富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月十九日(月)曇。じつに約50日ぶりに香港の小学校低学年、幼稚園開校。毎朝、日経の「春秋」樂しみ。今日はいきなり余もsiteの巻頭に掲げし「真理がわれらを自由にする」国会図書館ギリシャ文字で刻まれたることを述べ、銀行家ロスチャイルドも19世紀初に定めたる紋章にはラテン語にて「協力完全無欠才能」とあり、「権威や信頼感をにじませたい時、西洋文明の源流である古典的言語の名文は効果絶大だ」と。で、ここから何処に話が展開するか、が「春秋」の白眉なのだが、今回は実は「りそな」である。なぜ、ギリシャやラテンの古語がりそなかといへば公的資金導入のりそなの「りそな」はラテン語の「反響する」「共鳴する」(これは英語のresoundだろう、富柏村注)だそうな。春秋子は「不良債権処理や株安に伴う含み損処理などで体力が下がっているところに自己資本の嵩上げを戒める厳格な査定の実施が「共鳴」。資金不足という哀歌を奏でることになったわけか」と、いささか無理のあるこぢつけのきらいもあり(正直言って言ってることがよく判らず)。で結論はラテン語入門書を見ていた筆者は「ニル・アドミラルティ」なる言葉を見つけ、これは鴎外の『舞姫』にも登場するローマ詩人ホラティウスの言葉で「何事にも驚かず」の意、この公的資金導入など「いたずらに浮足立って混乱を広げぬためにも「平常心」に通じるこの言葉をかみしめたい」と結ぶ。成る程。これからこの春秋読む時の座右の銘こそ「ニル・アドミラルティ」と思うは我ばかりか。晩遅く村上春樹ライ麦』少し読む。なかなか読み進まず。このベストセラー、読んでも一つも面白くなし。かつて野崎訳で読みし若き頃のあの一つ一つの場面が映画の如く脳裏に浮かびし感動とのこの差異、余が老けてホールデン少年の青春の心が読めぬ齢となった故か、村上春樹の訳の拙さか。少なくとも数年前に原作をサリンジャーの言葉そのもので読んだ時の感動もなし。例えば18章にてホールデン少年がボブ・ロビンソンという友について語るところ、村上訳には
彼は間違いなく両親のことをとても恥かしく思ってた。というのは彼の両親は「ヒー・ダズント」「シー・ダズント」と言うべきところを「ヒー・ドント」「シー・ドント」とか言っちまうような人たちだったし
という文章あり。一瞬理解できず。なるほどhe doesn'tだのshe don'tという英語の言葉のことか、と判るが、それにしても、このカタカナ書きではあまりに拙訳。ふと寝床より起き出して野崎訳を書棚から出して見れば
これは本当に劣等感を持っていたんだな。両親が"He don't"とか"She don't"とかいった文法的にまちがった言い方をしたり
とすんなり読める表現。原書は当然のことながらhe doesn'tだのshe don'tと書けば間違っていることはわかるわけで野崎訳が原書に近く、村上春樹が何ゆえにわざわざ「ヒー・ダズント」「シー・ダズント」という正しい表現をそれもカナ書きで入れてまで「わかりやすく」説明したのか。それも中1で習う程度のこと、村上読者にそこまでのサービスが必要なのか、理解できず。眠気さめる。
▼昨晩読んでいた『世界』に毎日新聞の青野由利なる方のSARSに関する文章あり。感染重症地香港に居する者には別段読むに値するほどのネタも捉え方もないのだが「香港で発生したトリインフルエンザ」という表現に、一瞬、えっ……通常のインフルエンザより3倍(tri)強力なインフルエンザなんてあったかしら?と思ったら「鶏インフルエンザ」のこと(笑)。紛らわし。
