富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月二十八日(土)晴。気温九度にて厳寒続く。蔡瀾氏の検索をしていたら広州に留学から現在は香港 の日本料理店「銀座」で女将となった一条さゆり嬢の 日記を知る。その才知といい文章といい尊敬に値するさゆり嬢の日記読んでいたら昼近くになってしまい慌ててジム。終わって尖沙咀のCulture Centre附近、聖誕祭の晩に野蛮なる餓鬼めらに汚濁された虐たらしき形跡眺めStar Ferryにて香港島へ渡ろうとするとI君より中環にいるから飲もうと午後三時前だというのに携帯に誘いあり蘭桂坊のSchnurrbartにて Jeverを0.5Lの独逸グラスにて都合5杯、そこに尖沙咀のTom Leeでリストがピアノに編曲したベートーベンの第5のスコア見つからず、それどころか香港では音楽産業独占のTom Leeともあろうものが店員に楽譜知識すらなきことに嘆きながらZ嬢合流。日暮れて酔っ払い三人で湾仔の居酒屋卯佐木にて奇を衒わぬごく普通の酒の肴で焼 酎一本空ける。I君と別れZ嬢と太古城の映画館MCLにて映画「無 聞道」(監督:劉偉強&麥兆輝)看る。昨日の朝に夜九時半からの上映で残り8席しかなかったほど盛況にて、衰退続けた香港映画が制作者も俳優もつ いに深刻になり観衆に「いい加減な筋と適当な芝居の子ども騙し映画」と烙印押され客が遠のいたことに反省した結果、香港映画の起死回生を賭けたような映 画。アタシ自身も港産の商業映画をロードショウ公開で看るのは十年ぶり?。黒社会と警察の抗争といふ香港映画では周潤發の「英雄本色(男たちの挽歌)」に代表されるHong Kong Noir作品。警察(黄秋生)と黒社会(曽志偉)がそれぞれ手下を警察と黒社会に送り黄の部下となったAndy劉徳華と曽の手下に潜り込んだTony梁朝 偉が主人公。きちんと練られた脚本があり力量ある俳優が演技すれば特撮も火薬に銃撃も他愛ない好いた惚れたもなくても充分看るに耐える作品が作れる、とい ふこと。劉徳華梁朝偉、黄秋生、曽志偉といふ四名は甲乙つけがたいが黄秋生の演技は抜群だがいくらマル暴とはいへ警察幹部は役柄としてちょっと無理あ り、日頃蘋果日報などで泥酔姿ばかり登場する曽志偉、さすが役者、と境界線上の納得の演技。主題は正義か悪かを超越した忠義であり、尽す相手が本来の自分 の親分なのか、敵でありながら情が移った敵方の親方なのか、また自分とは逆の立場で敵方に送られている警官(ヤクザ)への敵対心と同じ運命にあることでの 共感と、といふ追い込まれた状況のなかで結局、一つずつ消去されていくなかで最終的に信頼できるのは自己であり、自己への忠義、ということ、か。細かいこ とを言えばMotorolaが提携らしく携帯電話がかなり使われるが、警察内部で黒社会から送り込まれたスパイを探している状況で警察署内部での携帯使用 などまず盗聴されようはずが、携帯使い放題。同じ香港で携帯で電話していて劉徳華のいる警察署は昼間で梁朝偉は夜の街だったり。まぁ筋には関係ないことだ からそれはいいか、でも筋に関係あることといへば(結末はここでは語らぬが)ストーリーは納めたようでい て真相を知った劉徳華の妻の心情の処理がされておらず、これはマヅい。でも一番気になったことは単純なことで劉徳華梁朝偉の少年時代の役がそれぞれ陳冠 希と余文樂なのだが絶対に陳と余の顔立ちからして役は逆がよかったでしょう、これは。本当に久々に入場料払って看て入場料分充分に納得できる作品。入場料 といへば低迷続く映画界で新装開店したこのMCLなる映画館は入場料HK$35(500円強)、これは 10年前の相場なり。
元朝日新聞記者の松井やより女史逝去(享年68)。80年代に当時は新嘉坡特派員だったのだろうか「特派 員リレーエッセー」に書いていた文章が蘇る。女性問題、人権問題など硬い内容をさらりと上質の随筆にしてしまう筆致。当時、アフリカからも読みごたえある 文章を寄せる記者あり、それが後の朝ジャ編集長であり康夫チャンが『一炊の夢』で回想していた伊藤正孝氏だった。
▼久しぶりに亦、蘋果日報の蔡瀾の随筆に呆れ返る。「また今年も白 色聖誕を愉しむ北海道旅行が出発した」という書きだしで、恒例となった蔡瀾プロヂュースによる豪華北海道温泉と美食の旅について北海道から記者来港し取材 あり、と。香港からの札幌直行便が取消しになったものの北海道がこうして宣伝されたことでまた直行便回復するまでとなり蔡瀾の功績大、と記者に煽てられ、 ここまではいいのだが、どうやって参加者を募るのかという質問に対して蔡瀾曰く「広告を出すと経費がかかりそれが旅費に上乗せになるのでよくない」ではど うやって?と質されれば「自分たちは北海道ばかりかいろいろな旅行団を編成しており、すでに参加者がこの会員となっており、すぐに満員になる」と。それ じゃどうやって新しい参加者を?との問いに「広告は少ないがこのツアーを扱っているのが星港旅運であり、ここは日本人香港ツ アーの大手のため団体バスが30両、これが市街を走るのでそのバスの車体にこのツアーの宣伝あり、これが有効」と。嘘八百。このツアーが最も宣伝されてい るのは、テレビ番組の「蔡瀾嘆世界」(ちなみにこの「嘆く」は「嘆賞」=素晴らしいと賞するの意)であ り、この「香港で最も人気あるライター」と称される蔡瀾本人がこうして随筆という名を借りて自らの旅行団の宣伝をしていること、それに尽きたり。自らの連 載で旅行団を紹介、それに自ら参加し、そこでのネタでまた随筆を書く、と一石二鳥の商売に他ならず。察するに編集者にとってもこの「掟破り」の作法は指摘 してくても蔡瀾ほどの大御所となると大江健三郎先生同様に誰も何も言えまい。蔡瀾、映画会社嘉禾のプロデューサの頃は人徳故にその存在 があるだけで仕事となっており当時の随筆はかなりいいものだったが映画不況で体のいい肩叩きをくらい晴れて自由業となりこの旅行団を企画したり美食家とし ての才能活かしHung Homに蔡瀾美食坊を企画したりと盛況。ただ し随筆だけは何度かこの日剩でも非難したが、野暮なもの少なからず。ちなみに今回のこの旅行団ネタの随筆であるが「訪問(上)」 とあり明日の後編が楽しみ。まさか「いや、実はこのツアーのいちばんの宣伝はこの連載エッセイなんだけどね」とは間違っても言うまい(嗤)。