富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月三日(木)天気予報は最高気温26度、濕度92%、すっかり不快な春、気温は24度止まり乍ら驟雨幾度かあり雲の絶間に陽光さす。WHOの香港及び広東省への渡航自肅勧告、日経も朝日も一面トップで伝える。ちなみに香港の新聞では蘋果日報は巻頭10頁特集は張國榮の追悼、South China Morning Postはイラク攻撃、信報はスイスにて世界宝石時計見本市に参加予定の香港からの出展者がスイス政府により見本市参加を拒否されたこと。日本のマスコミ、今回のWHO勧告を必要以上に大きく扱っている、といふのが香港で冷静に見ての感想。日本企業の対応として某社など「不要不急の出張を延期」だって。不要不急の出張など平時でも不要、そんなものしてる会社など倒産して当然だろう。今回のWHO勧告、明らかに中国政府の不明瞭、誠意足りぬ対応への圧力にすぎず、現状は昨日の感染者20余名と沈静化に向いつつあり、事実、昨日のうちに中国政府はWHOの担当官の広東省への渡航と調査、感染者数の公示を確約。本日、WHO調査官らは広東省に到着(中国国内線エコノミークラスでの移動とは立派)、広州白雲飛行場には広東省の衛生当局担当者笑顔で出迎え握手(危険……笑)とは国賓級の対応。但し北京の衛生局長はこれまで「肺炎は国内ではすでに管制下にある」という声明覆すが如き今回のWHOへの隷従についてかなり不快らしく公式会見のあと「中国の老百姓(市民)は理知的であり香港など国内に比べ更に理知的であり(感染症への衛生について)理知的な対応できる!」とかなり興奮し、その面子丸潰れに対する不満もわかるが、余りの興奮ぶりに周囲の記者も苦笑禁ぜず。香港政府教育統籌局休学措置の公立学校に対してその休学措置21日までの延長を決定。今週は誰かと会う予定もなければジムに赴く意思もなく空白の如き日々、鬱にならずこれを機に山を歩くとかシェイクスピアの全集読むとかモーツアルトのオペラを聴きまくるとかブリッヂを覚えるとか、そういう発送の転換が必要と畏友J氏と語る。余もせめてディケンズの『デビッド=コッパフィールド』は讀み終りたいもの。J氏より啓蒙的なVittuchiによる記事教えられる。読んで溜飲下がる思い。下記に訳を掲載。黄昏、歸途一緒になつたM君と太古城、ビールでも一杯飲みませふといふことになりJimmy’s Kitchenの普及店であるLittle Jimmy入るが晩には早い時間とはいへ軽食の一組出たあと七時くらいまで我らの他に客も来ず飲食店の閑散ぶりを痛感。競馬誌買おうと雑誌屋に寄るといつも買わぬ『週刊壱』、肺炎に加え張國榮の特集、早くも特集組み、編集部にしてみれば「美味しい」ネタ二つも重なり嬉し悲しか。自宅にてチゲ鍋、真露飲む。連日「中国政府の陰謀」(笑)により香港にて肺炎ニュースが「謎の」放送中断されるNHKニュース10、今晩は(日本時間)9時27分すぎから肺炎といつもの予告、生放送なのだからこの予告止めてみるか「まずイラク戦争についてです」と言っておいて「が、香港、広東省を中心に広まる謎の肺炎について先にお伝えします」とフェイントかけてトップでやってしまとか如何か。どうであれ、つまりは9時から27分もイラク攻撃を話題にする、というわけで、こんなのCNNとBBC除けばNHKのみ。イラク攻撃、報道過剰。イラク、肺炎、松井以外のニュースはないのだろうか。で結局、今晩はなんら中断もなく肺炎について、が始まり、イントロでいきなり医者が「感染してこんなに人に感染るというのはそもそも今までなかった」というようなこと宣い「マジ?」と嗤ってしまふ。ペスト、コレラ、腸チフス天然痘……。こういうセンセーショナルな報道、大衆の心配を煽る扇動だよ。で、WHOは空気感染がない、と言っているのに「空気感染の可能性も否定できず」とテロップ。で、冒頭のその医者だが東大医科学研究所岩本愛吉教授、この「感染してこんなに人に感染るというのはそもそも今までなかった」という爆彈発言、いったいどういう経緯と背景、脈略でこんな発言したのか真相は?と期待したが、冒頭のその発言部分は触れず、たんに一般的な感染症のわずかなコメントのみ。おいおい、冒頭のあの発言はいったい何だったのだ?、明らかにマスコミのニュースは美味しいところとって面白いニュース構成してる、と痛感。おそらく、だが、この岩本教授の発言は「通常の肺炎で」という前置きがあったのでは?、そこがカットされると冒頭のような「暴論」に聞こえてしまふ。