富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月九日(日)朝香港仔水塘にて14kmほどのReservoir Runあるが参加せず朝寝。新聞読み資料整理、競馬予想。昼にかけて百年ぶりにジム2時間。灣仔の藝術中心にて72年のソ連映画惑星ソラリス』見る。タルコフスキー監督のこの映画、高校の頃に「ぴあ」の映画人気投票の上位何作かに入ったからか(1位はずっと「2001年宇宙の旅」だったはず)リバイバル上映あり(池袋の文芸?)そこで初めて見て10数年前にNHKのBSで深夜にノーカット放映し(その時のビデオがまだ手元にあり)見るのは3度目なのだがまだよくわからず。永遠によくわからないだろう、きっと。人類が進化すると記憶のなかに生きるようだが老いれば嫌でもそうなる、楽しみ。この映画がそれでも「2001年宇宙の旅」以上に難解なのは2001年が資本主義なのに対してこの映画はソ連といふ、我々「西側」に活きる者がいずれ到達するはずの未来でありながら到達する以前に崩壊してしまった社会主義共産主義という未来社会の、それも1972年というソ連社会主義が絶頂であった時代の作品だからであり、未来社会にいた72年のタルコフスキーらには我々がまだ感じられない未来主義がそこにはあったのだろう、と30年も前の未来映画を見ながらそんなことを考える。劇場を出ると普段でも確かにヒトケない界隈なのだが陰鬱な天気で寒さもきびしくしかも偶然にも全く嫌になってしまうくらい人は歩っていないし車も走っていない。核戦争でもあったの?、こんな静寂は珍しい。Z嬢に電話すると珍しくお買い物中だといふので金鐘の太古廣塲まで歩こうとしたら香港藝術学院の建物もHarcourt Grdenへの歩道橋もホント、タルコフスキーの映画に出てくる景色そのままで金鐘の超高層ビルの夕方のその景色もいつも見慣れているはずなのに未来主義。せめてもの救いはHarcourt Grdenに憩うフィリピン人らの女中さんら、その光景に日常を見た気がして気持ちがいくぶんか未来主義から引き戻され安堵。Z嬢と落合いZ嬢も普段慣れぬ休日の買い物に疲労困憊にて星巴にて珈琲一服。中環まで買い物に付き合う。Episodeなる婦人服店にて久々に邂逅するは「中環の魔女」のお二人。元気そう。いつも遠巻きに見るだけだったがボロ着重ねの服に足の指が飛び出した汚いズック、近くによるとかなりきつい体臭漂うが、しかも二人とも化粧しておりかなかなりの美人とお見受けする。元女優であるとかオーストリアだかのかなり高貴なお家柄だとか都市伝説となっているが真相はいかに。それにしても閉口するのは店の方で追い出すわけにもいかず店内を邏回しつつあれこれと服触りまくる魔女二人をただ遠巻きに眺めるばかり。あまりの臭いに芳香スプレーなど撒いてせめてもの気休め。中環で営業するには避けられぬお二人か。帰宅して昨日の肴の残りで八海山飲む。ちらし寿司。美味いねぇ。
日経平均20年来の最安値に対して経財相曰く「日本経済の状況が必ずしも適正に反映されていない」と述べる(8日日経)。理由は「イラク情勢に関する不確実な要因、米株式市場や外国為替市場の動向などが作用している」と。この竹中某、やはりこんなのを経済担当大臣にしているのだから日本は救われず。常識だろうが、株価なるものはたんにその企業なり日本経済の単体としての評価に非ず。つねに不確かな外部状況があり、そのなかでどういう状況にあってもその企業なり日本がどれだけ対処できるか、という点も企業なり日本の株価に反映されるもの。最安値はキョービの戦争気分の世界経済のなかで日本はとくに上手く乗り切れないだろう、という不安があるから、それが適切に評価された結果。それをわかっているのかわかっていないのか、日本経済だけ見ればこんな最安値はおかしい、などと平気で公言するようなのが経済担当大臣を務めている。怖い怖い。
