富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月三日(金)見事な快晴ながら風邪治りかけて山にも向えず。小熊英二『民主と愛国』どうにか半分、 四百頁ほどまで読む。昼すぎ湾仔華潤大厦にて「人体の不思議展」 なるもの好評開催中にて要するに人体解剖された肢体標本。養老孟司先生とかが監修で日本だの中国を巡業してきたらしい。日本アナトミー研究所といふところ が主催で株式会社マクローズといふ会社が運営し何故か南京大学/江蘇省教育委員会/南京蘇芸生物保存実験工場とかが協力で日本、南京といわれては日本軍の 蛮行が頭を過るが香港でもこれが臆測されることを察してか人体は医学的目的のため献体されたものであることが予め強調されていたが、実際に見てみるとすで に展示用にきちんと整理され内臓など整頓された乾いた「物体」は死体という生々しさもなく、まさに乾物。街市でもっと血なまぐさい肉だの骨だの、内臓を見 慣れている者にとっては、あ、排骨、肝、腸と。ちょっと干からびた肉はまさに皮蛋痩肉粥に入ってくる痩肉。広州の清平市場を数日前に見てきた者には皮を剥 がれた山羊が何頭もつり下げられた姿のほうがずっとグロ。この展示、向かいが親方五星紅旗の新光酒樓、ちょうど店のガラス窓からこの展示会場が見えるのだ が日本ならまず料理屋側から苦情か。中国マルチ査証取得のため中華人民共和国外交部香港特別行政区特派員公署領事部外国人簽証處へ。新装なって見た目は 機能的ながら「テロ国家」と米国が指摘するイスラム系の国の方々、たかだか中国のビザ取得するのに沢山の書類など持参し不憫。中国にとってはイスラムは米 国が指摘するまでもなく新疆独立運動などとの絡みもあり、でか。見た目機能的だが職員の横柄さは百年一日の如く変わらず。同じビルの階下に「中国人」証件 處があるのは香港に居住する大陸中国人の香港滞在許可延長の申請場所。こうして海外に滞在していても当地の居留許可は要るものの日本政府には一切管轄権限 もなき日本は自由と改めて思ふ。Hennessy RdのEtech CenterといふAppleMac製品の多いという電 脳中心訪れる。そこそこ広いフロアは閑散……客などおらず。Macの需要がけしてないのではないにしても、である、ハードとして新製品がずっと出てないの だから集客などできる筈もなし。深水歩の電話屋へ携帯の16日要した修理受取りに出向く。「一応」直っているが電池ケース部分の蓋見つからず暫く探してい た売り子どこからか持ってきた古い同機種の蓋をさっとはめて余に渡す。「これは違うやつだろーが、見てみいぃ、こない傷ついとるやんけ、何してんねん、こ のド阿呆」と指摘すると「あ、やっぱりバレたぁ?」と。結局、店には見つからず何処だかこの近くに、小売店は同じような携帯屋が何軒の軒を並べるが胴元は 数軒らしくその修理場所より店子が蓋を持参。最初のはInfraredの部分が外れており二回目ので(これが当初のもの のわけないのだが)どうにか納得。やはり並行輸入品はいけない、と痛感するが、それにしても現行のNokiaに欲しい携帯ないのだから古い 機種を選ばざるを得ず。一旦帰宅してオーディオ配線修理。晩遅くZ嬢と天后の利休ですき焼き。隣の席についた会社員二人の会話が耳に入ると上司が「それ で、その工場はクニザカイからどれくらいなんや?」と。クニザカイ?……ふと齋藤孝『声に出して読みたい日本語』(草思 社)が川端康成の『雪国』のあの冒頭の有名な一文「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の「国境」に「コッキョウ」とルビを振り、 これが「くにざかい」が正しいと「どこか声に出したいや、間違っとるやんけ?」と非難され「くにざかい」に二刷から訂正したそうだが(実は「コッキョウ」か「くにざかい」かは断定できず、これについてはこちらに詳しい←日 本語好きには超お勧めのサイト)、その客の話を耳ダンボにして聞いたら深センの国境から東莞だか珠海の工場までどれくらいか?という話題。 香港と深センの境界が厳密には「国」境でないのに国境と呼ばれていることもあるが、それをクニザカイと呼んだのは余は初めて耳にする。このオッサンにして も関西のほうがクニザカイかと呼ぶのだろうか?と思うと川端先生が大阪ということで「くにざかい」が有利か、などと思う。
小熊英二『民主と愛国』に石原慎太郎の『太陽の季節』に対して当時、評論家から「植民地的な日本のある種 の上流階級の子供たちが自由を勘違いして何の目的もなく生きている姿」と評されたことに対して石原側が「理屈よりも実感」と応えたという話あり。現代にこ れを置き換えてみれば「植民地的な日本のある種の上級階級に育った子供たちがオヤジとなり、享受きてきた自由を勘違いして無理矢理に対外の敵を作ってそれ の排除を目的として生きている姿」であるとしたら石原はやはりそれに「理屈よりも実感」と応えるのであろうか。
▼『飲食男女』誌に香港日本食隠れた名店特集。銅鑼湾のいろり、慶、北角の寿司加藤、中環の天麩羅あげ半、 と同じくA氏経営のらーめん処札幌。確かに日本人には有名だが地元では知る人ぞ知る、かもしれぬ店ばかり。寿司加藤、親方は取材拒否で勝手に取材、と。そ りゃそうであろう、あれだけ繁盛していて雑誌見た香港人の客に酒も飲まずに「醤油つけたわさびにサーモンの刺し身からませて」食べられた日にゃ客単価が悪 いとかそんなシケた話でなく寿司屋の看板が泣くってもんだぁな。