なのである。「健全な」が名詞「響き」や動詞「響く」とどう関係があるのか。この形容詞の「sound」は高校英語の問題で、氏も挙げているが余も福武書店の進研ゼミか何かで出くわしたのが“A sound mind in a sound body”が「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」の例文なのだが、それ以来、この形容詞のsoundにはほとんど出会っておらず、それだけでも高校英語が研究社の月刊誌『英語青年』の古典的教養主義からどれだけ抜け出していなかったか、の象徴のような用例であるが、閑話休題氏の説明によりようやくこの形容詞「sound」がなぜ動詞と名詞の「響き」系の[sound」とは異なるか、を判って溜飲下がる思い。氏の説明によるとこの「健全なる精神は……」は“orandum est ut sit mens sana in corpore sano.”、氏の訳によれば「健全の肉体に健全の精神の宿ることを願望しなければならない」、この「sana」つまり「sanus」が形容詞「健全な」の「sound」の語源。よって「響き」は「sonus」で「健全な」は「sanus」、つまり英語では同じ「sound」でも元来の形は異なる全く別の語、と。なるほど、と膝を打って納得。ちなみに高校生であった余は語源を辿るほどの探究心もなく、ただバカ同然に「音が響く」と「健全な」をどこかハレの印象にて結びつけようとしていたとはいやはや恥かしきこと。