富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月十日(土)昼前より薄曇。午前、競馬予想慌てて済ませ出街。藪用済ませ昼から中環のジムにて二時間鍛錬。天気回復し海や山へ行かぬを後悔。昼には遅いがPeel街の陳成記麺家(写真)にて上湯伊麺食す。わずかHK$9にて至極の麺。夕方に某倶樂部にて寛ぎ三聯書店。Z嬢尖沙咀の金巴利街の韓国食材屋にて香辛料だの漬物野菜購い晩は自宅にてチゲ鍋。折角なのでOBビールと韓国烏賊の鯣焼購い帰宅する。競馬はR8が地場G2のQueen Mother Memorial Cupにてどうして未だに英皇太后記念しているのかわからぬが(2400m芝)高山名望(Allan/Marwing)で脚に大白兎(Cruz/Cotzee)としたが大白兎が一着。またもや重賞レース外す。R7(一班1400m芝)で精明大師の8.5倍当ててどうにか今日の投資金額は回収。
▼一昨日、中国政府が香港支援として113,000着の防疫服と10万足の医療用靴を香港に提供。深センにて北京政府の国務委員が董建華に対してその責務と業績称え、この物資贈呈。香港政府の医療関係者は正直言って医療物資は足りているがお気持ちだけでも感謝、と。摂氏30度の炎天下、深センの境関にて贈呈式あり、癡呆の噂実しやかの董建華、この国務委員の僅か5分の挨拶の間に20数回手で顔の汗拭い、演説まだ終らぬのに早合点して拍手しそうになり、返礼の挨拶でもマイクからかなり遠くで語り始め自らの演説が誰にも聞こえてないことに気づかず。ちなみにこの物資が香港に渡ってゆく時には「インターナショナル」が高らかに鳴り響いたそうで。今どきインターナショナルがこの深センと香港といふ資本主義バリバリのボーダーにて鳴り響くとは信にシュールな世界。
▼昨日の『信報』曹仁超の投資者日記より。香港の人口と資本の関係にここ数年で大きな変化あり。97年以前は中産階級が多く貧困者と富裕者が少ない菱型であったのが、通貨危機でのバブル崩壊にて不動産など負資産となった者多く負債抱えて生活の厳しい層が増え、かつての菱型が△型に変貌、そこに内地からの移民など低層非熟練工が増えるなかで△の底辺部が拡大している、と。2001年の政府統計によると香港の330万人の労働人口のうち130万人が納税しており(つまり残りの200万人は所得が非課税控除額(HK$10万=150万円)以下の低所得)つまり香港の人口の5人に1人が納税者という程度。その130万人のうち年収がHK$90万(約1500万円)以上の高収入者は66,000人で1.98%。所得配分がこのように顕著になる理由として、まず、80年から毎日150名の内地からの移民が移住しており、これが年間51,500名、そのうち95%は専門職もたず、23年で計算上は1,184,500人となる。そのうちどれだけが技術習得し「成り上がった」か、余り期待もできず。そしてその同じ20年間に香港の地場産業広東省に移動しており、香港で約120万人分の就労機会のうち現在では10数万が香港に残る。そこで非熟練の就労となるのだから賃金も上がらぬわけで約200万人の労働者が年収HK$10万(月額HK$8,000以下)、政府の公的支出でかなりの負担になっている事実。このような移民問題は欧米でもかつてあったことだが(大きな経済成長がそれを改善する起爆剤となったがすでに経済成長を遂げている香港で今後そういった起爆剤の期待は難しい……富柏村)昨年11月からはこれまで香港市民と結婚している広東省民の来港が年三回だったのが三ヶ月以内の滞在なら年に何度でも来港可となり(といっても現実には3回=9ヶ月だが)94年に制限を厳しくする以前は配偶者頼って来港しそのまま滞在許可超えての滞在でも居留権が与えられていた頃の移民が数多く、それが下層人口の増加につながった、と(この頃に生まれた子女の教育問題、具体的には香港での就学権が数年前問題になった)。前述した中産階級の増加の主因は不動産であり、85年からの不動産価格の上昇で当時、不動産を得た市民の多くがその資産価値の上昇の恩恵受け低税率と預貯金の高利息でかなり資産価値を増やし、それが97年以降に下落し中産階級だった者たちが負資産抱え自己破産などで下層階級へと変貌している社会構成。
▼米国のカリフォルニア州立大学バークレイ校にて卒業式シーズンに当りSARS感染地域からの親の来訪であるとか夏期短期留学など受け入れぬ措置。WHOもそういったその地域からの来航者を総括りで締め出すことは行き過ぎと表明。だが現実はこんなもの。信じられぬ話だが、現実には香港から日本に戻った会社員が自宅には病気がちな老人がいるから自宅に戻るなと妻にホテル宿泊を願われ、息子の帰省にご近所に自家に近づかぬよう乞うて息子には近所のテマエもあるから早く香港に戻るよう強請り、国民健康保険の更改に役所訪れただけで感染者という噂が広まり、駐在員が東京に戻り定期健康診断に社内のクリニック訪れれば医者と看護婦はカンペキな防疫体制で待ち構え診断の結果「シロ」と判ったらマスクや手袋外した、とキチガイな話は枚挙にいとまなし。