▼中東国際政治の碩学にてカイロ大学政治学部長のハッサン・アッサイド・アマハド・ナファ氏、8日日経のインタビューで言っている。米国のイラク攻撃の狙いは中東の再編成、つまり石油支配による米国の覇権確立とイスラエルの安全保障。フセイン政権も確かに独裁者で愚かだが体制の交代はイラク国民が選択する問題、しかも米国はそのフセイン政権を支援してきた。フセイン政権転覆は簡単だがクルド問題など中東を不安定に追い込む問題が多い。また米国は中東の教育や社会システムに問題があるとして民主化という名の下にこれを変えようとするだろう、だがアイデンティティは自ら見つけるもの。そしてイスラエルシャロン首相は米国と同じような理由でアラファトパレスチナ自治政府議長を排除するだろう。イラク攻撃を認めると一国の指導者も米国の(アラブの場合はイスラエルを含めての)好みで代えられることになる。アラブ・イスラエル紛争が解決しないかぎり安定は実現せず、米国のイラク攻撃は正当化できず世界で何百万の人が反対を唱えている。国連を通して解決を図りイラク大量破壊兵器の破棄を証明することが重要だ、と。明知の知だが、このような正論すら通らぬ世の中。
▼朝日では元駐米大使・栗山尚一センセや『それでも私は親米を貫く』の阿川尚之センセなどが親米主義の論陣張っていたが日経では(9日)元駐米大使の松永信雄センセが「日米同盟と主体性」なる一文寄す。センセ曰くフランスやドイツなどEU組織する「大国」でありNATOに守られておりそれと北東アジアにてそういった跨国組織もたぬ日本を同一に見てはいけない、と。そういった跨国組織に属さぬ日本にとっては米国との強調が必要、と。それはそれでいいが、日米を「死闘を重ねた敵国同士が生死を共にする同盟国同士となり、世界経済の中で一位と二位の経済力を持つパートナーとしても世界的な責任を分かち合うこととなった。これは歴史的な一大偉業であり、自他共に賞賛すべき成果である」って、さすが駐米大使ともなるとそこまで自画自賛か(笑)。これだけでもかなり???な点あり、まず「死闘を重ねた敵国同士」って日本だって田舎ではB29に子供が手を振ってたようなわけで都市部の被害や戦場では確かに死闘だったかもしれないが米国は真珠湾攻撃受けただけで国内は平常の生活が続いており死闘なんてしていない。戦争がおわって60年近くたつと歴史の記憶は現実からこうした思い込みになってゆく。次に確かに日米安保で同盟国となっているが日本は米国に縋って生死を共にしたつもりかもしれぬが米国は日米安保程度で日本と生死ともにするなんて気はさらさらない、って。自他共に賞賛すべき、って賞賛してるのアンタだけ(笑)。こんなのが駐米大使、というかこんなのだから駐米大使に適役なのだろうが、本人もすこしは論考できるようで「一方、日本は米国の従属国でないかとする謝った見方が、国内にも国際社会にも存在している」って、あ、少しはわかってるのかな?センセも、と思わせるが、これもやっぱり誤解。「独立した主権国であることを内外に明らかにしていくことは、日本にとっても、国際社会にとっても最重要事項の一つである。換言すれば、日本の主体性、独自性を打ち出すことによって日本は国際社会の名誉ある一員としての地位を向上させなければならない」だって。センセ、自分でやっぱり日本は独立国ぢゃない、って認めているよ、これぢゃ。「独立した主権国であることを内外に明らかにしていくことは重要」って、つまり独立した主権国だと思われるような主体性がない、ってことでしょ、だから米国の従属国だって揶揄されるのだから。それにそれは日本にとっては大切かもしれないがそれが国際社会にとっても大切、って誰もそんなこと今さら日本に期待してない、って。そして「日本は国際社会の名誉ある一員としての地位を向上させなければならない」って、さすが日本国の全権大使、日本国憲法の精神だね、こりゃ、でもセンセが終戦直後のこの文句を今こうして宣わなければならないことじたい、日本がこれだけの経済力まで有しながら国際社会の名誉ある地位を向上させきれていない、ってのが現実ということの表れ。で、その独立した主権国としての国際社会での名誉ある一員としての、珍しく日本の姿勢を内外に明らかにしたのが、この米国のイラク攻撃支持、ってこと、笑うほかなきお粗末さ。結局、戦後60年近くたって、憲法に謳った確固たる地位、精神をなんら築けないまま今日に至ってしまって、そこでそれを血と肉にできないまま戦後の一応通してきた平和主義をかなぐり捨てて戦争加担、このままいけばその加担を国際的責任を果たしたと誤解して憲法改正もあり、だろう。すごいな、すごいとしかいえない、愚政国家。朝日新聞の購読やめて少しは愚痴減るかと思ったが日経もけっこう美味しい話題が載っていて安堵(笑)。