富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月三十一日(月)朝起きてZ嬢とホテルに隣接するゴルフ場抜けて黒砂湾道を歩き地中海建築の黒砂官立小学の先から石面盆古道に入り小一時間、路環市区に近い澳門監獄のあたりまで山道歩く。澳門監獄、暴力団抗争激しき土地柄ゆえに某の牙だの香港、広東に名を馳せた親分も収監されており確か日本人も一人愛人殺害だかで服役中のはず。となりに感化院。感化という精神、そこで青少年に対してどれだけ権力が政治的に作用しているのか壁の外からは伺い知れぬ。道を挟んだ向かいがキリスト教の老人院。まさに生と死の極みの如き場所。町の中央のロータリーに面したいつものパン屋で今朝はチョコレートクロワッサンとラズベリーのヨーグルト購いザビエル教会の前の広場で食す。この教会、ザビエル師の遺骨あり10年以上前にN兄参拝に付き添った頃は鄙びていたが澳門の「観光開発」にてすっかり「整備」され昨日など朝から賛美歌スピーカーで流しキリスト者とは思えぬ観光客がうろうろ徘徊し静寂など遠い世界。日曜の朝だといふのに礼拝され行われておらず。今朝は月曜にてさすがに静か。海の向かい側は中国にて其処も10年前は鄙びた広東の漁村であったものが今では8、9階建ほどの高層建築すら立ち並び……といってもマカオに面して今後の経済発展期待されると5、6年前一気に開発されたのだろうが今はバブル崩壊していようが、それでもこの路環、其処からの眺望は一変したことは事実。バスで黒砂海岸、海岸を歩いてホテルに戻る。まだ朝も9時半、ホテルのレセプションでレイトチェックアウト頼むと午後1時までよいと言うので、ホテルに着く頃に久々に陽光あり気温も24度ほど、プールサイドで昼すぎまで読書、微睡。荷風先生『あめりか物語』読了。ホテルのシャトルバスで一旦波止場、荷物預けて路線バスで新馬路、まず澳門大街の北京水餃、この店は11年くらいまえにAfonzo III近くの路地で見つけた逸店、今でも小さな、飾りっ気もない「たかだか」餃子屋だが北京でもこれだけの美味い餃子はない、と思えるほどの味のある餃子供す。港澳ではこの店に敵う餃子屋なし。ここで韮菜猪肉水餃と鍋貼、続いて福隆街の祥記麺家にて雲呑麺と蝦子労麺、これで終わらず杏香園で椰子杏仁合桃湯丸。かなりの満足。実は餃子や麺よりも杏香園の甜品のほうがずっと値が張るのだがこの椰子杏仁合桃、つまりアーモンドと胡桃の糊(ペースト)をココナッツミルクで伸ばした逸品は何処よりもここが美味。骨董品屋など冷やかしいつものパン屋でクロワッサン購い4時前のフェリーで香港に戻る。三日ぶりにまた物々しき肺炎警戒の世界。90名弱だかの感染者続出の九龍塘・淘大花園E座、多くの感染者がこのマンションの住人でその勤務先である図書館だの銀行だのも閉鎖されたのだが、このマンションが感染厳重にて今朝「封鎖」され住人は軟禁状態にて外出不可、700名だかの住人は10日間、缶詰状態にて衛生署、警察の監督の下、物資補給を受け感染の進展を観察される。大量感染のあった此処を抑えれば効果的というのが政府の判断なのだが。それにしても突然の朝七時の封鎖にて、かりに浮気相手がこの淘大花園E座に住み、一晩この情婦宅に遊んだ男いたとしたら朝イチで軟禁されては「出張」と嘘ついていた家庭にも会社にも浮気バレるか。ジョージ=オーウェルもここまで悲惨で無慈悲な21世紀は想像もしなかっただろう。筒井康隆氏ならこの閉鎖されたマンションのなかでの、さぞやすごい物語を書けるはず。そのM君より日本より精緻なるマスク届いた、と届けに来てくれ頂戴する。このところ最高の進物ご贈答品は日本製のマスクなり。皿うどんNHKニュース10でも肺炎蔓延と前述の淘大花園封鎖のニュースまで流れた模様。なぜかこのニュースの部分だけ衛星中継されず。『帝国』読む。
▼ 旧聞に属すが28日の日経の株主総会にて「小ナヴェツネ」鶴田会長解任動議は95%!だかの反対多数で否決とか。
▼ 今回の非典型肺炎、もともと中国、広東省の台山が発生源といわれているがWHOの調査官、北京には入ったものの広東省への実態調査の批准おりず。『信報』の社説によると問題はWHOは憲章により各国政府の要求があった場合に必要な協力と援助を提供する、とあり、今回のケースでは中国政府からその要請がない場合に強制的な査察は実施できず。それだから中国政府は実態を「隠しているのでは?」と疑われるのだが、中国のこの疫病に対して深刻でないことも確かで、広州や深センでの衛生作業の不徹底もあるし、マスクする市民も少なく、対外経済貿易部副部長で中国がWTO加盟の際の主席代表であった龍永圖が「香港は人口600万人おり、そのうちの300人が感染したくらいでは恐慌に値せぬ」と発言、広州衛生局長も「広州は人口1000万人おり100名ほどの感染は比率として小さい」と。人口10億いればこの程度の感染は問題ない、ということか。だがこの信報社説が言うように疫病は重商主義と相関しておりマルコポーロコロンブスといった商路開拓のための遠征で各地の疫病が欧州へと齎されたのが事実。それを思えば国が重商主義をとるときに疫病蔓延し、経済発展企図する国家にとって疫病による人口減少は深刻、ゆえに公共衛生政策がとられる、と。中国がWTO加盟など今後の経済発展を企図するなら外国投資の導入などにおいても公共衛生は重要であって、感染者の人数の多少にかかわらず疫病には毅然と原因解明し感染を防ぐといった対応が必要、と。御意。この社説が述べるように、国家の衛生政策といふのはまさに政治そのものなのであって、衛生的な国が立派かといふと実は国家にとって財産たる国民の保護=労働力の確保に他ならず、シンガポールな何故にあそこまで衛生的かといえば人口僅か200万人余の経済先進国にとって人口の確保こそ国家の最優先課題である、といふこと。