事実、昨日の感染者は27名と急激に減少しているのが事実。つまりアモイガーデンで特定の一、二日に感染があり、その感染者が感染知らぬまま職場に行った点で尤もパニックとなった、ということ。潜伏期間は7日であり、その特定の日より一週間すぎれば事態は必然的に好転する。と嬉しいことなのだが、マスクにやたら詳しくなり数種類のマスクを二、三枚ずつ有する身として、それが無駄になることにどこか惜しい気すらするのが本音。いずれにせよ、こういう状況が香港の現状。つまり日本のマスコミは「騒ぎすぎ」で、しかも騒ぐのも遅すぎて、「いつものことだが」事態が収拾に向かう中でのパニック報道で皆さんに迷惑をかけている、ということ。わかっちゃいないのだろうが。
▼ 小泉三世、NHKのインタビューで首相自ら英仏など訪問し首脳会談する意思の有無問われ仏蘭西の志楽大統領三月の訪日延期になったことを挙げ(これは霧島の引退が訪日延期の真相といふ噂あるが)状況が一段落し5月の連休のことだろうが「連休が休みになったら」と宣い自ら自分が忙しいかどうかでなく言葉として連休は休みといふことに気づき思わず苦笑していたが、この人のインタビュー聞いていて、改革改革と言葉こそ積極的だが実質的には何もできず、やはり自民党のなかでは単なる奇人として扱われる現実、不憫以外の何ものでもなし。
▼ Far Eastern Economic Reviewなどの人気コラムニストで曾てSouth China Morning Postの「利是」の名編集者であったNury Vittachi、そのSCMP紙に “And Now Good News”といふ今回の肺炎に関する文章を発表、と畏友J氏より報せあり。
危険なウイルスが香港に蔓延している。が、そのウイルスは「謎の」肺炎でなく「パニック」というウイルスなのだ。感染性の高い例えば英国の狂牛病などいずれの病原体や病気も二つの大きな影響がある。ごく少数の人々がその疾病に感染する。多くの人々、組織と企業はそれに付随するパニックに打撃を受ける。そう、もちろん感染症に注意を払い医療関係者のアドバイスを受けるべきだが、パニックに陷る必要はないし、香港を離れる必要もない。
1. 家に閉じこもる必要はない。この文章を書いている時点で(2003年の4月第1週)香港の99.999%の人はSARSウイルスに感染していない。
2. 感染者の増加はすべてのマンションのブロックで、を意味しない。ウイルスの感染は非常に限られたエリア、the Prince of Wales Hospitalとアモイガーデンに限定されている。
3. 米国だけでも毎日99名の人が風邪で死亡している。この99名のうち約30名は呼吸器系の失陷である。香港では毎月16名が死亡している。
4. 香港と同規模の大都市においては常時、数百名の肺炎患者がおり、内数十名は非典型の(つまり通常以外の)肺炎である。
5. もちろん、ウイルスは突然変異する。が、それが更に感染度が高くなる変異を意味しない。科学者はSARSが拡散すればするほどウイルスの効力が弱まることを述べている。
6. 医者はこのウイルスに殺人性があると述べているが、今回の生存率は96%である。
7. もちろん、我々は子供を心配するが、子供への感染は稀であり、注意深い調査結果は今回の感染者の多くが菌保有者と直接の接触のあった年配の者に多いことを証明している。
8. 汚染された場所は清潔にされれば、ウイルスは感染者がいなくても死滅する。ある科学者はこのウイルスじたいの生命力は3時間と述べており、それが多少長いと述べる科学者もいるが、誰もがこのウイルスが冬眠性がない(つまりいったん消えて再生すること)ことを認めている。言い換えれば、なんの恐れもなく(最初の感染拡大のあった)メトロポールホテルの9階に投宿できるのだ。
9. ウイルスは気温が27度になれば死滅する、と考えられる。盛夏の香港で蝿が地上から影も形も見えなくなるのと一緒。
10. オフィスではエアコンをつけていてもよい。プリンスオブウェールズ病院の8B病棟は8A病棟とエアコンを共有していた(そのため感染が広まった)。8B病棟には単体のエアコンがなかった。
11. 多くの人はウイルスの拡散をSF映画のシナリオのような急激なもの、と考えている。広州の事例を見るように、拡散は数週間を経て、それからようやく感染が始まる。
洪水のようなメール、それも事情通の医者を含む、が人々の間に流れているが、それは有益ではない。一通のメールが状況把握のできない人をさらに脅えさせる。パニックは頭の混乱を引き起こす。上述の事実を考慮してほしい。香港はわれわれの住処なのだ。落ち着いて、健康的に暮らそう。
