富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月八日(火)昨晩読み残しの『反逆の獅子』ミニバスにて読み耽り北角葬儀場のまえ過ぎるも忘れLeslie張國榮の葬儀の朝の様子見逃す。昨晩の通夜には萬千の参列者あり隣せし運動場まで開放。供花は英皇道にまで長く溢れむ。折からの肺炎禍にLeslie急逝、どんよりとたちこむ雨雲。夕刻、近隣に住まふO君より電話あり昨晩遅く帰宅せば深夜にマンション入口にて入念なる清掃作業、一抹の不安覚えつつ郵便箱開けるとマンション管理部より一状ありその棟に感染者出た、と。冷静に自己の衛生に留意するしかなくО君にスミノフのウォトカ1瓶でも陣中見舞い、火事見舞いに差し上げようかと思案。香港映画祭開幕。名誉ある開幕作品に山田洋次監督『たそがれ清兵衛』選ばれしところ山田監督肺炎禍恐れ来港せず。香港文化中心にて満席切符売切れのところ実際の客の入りは七分。上映前にLeslie追悼し黙祷あり。個人に敬意表す気持ちの有無別にしてさふいつたこと強制されること余は馴染まず。手許の書に目を落す。「たそがれ清兵衛」あまり期待せず看れば、寅さんの自由人としての生活とは異なり、幕末=不況の藩=会社といふ組織での給料とりの侍=会社員の社命と己の信念の間での厳しき生活、なかなか。実直にて?屋上がらぬ平侍ながらじつは剣の凄腕にて、それを潜ませて生きる男、といふ設定、演じるは真田宏之、この平成の時代の往年の高倉健的なる理想像か。終わって万雷の拍手あり。監督なるもの映画上映あり而かも開幕上映にてこれだけの感激あれば肺炎の騒ぎなど脆ともせず来港されれば素晴らし。ロビーに下りると映画評論されるS姐、ライターのH嬢、香港大博物館のA君らと邂逅。外は大雨落雷。視界遮られるほどの豪雨に文化中心前の椰子樹折れんばかりに揺れる。香港いつたいどうなるのだろう、と皆で思案。香港の不安象徴するが如き風雨、これで一掃されるほどの疫病にも非ず。続いてJonnie杜監督の『PTU』。明日の夕刻にも上映あり夜も10時過ぎての上映、明日看ようかと思案もするがどうせ今帰っても雨に濡れるだけ。PTU、深夜の尖沙咀舞台にヤクザとのふとした絡みにて拳銃失くした刑事、警邏の警官ら、エリート警部らが組織の中での立場鮮明に立ち回りる樣の差異面白く、偶然にも「たそがれ」も「PTU」もテーマ同じ部分多し。深夜零時近くに劇場出るとすでに雨止みPTUの映画の如くひとけなく静かな尖沙咀、肺炎禍に豪雨にて事の他閑散とす。帰宅。拙家の棟のロビーにも同じ一帯の近隣のマンションにて感染患者発生との貼り紙あり。『反逆の獅子』読了。深夜、新聞読む。William Tang君の『信報』火曜日連載の秀逸なる隨筆、今回は当然の如く追悼。さすがに気の動揺抑えきれぬ文章。
香港映画祭について無署名の評論『信報』にありドキュメンタリー作品『皇家香港警察的最後一夜』の製作者劉成漢氏非難するは香港映画祭の政治敏感(政治的自主規制)にて、本来ドキュメンタリーなるもの映画の重要なる形態にありながら、これまでも『香港製造』であるとか『等候董建華發落』など政治色ある内容の作品悉く退けられし事実あり、と。主催者側今回も呉仲賢的故事など政治色ある作品も上映されている、と反論。
▼昨日の『信報』林行止専欄にてイラク攻撃と肺炎禍取り上げ碩学林行止冷静に不安材料ばかり乍ら社会不安定にて株安の時節こそ実は投機格好の時季なり、生化学、薬品など扱ふ企業への投資良好、と紹介。