福建省厦門(アモイ)に出張したI君の話では香港からの飛行機が厦門空港に到着して機内で検温。全員の検温が終るまで降ろさず。もし一人でも感染の疑いあれば全員そのまま隔離。たんに38度以上の熱があれば、の話。しかも隔離費用は自己負担。共産主義は医療は無料ぢゃないの? ホテルに着いてもチェックインの際に検温。疲れきって寝ていたら翌朝たたき起こされロビーに集合させられ検温。帰路は深センに戻ったら今度は機内での問診表が搭乗者数に一枚足りずと(これぢゃ荷物預けて搭乗してない客があり荷物に爆弾かと狼狽するのと一緒)、問診表の乗客名を1人1人呼び呼ばれた乗客から降させたが流石に乗客の不満大きく20名くらい読んだところで全員降ろさせた、と。二十年ほど前に筒井康隆の描くキチガイな社会の物語読んで笑っていたが筒井氏が本当の意味で未来を予感していたのだ、と今になって納得。
▼清潔香港地区拡廣工作委員会なる香港政府の外郭団体、昨年実施されたゴミのポイ捨て禁止条例を今回の疫禍もあり徹底させるべくゴミ捨てで検挙されながら何度かこの「犯罪」続ける再犯者に対しては氏名公開など検討すべき、と提言。そういえば米国ではどこだかの田舎の州にて「うそをつかない条例」可決して「うそをつく」ことが犯罪になったとか。人間といふのは明かに低能化している。ブッシュだけが低能ぢゅない。低能のその象徴がブッシュであること。人類といふのはあと何年もつのだろうか。
▼購読する日系新聞を朝日から日経にして数ヶ月。しりあがり寿『地球防衛家の人々』が読めぬのだけは楽しくないが呆れた『天声人語』に比べ日経の『春秋』は読むに値す。本日は「国力の勃興と国民の冒険心、探求心の高揚はしばしば重なる」という話で、50年前の5月のヒラリー卿によるエベレスト初登頂、その三年後の日本隊によるマナスル登頂も戦後日本の飛翔予感させる快挙、と。こうした伊太利や英国の田舎が好例だが、繁栄国は「えてして衰退後は世界の観光客の受け入れ側に回る」のは「文明の残照」も「屈指の観光資源」だからで「豪奢な旧跡のみならず、質素でも覇者の末裔ならではの気品ある暮しぶり、丹精された風景が豊かな文化遺産として客人を魅了する」が「訪日外国人客の倍増計画に勇み立つ「観光立国」日本だが、ピークを過ぎたらしいこの国の津々浦々に繁栄時の富は蓄積されているだろうか。金ピカの箱物以外に。遺産だけで食べている国は情けないが、遺産さえ残せない国は、もっと情けない」と。全くその通り。こうした苦言が経済の繁栄を過ぎた国を代表する経済紙に書かれる悲しき事実。だが現実はそうした遺産も残せなかった政府与党に半世紀に渡って下駄預けバブル崩壊して何も残らなかったと判明している今もってそれを続け、「小泉さんなら」「石原さんなら」と単なる変人に今度は下駄預ける、その不可思議な国民性。変人は小泉でも石原でも非ず、その国民そのものか。
▼ブッシュが今週は米国イラク攻撃支持した隷属国家首脳招きご褒美供与だそうでシンガポールは呉首相は自由貿易協定(ETA)締結、スペインが何を意図して英国と並んで積極的に米国支持したのかよく理解できていなかったがブッシュはアスナール首相に対して同氏が求めてきたバスク地方政党「バタスナ」のテロ組織指定を急遽実現だそうな(Spainnews.comの5月8日を参照)。米国が、というかブッシュのような馬鹿が「あいつはテロだ」と言ったらテロ指定、世界の敵。ブッシュがつい失語症の発作で「ブッシュはテロだ」と言ったら自分が追われる立場になって……なんて物語『未来世紀ブラジル』の如きB級映画にしてみるとか。
左巻健男京都工芸繊維大学)編の検定外中学校理科教科書『新しい科学の教科書』(文一総合出版)が14万部も売れているとか。「わかりやすい」と評判、つまり解り易い教科書を作るためのはずの教科書検定なるものが実際には「わかりやすい教科書づくり」のために正常に作用していない、ということ。結局、教科書検定が国家による教育のためであることは明白なのだが、それにしても同じ教科書を作る会でも何処かの社会科教科書もこれくらい売れてみたいものだろうに。この文一総合出版なる小さな出版社に対して社会科は扶桑社=フジ産経から出版して自民党だの神社本庁だの「多くの」支援を受けながら不憫。そういえばどうして香港の旭屋というのはこの『新しい歴史教科書』とか西尾幹二、小林よりのり系の本ばかり多いのか。どうせ其処で本など購わぬからどうでもいいか。