……と。こういう文章がマスコミでのるべきこと。
▼築地のH君より「もはやいちいち愕くのも馬鹿馬鹿しい」産経新聞産経抄の紹介あり。引用するのも呆れる内容だが最後の一文のみ紹介すると「「警鐘を鳴らす奴は、いつも安全なところにいる」という警句があった。(略)そうなのである、反戦にしろ、平和にしろ、かっこいいことをいう奴は大概安全なところにいる」……と。反戦とか平和ばかりか戦争を仕掛けて煽り平和を壊す者だって大概安全なところにいる。海軍とはいえ戦地とは遠い主計少佐であった大勲位、幼少で平和裏に疎開生活を送った都知事が戦争で命を失った若者を語る。
張國榮の死亡の記事、今日の香港紙、日本での反響の大きさ取上げる。どこのスポーツ紙がわからぬがレイアウトからして日刊スポーツかスポニチだろうが記事の文に「4月1日がエイプリルフールのため身元確認に手間取った」とあり。おいおい、そりゃ「エイプリルフールのためニュースが流れてから事実確認に手間取った」だろうが。ホテルで投身自殺があり救急車が到着した段階で所持品から(そして偶然にも損傷なかった顔からも当然だろうが)自殺者が張國榮であることはわかっている。「エイプリルフールのため身元確認に手間取った」としたら、張國榮にはこういう言い方をしたら失礼だが、投身自殺はあったが精巧にできた人形かそっくりさんでも落ちてきてホンモノのLeslieかどうか確認に手間取った、というようなこと。築地H君によると筑紫哲也ニュース23でこの張國榮の「自殺が波紋」とかいうので「香港の肺炎さわぎ絡み」かはたまた「中共の陰謀説か?」とH君思ったら「世界中でファンが悲しんでいます」だったそうな。まぁ神戸の地震で被災地をヘリでながめ煙硝を「まるで温泉のよう」と表現してしまった築紫先生の番組、これくらいで愕いてはいけない、か。そういえば築紫先生といえば97年香港返還の当日は先生自ら来港、香港から生中継されたのだが丁度、中環のBank of America Towerの横で取材準備(リハ?)する先生のお姿に接したが、かつて「こちらデスク」での気さくさの微塵もなき威厳の固まり、ご本人の仏頂面と周囲のスタッフがまるで○○宮様にお仕えするが如きピリピリとした緊張感、これじゃもう自分の足で見て聞いての現地取材などダメだな、と痛感。話は違うが新聞記者でも邦字紙の『週刊香港』や『香港ポスト』読んで記事の参考にするのがいるのも事実。
▼連日できるかぎり要点を絞って短い記述を、と思うのだが「時節柄」どうしても書いておきたきこと多し。野坂昭如先生がいいことをメールマガジンに書いている。「イラク戦争」とマスメディアは呼ぶが宣戦布告ナシ、昔の大日本帝国に倣えば、「イラク事変」そして正確には、「イラク侵略」。クェートからバクダッドへ向け「時速4.5キロで」米戦車軍団「進撃」。軍事シロートの先生の杞憂適中、補給が続かなくなって前線将兵泥水すすり砂を噛みの惨状。「チグリス河の水を飲むらしいが確実に下痢をする。これ、別にイラク生物兵器じゃない」と(笑)。「砂嵐はまさしくイラクにとってアラーの恵み」であり、4月になればなお猛威をふるい気温は日中摂氏40度のなか、ベトナム戦争の時のようにアイスクリーム、クリーニング専用駆逐艦を派遣するのだろうか、と。また冗談はこれくらいにして「15、16歳の少年が自爆テロを行う。日本の評論家いわく、「こういうことをさせる国ですから」と憮然たる面持ち。オイオイ、はばかりながら私、58年前の今頃、黄色火薬の袋を抱いて、鬼畜アメリカの戦車に接近、放り投げる訓練を行ったよ。14歳だった」と野坂氏。そう、着実に日本人は歴史の事実を忘れてゆく。大切なことなので以下、引用。「聖戦」に生命を捧げれば、アラーの祝福をさずかる、だから喜んで「自爆」する。言葉通りには受取らないが、少なくともぼくは他人事には思えない。当方、「御国」のために生命を捧げれば、「神」になれた。某TV局の街頭インタビュー、若い女性3人に、今の「戦争」について訊く、「えっとォ、ハワイとアメリカ、ちがう?」「アメリカとヨーロッパの、ドイツかフランス」「日本じゃないよね」。こりゃもう立派、TVも観てないらしい。リッパリッパ、せいぜい青春を楽しめ、恋せよ乙女。北朝鮮核武装がいわれるようになった。核武装など、その気になりゃ明日にでも造れると。確かに材料はいやというほどある、問題は起爆装置。ミサイル防衛システムの設備もいわれる。着手してまず5年かかる、しかも完璧じゃない。北の「脅威」を大袈裟に考えることは危険。まったくその通り。