富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月四日(金)曇り。Exodusが始まっている。香港から大量の日本人がWHOの渡航自肅勧告と日本政府の危険情報発令に靡いて香港から避難してゆく。結論から言おう、常軌を逸している。現実問題として最も感染のリスク高かった時を逸してリスク急減する今にこの過剰なる反応。その一般市民が最も感染リスク高かったのは病院の医療関係者が高感染度を知らぬまま治療にあたり自らが感染し家族などに感染広まった三月下旬の数日と感染蔓延したマンション居民で自らの感染しらぬまま図書館や銀行などに出勤していた日で、その時に何も知らぬまま香港に居住続けたのが我々であり、今現在、今日の感染者数は27名、そのうち5名が医療従事者で8名がその特定のマンション居住者、そのほか14名が感染者との接触か感染経路わからぬ者。明らかに控制できつつあるのだが、実態に見合った判断できなかった者がお上の勧告だけを拠所に盲目的なexodusを始めた。WHOの勧告は明らかにこの感染症の原因解明に非協力的な態度続けた中国政府への圧力であり、日本政府の危険情報は発令に踏み切れずにきたものがWHO勧告というお墨つき出たことに據る遅ればせのいつもの追従思想。なぜ最もリスク高かった時になにも発令せず今なのか、きちんと考えてみればわかることで、そのような勧告発令に従うだけの信憑性があるのかどうか、真っ当な思考力があれば判断できること。だがその危険情報とて「渡航の是非を検討」するよう呼びかける、って、だいたいニュースソースは限られる、外語はできない、普段からソースを相対的に比較して事実を得る訓練に慣れていない、の三重苦の素人が、だ、検討するに値するまとまな判断材料も何もないのだから、真っ当な渡航是非の判断などできるはずもないだろうに。判断材料といえばマスコミの流すニュースなのだが、某テレビ朝日の取材依頼を知人を通して受けたY嬢は「とにかく情報が不足してる」ってことを言ってもらえばいい、と諭され、某産経新聞社会部の記者が電話で「どれくらいパニックになっているのか?」を執拗に質す取材受けたK君は「香港を感染源とする肺炎」と宣った記者に逆に「香港が感染源とは特定されていませんよ」と指摘する始末だった、と。そのくらい意図的で、時期外れで最初からパニックを報道したいマスコミ、それを見聞きする判断材料も判断能力もなき市民……日本のこれこそパニック状態。日経の「春秋」はまだマトモで「流行地帯に滞在したというだけで感染を疑うほど強い伝播力はないとみられている」と述べ「でも、見えない敵ほど怖い」「感染は杞憂」な例が多く、確かに「過敏な反応のほうが病気の拡大防止には役立つ」が「海外旅行による病死で」は「感染症による例は少なく心筋梗塞脳卒中が多い」と冷静で正直に述べている。だがその日経も香港の桃井特派員の記事で「香港政府は三月三十一日にSARSが大量に発生したマンション一棟の隔離を発表したが、既に過半数が転居した後といわれる」と書いている。この記事を読んだだけでは過半数が逃げてしまって隔離できずにいる、というように読める。センセーショナル。確かにこの措置が後手後手にまわったのは事実だが、住民のそれ相応の数の住民が「転居ではなく」伝染性の高いこのマンションを避け親戚や知人宅に一時避難していたのであり、政府は隔離の時にマンションを離れていた住民にも自己出頭を求め、勿論それに応じず未だに消息不明の者もいるがもともと確実に居住していたのかどうか吝かでなき者も含め58戸、というのが事実。全くリスクも関係もなき遠い日本にいる輩がこんな記事読んで不安を感じる。朝日は社説で「私たち一人ひとりも、インフルエンザが流行した時と同じように、手洗いやうがいを心がけたい」だって。こういった日頃の励行は大切だよ、だけど新聞の社説で宣うことかよ、これ。ちなみに朝日の天声人語はやはりこの新型肺炎について「人間同士が戦争をしているときに、謎のウイルスが人間に襲いかかっている」と語り始め「どれだけ医学が進歩しても、その裏をかくように新種の病気が出てくる。病との闘いは続く」と続け最後「戦争で血を流し合っている人類へ「もっと大事な闘いがある」との警告かもしれない」といかにも朝日的な「はい、よくできました」のまとめ方。非常にリベラルな正論のようだが、一昨日紹介した養老先生も昨日のVittachi先生もウイルス感染症の病はけして闘う相手、と述べていない。私にはそっちのほうが共感できる。夜、自宅へ戻る途中、車で北角を通る。確かに人通りはいつもに比べ少ないし、飲食店などにとっては大打撃だろうが、それでも北角の英皇道ですらこの閑散とした程度が倫敦でいへばRegent街かCovert Gardenほどの人ごみ、少なくともハロッズの正面よか賑っている。