富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月二十日(木)雨。雨空はこの季節ながらふだんならじっとりと肌湿るはずが冬のような寒さ。米国によるイラク攻撃始まる。「イラク国民の解放」なのだそうだ。開玩笑。解放されるどころか世界席捲する<帝国>のmultitudeの一人にされてしまうだけ、解放どころか<帝国>の囲い込みに他ならず。『世界』4月号で、どうせ誰も読んでいないだろうから紹介しておこう、寺島実郎氏の「能力のレッスン」第12回「不要な戦争を拒否する勇気と構想」は目から鱗落ちるほど。イラク攻撃、バクダッドに空爆始まったが、実はバクダッドのことなど我々は何も知らず。世界史の教科書にあった四大文明は大河の流れに培われ、メソポタミア文明はチグリス河とユーフラテス河、じつはそのチグリス河がバクダッド市街を流れているとは。バベルの塔だといわれる遺跡もバクダッド郊外に在る。そこがいま米軍の空爆を受けているのだ。だがこの土地の不幸は今に始まったことではなく、400年ほどオスマントルコ帝国の支配下にあった此処は1914年に英国の占領に遭った。英国は今回のイラク攻撃で米国と歩調を合わせただけではなく、それ以来、この地は「大国のエゴと無責任」(寺島氏)によって翻弄されてきた。実はなぜチグリス河からのことを綴ってゆくなかでイラクという国名用いらぬかといへば、1921年に民族も宗教も異なるバスラ、バクダッド、モスルといふ三州が英国によって「イラク」と人工的に創り出されたという事実。恥ずかしながらそのような歴史を一切知らず。寺島氏は米国はまさにバベルの塔を建てた民が如し、と指摘。確かに「去来(いざ)邑(まち)と塔(たふ)とを建て其(その)塔の頂を天に至らしめむ斯(かく)して我等名を揚げて全地の表面(おもて)に散ることを免れんと」(創世記第11章)といふ一節は米国の傲慢さそのもの。で、寺島氏が指摘するのは9-11のテロ以降の展開としてイラク攻撃浮上したと考えがちだが事実はさに非ず。実はPNAC(新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト)なる政策集団あり、クリントン政権軍縮に不満もつ共和党タカ派民主党新保守主義、それに軍産財閥などにより97年に成立されたのだが、ここの中心人物が湾岸戦争時の国防長官で現ブッシュ政権の副大統領チェイニー、現国防長官ラムズフェルド、同副長官ウォルフォヴィッツ、国務次官ボルドンなど今回のイラク攻撃推進の核となっている連中。彼らの目的は米国軍事力の再建であり、湾岸戦争からの因縁あり97年当時からイラク攻撃が仕組まれていたのだ。そこにブッシュの登場である。つまりブッシュがこの顔ぶれを集めたのではなく、PNACありき、で彼らが目的達成のためいちばん理想的な大統領、つまり一番自分たちの言うことに従ってくれる、つまり史上最高のバカを大統領に仕立てた、と考えると非常にわかりやすい(この部分は寺島氏でなく富柏村)。で、そこに奇跡的に起こったのが9-11の惨事。これを機に一気に米国再建図りたかったが残念なことにテロとアルカイダの直接関係づけもできず、イラク攻撃する根拠として「テロとの戦い」使えなくなり大量破壊兵器だの国連決議違反を理由に。だが寺島氏が例として挙げるのは1967年の第三次中東戦争後にイスラエルの占領地撤退を求めた国連決議242だってイスラエルは違反したまま、大量破壊兵器にしても世界一の保有国は米国。だから不必要な戦争なのだ。また米国はイラク占領果たした折には1945年の「日本モデル」を戦後改革に用いる、としているが同じ『世界』で日本占領研究を専門とする日米の25名の学者が連名でこの日本モデル利用など現実的に無理であることを共同アッピール。「日本の占領は近隣のアジア太平洋諸国から支持され、占領政策はこれらの国を含む連合国で構成された極東委員会によって決定され」「日本の近隣諸国への戦争と占領(15年戦争)は日本と異なる歴史と文化を持つ国への侵略であったために連合国の占領は近隣諸国によって受け入れられた」のに対して「イラク占領はイスラムという共通の歴史と文化を持つ地域にイスラム国を打倒して欧米的な政治体制をつくるのであるから日本の場合と全く異なる、と指摘。街を歩いても世の中は平常通り、「戦争」など何処で行われているのかしら、といふ空気。ただ余も含め「あぁまた株安か」と呆れ「日曜日はダービーだなぁ」とぼんやりと思っている。だいたい、越南戦争であるとか米国がまだ対共産主義で戦っていたときは少なくとも東側が強くなると自分たちの国も共産化されるのでは?という不安があり、それと対峙する大義名分があったはず。だがイラク攻撃しても、イラクの勢力が拡大したからって自分の国がイスラム化されるわけでもなければイスラム共産主義のような「悪」というレッテルは貼られていないし。同じ『世界』に英国の作家Caryl Phillipsの紹介特集あり(こちらも)。異色作家で、まだこの人のかなり面白いといわれる小説は読んでおらず。どこか三島由紀夫に近いこだわりと理屈を感じるのだが、少なくても三島先生的には嵌ってしまわず抜け出した感あり。夜遅くにNHKの英語ニュース見ていたら小泉三世、米軍の攻撃開始されたばかりなのに「日本はイラク復興になにができるのか?」と当然、米国がイラク成敗する前提で話しているが、もしイラクが負けなかったらどうする? それにしてもNHKの英語ニュース、まだ日本のこと英語で報道するのは意義がわかるがイラク情勢についてとか報道して日本のこの対イラク問題の事情通でしかも英語で話せるという方が(それだけでかなり選択肢は狭くなっているはずだが)しかもNHKという局で=当たり障りのないことをコメントしてそれを流してですね、いったい誰がそんなの見るだろうか。CNNだってBBCだってあるのだし、わざわざCNN見て番組作ってるNHKで見ないよ。英語ニュース解説に続き「あすを読む」という番組で毒にも薬にもならぬイラク攻撃に関する日本政府の対応、解説する番組あるが朝日の社説よりつらまない。