富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月五日(土)曇り。在港の知人幾人かより離港の報せあり。本人が意思より駐在員が家族にての遅ればせの会社命令多し。戦線離脱の如し。それにしても何度どう考えても何故肺炎感染のリスク最も高い頃に何ら対処せず傍観し今ごろになって勧告、危険情報出ればそれに過剰に反応し帰国避難まで決定するのか、余りに自主的客観的判断乏し。翼賛的。これあくまで避難、退避の類、罹災、現に被害受けての罹災、被災に非ず。日本にて報道見た方より電話、メールなど少なからず頂く。ありがたきこと爲れど昨日偶然通話中に親類より電話ありキャッチフォンに気がつかず応答できぬだけで「留守番電話も反応しない、香港に『電話がつながらない』けど大丈夫だろうか」と過剰に心配され、そのお気持ち嬉しくも余りに平々凡々とせし香港が現状と日本にて「騒ぎ」知り杞憂されるに懸隔多きことは事実。Z嬢と出街。北角より56番のミニバスに乗り西半山に向かふが始発より終点まで乘客われら二人にて(これ肺炎禍に関係なし……笑)バス高速にて暴走、肺炎にて死亡のリスクよかこの交通事故のほうがよっぽど危険と痛感。香港大博物館の特別展香江知味:香港的早期飲食場所ありsiteにて確認すると肺炎禍にて休館といふ報せもなく赴けば休館。休館公示せぬことに憮然。晝に第三街の祥發飯店、梅菜蒸肉排、蒸滑鶏食す、美味。King George V公園、Blake Garden散歩してBridge街、ETConIce旧来の店訪れば既に此処にてはアイスクリーム販らず製造のみにて、Hollywood Rdに下りればPeel街の利園麺家も裡の甜品の屋台も店封じており肺炎禍ここまで悲惨かと痛感せば「あら、今日は清明節でせふ?」とZ嬢気づき、利園であれ香港大博物館であれ単に祝日にて休みと気づく。今日は土曜日でなく祝日なり。Cochrane街のETConIceにてgelato食す。Stanley街場外にて明日の競馬、馬主C氏のDashing Champion、馬主W氏のGogglesの馬劵購入、最近の傾向として馬場に赴けぬ日に戰績好し、殊にGoggles、3月23日のChairman’Trophy(G2)、Electric UnicornとPricisionの一、三着での31倍での二着はお見事、明日は131磅ながらWhyte騎乗に期待。密封され流気なき地下鉄だの空調バスこそウイルス感染度高しといふ判断もあり冷房もなき路面電車最も安全といふ理屈もあり、そのぶん汚染させし大気塗れながらマスクすれば確かにマシかもしれず路面電車にて銅鑼灣、無印良品にて買物、Z嬢買物の間、星巴珈琲にて一喫、新聞読む。帰宅。NHKの週刊子どもニュース、今回もまたガキ相手におとうさん病的にイラク攻撃の武器だの兵器だの米国の支出だの述べ怖いほど芝居慣れした子役驚いてみせる様気味悪し。日暮れ前に裏山一時間ほど走る。ドライマティーニ。住宅にての換気奨励されどの家も季節もよきことあり窓あけて子どもらの騒ぎ声、音樂歓声轟き煩きこと甚だし。されどこの喧しさも健康、団欒ゆえかと思えば不快でもなし。残り物の葡萄酒で淺蜊をクリームソースのパスタ。たまたった新聞読む。
▼断片的なこと。四月一日の夕方、突然、携帯にDirector of Health announced at 3 pm today there is no plan to declare Hong Kong as an infected area.という伝言入る。香港が感染域と宣言する予定がない、といったい何を突然宣言するのか意図わからなかったが、これがあとになってわかったことはインターネットで香港が疫埠(infected area)と政府宣言し出入境を禁止する、というガセネタが流布され、それでスーパーなどでの買い溜めなど混乱招き政府躍起になってその否定に努め、この携帯への伝言は政府情報局の依頼により携帯電話会社が利用者に流したもの、だそうな。こういった携帯と伝言の利用による政府の緊急発言は当然、初めてのこと。急を要したのだろうが一度使えば實績となり今後どのような使い方されるか心配といへば心配。で、このガセネタ、14歳の少年が学校は休校だし暇に任せて明報のウェブサイトのフレームを利用して捏造、ただし自分のHPに乗せての氣晴らしに過ぎず社会混乱を招く意図なし。ただそのサイトみた者がそれを拡散させたのが事実。この少年、警察の事情聴取は受けたもののHK$1,000の保釈金にて解放され三週間後の出頭命じられるが、少年であるかどうかの問題ではなく、本人はせいぜい明報著作権有するサイトを無断コピー利用した程度の問題、そもそもインターネットでガセネタ流したことを取締る法律などないのが事実。いずれにせよ、14歳でいかにもきちんとした政府の疫埠宣言を作れただけ理知的な少年。
