富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2003-05-07

五月七日(水)曇。早晩に西湾河。いつも行列長くとても並ぶ気すらおきぬ順興潮汕滷味専門店(写真)、珍しく行列十名に及ばず五、六分並び滷水鵝購ふ。港島東体育館の室内プールにて泳ぐがプール浅く小さくイマイチ。帰宅して滷水鵝賞味すれば確かに遠方からも客訪れ行列できるも納得。偶然にZ嬢の献立は蕃茄のパスタで白ワイン、これがまた突然の滷水鵝と相性よし。広東の焼鵝なら断然赤葡萄酒だが潮州の滷水鵝だと白ワインと発見。全く予想もせぬままテレビで競馬中継眺めつつ携帯にて投注。R2(四班1200m芝)にて12倍のAce Of Pace的中だけで気持ちよき晩、R7(三班1000m芝)にて7倍のNoble Heroをゲートインしてから買って的中。そこそこの儲け。
▼昨晩読んでいた村上春樹版『ライ麦』について(続き)。目を惹くのは物語(了)のあと遊び紙に「本書には訳者の解説が加えられる予定でしたが、原著者の要請により、また契約の条項に基づき、それが不可能となりました。残念ですが、ご理解いただければ幸甚です。」なる一文あり。非常に奇妙。訳者なり第三者の解説なりあと書きのない本などいくらでもあり。かりに解説加える予定でもそれがなくても一向に不思議でもなく、わざわざ何も知らぬ読者に断る必要もなし。その上「原著者の要請」だの「契約の条項に基づき不可能」などと知らせねば知らせぬで一切かまわぬ内部事情。ひとえに「村上訳」で売る意図あり、しかも内容は「それぢゃ野崎訳と何が違うのさ?」と言われれば答えに窮すわけで、白水社にしてみれば是非、村上春樹の生文を入れたかったのだろうし、事情は理解。だがこの断り書きの書き方「無念」が露骨すぎやせぬか。築地H君によれば白水社、この対応として、柴田元幸村上春樹の両センセ対談をリーフレットにして書店で大量配布だそうな。これが事実上の「あとがき」に当たるわけで、H君の指摘の通り「契約とかなんとか、あるいはその裏を出しぬくヤリクチなんてのはもう、ホールデンの大嫌いな大人の世界の約束事」、まったくその通り。余りに「村上訳でもう一度売ろう」といふ意図露骨すぎ。ちなみに、この対談、H君も確かにこりゃサリンジャー読んだら許可せぬだろう、と、そのレベルだが、村上センセ曰く「僕が昔読んで覚えていた野崎孝訳の『ライ麦畑』とは、自分で訳して言うのもなんだけど、訳していて、ずいぶん肌合いの違うものなんだなという感じがしました」だそうで柴田センセも「野崎訳のほうが、どちらかというと、独りごと的なんですね。村上さんの訳は、ホールデンがだれかに語りかけている」と。余にはそんな誉めるほどの違いは読みとれず。この饒舌なる対談、一つだけ興味深きことは村上センセが最後に「『フラニーとゾーイ』の関西語訳をやってみたいというのは、前々からちらちらと考えてます(笑)。」と。確かにこの『フラニーとゾーイ』を大阪は十三駅前の商店街舞台とかにしたら面白いはず。少なくともこの対談が村上『ライ麦』に載らなかったことは不幸中の幸いか。
▼村上『ライ麦』といへば、10章でのバーでの女の子との会話にて、ホールデンが(村上訳では)「ああ、クライスト、つまらないことは持ち出さないでくれよ」といった表現に女の子が「いいこと、さっきも言ったけどさ、そういう言葉づかいよしてくれない」と断るのだが、ここに※印ついて章末にご丁寧にも「彼女はgoddamとかChristといった神の名前をみだりに出すホールデンのしゃべり方を非難している」と注釈あり。そこまで断り書きするほどのことだろうか。原作読んでいれば英語でわかることで日本語訳ゆえの注釈なのだろうが、ちなみに野崎訳では「何を言うんだ。つやけしなことはよせよ」とホールデン、それに女の子が「ちょいと、さっきも言ったでしょ、そんな言い方嫌いよ」と。まるで玉の井荷風の世界の如し。野崎訳にては敢えて神の冒涜に触れず、それも賛否あろうが、触れたにせよト書きとは小説ぢゃそれは禁じ手でなかろうか。
▼日経に北京の疫禍伝える記事あり、それに「北京市共産党委員会の蔡赴朝宣伝部長は6日の記者会見で、中国人以外の市内のSARS感染者は香港、台湾を含め累計で8人と発表」と。香港人、台湾人は中国人に含まず?、この矛盾、つまるところこの記事は厳密には「中国国籍以外の」であり、この表現での中国人にはチベット人であるとかモンゴル族も含む、のであろう。が、紛らわしき表現