マスクをする人は減っている。空気感染がなく、感染が感染者との近距離接触に限定されており、それを除く日常生活では感染の機会がかなりないことからの安心感なのだ。車が東區走廊に出ると昨日来の雨と気温の低下、それに何よりも経済活動の停滞もあろう、人と物の流通が減ったことの大気汚染の改善のはずだ、ビクトリアハーバーの対岸、その肺炎ウイルスが蔓延したといふ牛頭角のマンションのほう、沢山の集合住宅の明かりがいつもよりずっと鮮明にきれいに光っている。そればかりか遠い大帽山の頂の測候所の灯火までがはっきりと見える。春のこの時期にこんな空気が澄んでいるなんて。肺炎騒動がこんなに香港をきれいに見せてくれるとは。あまりの夜景の美しさに、この香港という都市の素晴らしさをあらためて感じ入る。ここは逃げ出すには勿体ない。少なくとも日本よかマシ。帰宅して豆乳しゃぶしゃぶ。これが予想以上に美味。しゃぶしゃぶしたあと、その汁でらーめん食す。日本の一億総白痴(総白痴といったら失礼だし事実、知力ある方はいるのだがそれが五人か六人に一人だとしたらちょうど人口比で残り一億くらいは白痴であって、正確には一億白痴と「総」を含まぬのが正しいのかも)象徴するのがみなさまのNHKニュース10である。今日もイラク、肺炎、プロ野球だけ。他に、いやイラクや肺炎や野球などどうでもいいのである、自分たちが真摯に惱み考えるべき問題が鬱積しているというのに……それを全く触れもせず、なぜ2m四方もの巨大なバクダッドの市街地の立体地図模型まで作って米軍が占拠したらしいバクダッドの空港から大統領府までの戦闘を分析してみないといけないのか。それはけして米軍の進攻がどれだけ市民を巻き添えにしているか、の検証ではない。ただボードゲームのように戦闘のシュミレーションをして遊んでいるだけ。自分たちが余りにバクダッドから遠いところにいるからせめて気分だけでも戦争に浸りたい。こんな立体地図まで用いてイラク進攻はCNNもBBCも放映していないのだ。なぜか、意味がないから。結局、30分以上にわたってこのイラク侵略を「報道」するのだが、結局、米軍の進攻の詳細だの枝葉のどうでもいい詳細の紹介が続くだけで総論としてのこの戦争の是非といった検討に欠ける内容。5分で済む。そして肺炎だ。ここ二、三日に比べ内容に欠ける。いま一つセンセーショナルなパニックぶりがないのだからそりゃそうだ。でも意図的なのは感染症の病原拡がる香港の映像はなぜかいつもの中環の超高層ビルやハーバー、山頂からの眺望でなく土瓜湾のいかにも病原菌蔓延りそうな薄汚い老朽化した雑居ビル(笑)、無意識であれ意図的な画像。でこの二つの「視聴者らにはなんら影響もない遠い地方の惨禍」が終れば熱狂的な野球、野球、野球。もう番組始まって40分以上が経過、ようやく他のニュースになるのだがトップは「大型再開発で完成の六本木ヒルズ暴力団排除を宣言」「准看護婦の免許再公布された曽我ひとみさんが幼稚園の予防接種のお手伝い」「ミスタードーナッツ経営するダスキンに対して株主が肉まんに食品添加物いれて会社の社会的信用落としたことに株主訴訟で10億円を損害賠償要求」とこの3つを手短に5分ほど。わるいけどどうでもいいこと。もっと大切なニュースはいくらでもある。そして天気予報では春告げる、山形の養殖鯉の越冬用の池からの引っ越しと京都祗園の夜桜。簡単に為替と株の相場。これで終るかと思ったら時間が余ったらしく「また」大リーグのこと。馬鹿だ、こりゃ。こんな意味のない無意味なニュース編制、日本以外のどこにあろうか。これが渋谷のNHKのあの世界でも有数の設備と資材有する、しかもクーデターなどの安全防備でも世界で指折りの施設である、あのニュースセンターでこんなお粗末なニュースが作られ、それが世界でも言論と思想の自由さでは有数なる国家の一つである日本でこんな番組がメインニュースで流れる。これは明らかに超バカ国家。香港から肺炎恐れて避難するよか、この超バカ国家からディアスポラするほうが優先課題のように思えてならず。少なくとも今、香港から避難する必要はないし、短観的な感染症などよか今後の政経環境まで考えたリスクを判断した場合、日本よか香港のほうがマシだろう。ちなみに今日の日経にあったが、米国のミルケン研究所グローバル会議で「日本は移民受け入れと大胆な構造改革なしでは日本は停滞を続ける」と断定される始末。「移民を受け入れないため高齢化が急速に進み潜在成長力が落ちている」と。その通り。子どもは国の宝。子どももおらず移民もなくどうやって経済力を維持するのか。米軍の軍事進攻ぶりだの遠い感染症だの報道して現を忘れるまえにこういった深刻な自らの国の問題をぜひ考えるべき。