▼世の中には様々な需要と供給あるもので、香港政府の麻薬対策、麻薬中毒患者に対して合法的に中毒症状を和らげること、麻薬入手のための犯罪やその筋の世界への介入を防ぐことを目的としてMethadoneなるヤクを与えているのだが、例えば湾仔の湾仔電脳城のある修頓花園大厦の横、歩道橋に上がるエスカレータのところにもこのセンターがあり、Methadoneもらいに来たオジサンやオバサンが溜まって一種独特の雰囲気を漂わせているが、この合法麻薬の登録をしている患者が7,000名(昨年は6,100名)で、このMethadoneはヘロインから精製されるのだが、そのヘロインの入手経路はといへば政府が麻薬取引を暴いて押収したヘロインなのだが、昨年から18ヶ月でわずか1000kgしか押収できておらず、約6,000名いるヘロイン中毒者が一日に必要なヘロインの量は1.8kg、年間600kgであり、このままいくとMethadoneを精製するためのヘロインが足りず。まさか政府がヘロイン密売ルートから購入するわけにもいかず。ヘロインの価格も上昇しており、昨年初にHK$180,000/kgが今ではHK$270,000/kg、末端価格でHK$466/gは一年で3割以上の値上がり。
▼17日の日経に出ていたが日経の「リトルナベツネ」鶴田会長16日の取締役会で辞任決定。「関連会社で損失が発生したことの道義的な点は否定しない」と杉田社長の弁。だが関連会社での損失程度で責任とっていたら日本中の社長が退任しなければならず。子会社の不正経理については取締役への提訴提起請求はせぬそうだが「元」になってしまったが社員ら株主二人が取締役に対しての損害賠償訴訟求め鶴田会長辞任を株主総会で求めていたものの総会では反対多数にて否決されており、「リトルナベツネ」鶴田王朝安泰か、と思えたが、表面上は引退しても鶴田院政はひかれようが、まだ会社として表面上でもこう機能するだけ、何処かの「社主」制会社よかマトモか。
▼新潮社が読売新聞に身売り、という実しやかな噂もあり。読売といえばテレビ、野球ばかりかは中央公論を有し徳間書店ジブリまで。こうしてみるとJリーグの川淵氏ナベツネによるサッカー支配の野望を粉砕したというのは大きい、歴史的な意義があるかもしれない、と築地H君。確かに少なくともこの10年でナベツネの思い通りにならなかったのは「読売ヴェルディ」だけ。確かに。なぜサッカーだけが「墜ちなかった」のか。ここでさすがヨーロッパと仰いではいけぬだろうが、H君曰くヨーロッパクラブ選手権の決勝まで進出したACミラン、オーナーのベルルスコーニは政治にかかわる点ではナベツネと同じだがフィクサーにはならず堂々と首相までやって現に汚職で訴追されるというリスクも冒してる点、フィクサー気取りのナベツネは実は小物、とH君。それに対して朝日。読売が新潮社買収なら朝日は岩波か。でも岩波は朝日に縋る必要も何もないだろうが、朝日は読売に比べれば反体制、反権威を貫いているようでいて、最近のやはり「リトルナベツネ」箱島社長引率する変節ぶりはやはり、ある程度靡かねば疎外されるばかり、という現実か。ただし「最近の朝日は現実主義的でなかなか論調がいいから、読売をやめて来月から朝日をとろう」という奴はいるか?いないだろう。朝日を嫌いな奴はどうなっても嫌い。逆に朝日ファンの読者は離れるジリ貧か。
姜尚中先生が集英社新書で『日朝関係の克服』上梓。姜先生俄然絶好調だが先生の前著『ナショナリズムの克服』は早や5刷で樋口陽一先生の『個人と国家』4刷、チョムスキー先生の『メディアコントロール2刷と、集英社、やや偏向にシフトか?(笑) ところで姜尚中先生といえば『ナショナリズムの克服』の対談相手である森巣博氏の奧さんがテッサ・モーリス=スズキ女史だったとは……。H君に教えられかなり驚く。