メーデー大型連休、北京への観光客は昨年比べ9割減、それでも48万人といふ数に驚く。今回の疫禍、98年の揚子江氾濫と比較されるが氾濫にて国土の三分の一の地域が水害に遭い田畑の被害面積は2200万平米、被害額2,500億元、政府150億元を災害復旧に当てたが、それに比べ数字上は今回の被害は小さいのだが、98年水害は自然災害であるのに対して今回の疫禍は人災、と信報社説。98年の水害、その頃にZ嬢と西安に遊び帰路、西安から広州への列車が武漢にて揚子江水嵩高く鉄橋列車渡るに危険と足留めくらい急遽武漢より香港まで飛行機で逃げたり。当時のこの水害の総指揮が現首相の温家寶氏だそうな。今回の疫禍を旧ソ連チェルノブイリ原発事故になぞる論調もあり、事故ぢたいよりその事実隠蔽した政府のやりくちにより二次災害、三次災害増長せし事実。ソ連はこの事故契機となり一連の政治改革となりソ連瓦解となるのだが、中国の場合はすでに政府が情報公開と重点的対策実施をしている点は評価されるものの、問題はマスコミに流れる情報がすべて党中央の官制下にあり疫禍が政治改革にまでは至らぬ、と。
▼疫禍にて風が吹けば桶屋儲かるの企業も少なからず。マスク、衛生用品、具体的には日系であれば住友3M、花王など。香港にては電信のPCCWなど遠隔地会議などブロードバンド利用増え増収三割とか。これで用足りるのが現実ならいかに出向くなり出張なりに無駄多きことか。
▼数週間前に突然浴室のガス湯沸し器の湯が止まりガスに異常なく電池なら電池切れランプ点く筈がそれもなく、兎に角点検すると電池の内液の漏洩甚だしく電池箱の電極に緑青付着す。電極の汚れと緑青除去し電池取り替え一先ず湯沸し器正常に作動するが、このリンナイ製の湯沸し器ぢたい昨年の六月に取りつけ一年もせぬ新品、その漏洩したる乾電池、Vattnicなる聴いたこともなき代物。調べてみればこのVattnic、広東省は番禺の華力電池有限公司のアルカリ電池。この会社には申し訳なくもガス湯沸し器の発火用電池なる作用、地味ながら重要にて然らば電池もかなり質の高さ求められ、ましてや通常正直申して名前も聞きたることもなきこのVittnicでいいものかどうか。見えぬ場所に装着された電池など通常品名調べもせず。このリンナイに苦情といふより利用者からの一声だけでも届けむとリンナイの香港営業所の電話番号確かめむが為名古屋の本社に電話すれば電話交換手から理知的にて担当部署の職員も当方が香港の連絡先教えていただくか突然のお電話で恐縮だが話お聞き頂ければ、と申せば、こちらで対応させていただきます、と。で状況話したところ担当者も湯沸し器の電池には当然十分な配慮しており香港は香港瓦斯によりリンナイ製品かなり広汎に香港にて普及しところ装着する電池は日立マクセル社の電池のはず、とかなり正確に即答され、それだけでも敬服のところ、ご指摘の通りで早速香港にて調査の上、改善を約束され、小生の湯沸し器でもし不調あらばご連絡を、と信に以て慇懃。かふいつた真摯なる姿勢と誠意がリンナイといふ会社の製品水準支えたるのであらふと敬服。
▼築地H君より『チボー家の人々』について。H君であるから当然若かりし頃に読んでいたかと思いきや余も面識ありH君のご両親、H君10幾才にて兄上中学生の頃に「いい本だから読みなさい」と全巻揃いを授けられ、思い返せば兄もH君も紐解かぬまま幾星霜書庫に眠りたり。H君曰く親がそうやってわざわざ本を買ひしこと他になし、よっぽど読ませたかったのか、とH君。余も親に本与えられたことなどなかったが、近所の本屋にて本をいくら「つけ」で買っても怒られたことなく、これだけは親にいくら感謝しても感謝足りず。しかもこのK書店、地元にては大正からの大店にて当時、丁稚から鍛え上げしW氏なる番頭おり、この方、小学しか出ておらずとも旧制中学の教師どころか大学の教授すら書籍の蒐集にて教え乞ふほどの博者にて、本眺めていると「その本、もっていきな」つまり小学生の余にも「読むに値するよ、それは」との意にて、帳場に差し出すと伝票に綴って本手渡されし日々。月に一度、商店街の寄合か何かで月の売掛、清算されていたのかしら。この頃から本の乱買癖身につく。築地H君は荷風も父上の書棚にあった新潮文庫から、と。余でいへば三島由紀夫『文化防衛論』、円地『源氏』、『ドクトルジバコ』など。雜誌『アルプ』、串田孫一など思い返せば懐かしさ尽きず。