富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月二十九日(日)曇。午後ジム。鹿砦社の『スキャンダル大戦争2』読む。中森明夫氏が『噂の真 相』の連載で紹介していたのだが著者の大江健三郎君自身が封印してしまったといふ『セブンティーン第二 部・政治少年死す』が板坂剛によって文芸評論文の資料という形で全文どころか61年2月号でこれを掲載した『文学界』のそれをそのまま複写で掲載し、中森 氏が「当時の」大江君の力量の凄さを絶賛、それを載せたのがジャニーズだの宝塚のおっかけマップなどで有名なこの鹿砦社の『スキャンダル大戦争2』という書籍で、 これがこの板坂剛による大江君の『セブンティーン第二部・政治少年死す』と深沢七郎の『風流夢譚』が確かに「資料」として載っているばかりか飯島愛、『BUBKA』から中坊公平落合信彦の醜聞ま で多彩なる内容。『セブン ティーン第一部』も『風流夢譚』も曾て読んでいるがこの『第二部』はゆっくり読むとして板坂氏の深沢七郎三島由紀夫の「その筋関係」の話も面白し。今 は、ノーベル賞作家であり障害児・光君の父という大江健三郎しか知らぬ人も多し。夜遅く『第二部・政治少年死す』読む。17歳の山口二矢君による社会党委 員長浅 沼稲次郎君暗殺を題材にしているわけで、これは天皇制を描いたといふ不敬罪を怖れての封印ではなく、大江健三郎という右翼からした左翼が右翼の美 しさの真髄を描いてしまったこと、か。本来なら三島先生とかが描くべきところ、三島先生はといへばコトもあろうに『楢山節考』の深沢七郎による『風流夢 譚』を中央公論誌に推挙し自作『憂国』と並べて掲載、この風流夢譚が契機となりやはり17歳の右翼少年によって浅沼暗殺に続き嶋中事 件が起きるのだから。一読して何よりも感じ入ったクダリは最後のこの少年が自殺した際に「隣の独房では幼女強制猥褻で錬鑑にきた若者がかすかにオ ルガニズムの呻きを聞いて涙ぐんだという」という一節。日本の赤化防止のため革新政党党首を殺害した少年の独房の隣に「幼女強制猥褻」の少年を置いた大江 健三郎。犯すことが許されぬスメラミコトを奉る少年の隣にやはり犯すことが許されぬ少女を犯した少年という対置。『風流夢譚』も20年ぶりかで再読。文学 作品としては軽文学。これはこれでそれがまずかったのか、と今になって思う。皇室への不敬、皇族の侮辱といふよりその扱いが軽すぎるのだ、きっと。それが それに重きを為す者にとっては赦されぬはず。
▼朝日の書評委員お勧めの三冊で山崎浩一氏が小熊『民主と愛国』を挙げる。「戦後日本のナショナリズムと公 共性を<民主><愛国><民族><市民>などの意味の変質を通して徹底的に問い直す。昨今の国家や史観をめぐる言説・論争の不毛性の謎がようやく解けた」 と。余はまだ読み終わらず。
▼蔡瀾、昨日に続き蘋果日報の随筆連載「訪問(下)」にて 北海道ツアーの話続く。(下)にては記者相手に北海道旅行の蘊蓄語り他の格安ツアーとの違いが強調され、記者がそれだけ一流の旅館、食事を揃えたら赤字に なるのでは?と質すと蔡瀾氏曰く「殺頭生意有人做、虧本生意没人做」と。記者が「なるほど、この殺頭生意有人做、虧本生意没人做という中国の諺は言えて る」で終わる。当然今日もツアー宣伝。つまらぬ。期待した蔡瀾嘆世界ツアーの宣伝はこうして原稿料もらいつつ随筆上でなされる、という核心には触れず(当然だが)。それにしても「儲かる(殺頭=取引が成立する)商売(生意)なら做す人有り、損する(虧本)商売は做す人没し」って諺 わかるか?北海道から来た記者に。しかも殺頭って広東語独特の言い回し、広東以北だって通じないぞ(笑)。 日本語堪能な蔡瀾氏の取材に通訳いたか? どうれあれ原稿料もらいながら二日にわたり自分がかかわる商売の宣伝、書くほうも書くほうだがその書き手に高い 原稿料払い連載させる方も寧ろ広告料取るべきでは?。