▼ 断面的なこと、その2。同じ四月一日張國榮の投身自殺。マンダリンオリエンタルホテルの24階の私人會所Private Clubより飛び降り、その露台balconyにて最期、遺書認めたと当初報道あり、このホテルの24階にバルコニーつきの倶樂部などあったかしら、と思ったがその後の報道で24階のジムとわかり、それなら合点がいくが、でもビルの構造上広いバルコニーあるが「あのジムに開放された」バルコニーなどあったか、と疑問。すると週刊壱読んでいたら、不幸なる偶然は、ふだんはこのバルコニー閉切っているのだが折からの肺炎感染で空気流通よくするがため扉開いており、このジムの熟客でスターでもある張國榮ゆえ、スタッフもバルコニーに彼が出ることを厭わず、しかもジムからは窓帷に遮られバルコニーの様子は知るべくもなし、というのが当日の状況。それなら凡て納得。ちなみにこのジム、当然ホテル宿泊者対象にてビジターはあまり宣伝もしていないが、年会費HK$27,000、お高いがジム、羅馬風呂の如きプールが使え、月1回だか按摩、フェイシャルが無料、考え方によっては納得できる価格かも。一ランク下も用意されているがHK$3000の入会金と年会費15,000でこちらはお安いがジム利用が平日と土曜の晝間と閑散時間のみ。ちょっと使いづらい。但し『忽然一周』誌は張國榮がホテルの總統套房(Predidential Suite)に投宿、此処には露台あり、ジムにも行ったがこの部屋より投身、部屋の家具などもかなり乱しており事故後部屋は閉鎖され修復中、と。またあくまで張國榮の鬱症とする他紙に対して『忽然』は張國榮の助手にて新しき若き愛人、張國榮に距離おき横恋慕、芸人の某君らと遊興、それが張國榮悲しませ、自殺の当日もこの助手をホテルに呼び出そうとしたものの断られた、と。更に「劇的」なることはこの日、張國榮、曾てのマネージャーにて畏友というべき女性とこのホテルのクリッパーラウンジにて一約あり、その場に約束の時間に現れず、じつはすでに張國榮ホテルにいたのだが、駐車中と言い、この女性にラウンジ出て車寄せにて待つよう指示、但しこの女性ロビーにて張國榮待つ。もしかりに彼女、車寄せにて張國榮待っておれば、其処に天から張國榮降ってくる……といふことか。余りに出來すぎといふ話にて『忽然』ゆえにそのまま信じられぬが、想像するだけで背筋寒くなる話。
東京海上火災が海外旅行保險にてSARSも対象、と(日経)。通常、旅行を終えて72時間経過した疾病補償対象外ながらSARS感染症に指定されたこと考慮しこの決定。これに安堵する方もおられようし、この決定吉報のようだが、保険会社とてこの措置、今後日本にての拡散も有得なくはないがあくまで海外旅行保険にて、旅行中にSARSに感染する日本人かなり稀、とじゅうぶんに見越しての決定と察す。
▼ 日経の「春秋」昨日に続きSARSについて秀逸なる文章。この感染症、新出企業の活動停滞させるなど経済活動への影響懸念されるが疫病が戦争やテロも及びもしない文明の破壊を齎した歴史思い起こす、と書き始め、ペストにて17世紀半ば10万人の市民失った維納(ウィーン)を挙げ、新たなウイルスが流行する背景には人口集中で高密度社会が急速に広がるなど大規模な環境破壊があり(産業革命時の結核など)SARSの「震源地」が都市化による人口集中と急ピッチな経済発展が進む中国南部とされるのは象徴的、いたずらに危機感を煽る必要ないが文明の傲り戒めながら厳しく向き合う必要あり、と。御意。朝日の天声人語の「戦争で血を流し合っている人類へ「もっと大事な闘いがある」との警告かもしれない」といふ書生論に比べ真摯なる説得力。