富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月二十七日(金)小雨。摂氏八度。昨日の厳寒に因る死者は高齢者を主に12名、と。防寒の備えな き寒烈なる苫屋にての卒倒などが原因。小熊英二氏の『<民主>と<愛国>』新耀社刊読み始める。小熊氏の 著作は『単一民族神話の機嫌』『<日本人>の境界』と読んできたが千頁近い力作とはいえ6,300円は高い。だが音楽会で2時間演奏を楽しんだと思えばけ して高くないか。この著作、前二作がかなり面白いが論理的根拠となるとかなり曖昧な境界であるとか神話の起源のため読み物といふ範疇にされてしまうのに対 して、これは平易な文章で戦中から戦後にかけての題目通り「戦後民主主義愛国心を否定した」といた評価がされる中「民主」と「愛国」について戦後の社会 思想を丁寧にまとめたものであり、高校生に社会科で読ませるべき。愛国といふと右翼、保守になってしまふこの国のアイデンティティの分裂をよく考えるには 格好の書物。さすがにこの千頁、厚さ5cmの書物は持ち歩けず移動中にディケンズ『デイヴィッド・コッパーフィールド』石塚裕子訳(岩波文庫)読み始める。四半世紀前に途中で投げ出した中野好夫訳より平易すぎるぐらい平易な軽い文体で、なんか 「重たくのたちこめた灰色の雲の下、荒涼とした原野に……」って感じのディケンズの世界(これが実は中野訳の真骨頂なの だろうが)とはかなり異なり、中環のHK Bookstoreに立寄りPenguin Classicsの原典を読んでみると石塚訳がけして妙なのではなく、かなり原典の語感そのまま。面白そうでこれも購ふ。書籍の値段の話ばかりで恐縮だが このペンギン版の原典はわずかHK$68(約1,000円)なのに対して岩波文庫全5巻で3,500円く らいになる。それでなくても小説しかも古典なんて読者離れが著しいのだろうし3,500円だしてディケンズ読む若者など減って当然、か。寒さ厳しいなか早 晩にジム。ジムの窓からふと向いの高級ヘアサロン眺めれば美容師のうち二人が完全に気軽にトレーナーにジーンズで「一見」キムタク風。やはりキムタクがド ラマで演じる美容師の役を見て「これだよぉ」と達観してしまったのか。一時代前までは元ドリカムの西川先生とかお師匠さん格だとダウンタウンの松っちゃん だったか。帰宅して湯豆腐。酒は菊正宗。最近、いろいろ吟醸酒だの、地元大手スーパーですら大関酒造の辛丹波が売られているほどだが、やはり鍋とかで常温 で一飲するには、やはり酒好きの故・馬生師匠も好んだこのキクマサが何よりも美味いと痛感。沖縄のUさんという方からメールあり。ジャコ=パストリアスと ウェザーリポートをこよなく愛する方で余が武道館ライブを最前列で堪能しただの仙台で泥酔したジャコを見かけたなどと綴ったことにメールいただく。余の日 剩のほんのわずか数行の記述が検索に引っ掛かりこうして未知の好事家の方から便りをいただくのも網世界の醍醐味。ジャコの武道館ライブ聴きながら小熊『民 主と愛国』読む。
▼康夫ちゃんの『一炊の夢』は『週刊SPA』の連載が最後2000年9月13日号で終わるのだが、最後は長 野に18歳まで暮らした頃の思い出。僕は「従順に従う気質ではなく、有無を言わさず常に上から押し付けられる形に異議を申し立てする」「その性格は、不惑 を過ぎた今でも猶、変わらない。戦後の歴代知事が僅か3人、5期20年の現知事から“禅譲”を受けた前副知事が県下120市町村全てに後援会支部を設け、 水も漏らさぬ態勢で10月15日の投票日に臨む長野県知事選への出馬を表明したのも、或いはそうした僕の妙な“正義感”故であろう」で終わる。そしてこの 連載が県議会において食事と性交を一つのイベントとした“オショックス”やAVにも出た娘との「胸部も、作品の中での彼女より小振りで、更に昂奮した。だ が、指先と舌先で鋭敏なる場所を入念に愛撫しても、反応は微かだった」などといった行為(長野県知事になる三カ月ほど前 の記述)が知事に不相応と非難されたもの。それにしても鬼籍に入った方の回想が康夫ちゃんの真骨頂なのだが、自民党の故・梶山静六氏にして も、アタシは所詮茨城県議会議長がせいぜいと思っていたが、康夫ちゃんが報せることは、田中真紀子に「軍人」と揶揄された梶山は「長兄の戦死を嘆き悲しむ 母の姿が私の政治の原点」と述べた反戦主義者であり「国際社会に於ける日本は、有視界飛行のグライダーたり続けるべき」で「風の向きや匂いを感じ取りなが ら、操縦士が微調整を加えられる」「だが、最近の日本は、計器飛行のジャンボジェット機を目指しているように思え」「操縦士は外気の具合を確かめられな い」「計器盤に映し出された数値が果たして正しいのかどうかも判らないにも拘らず、誰もが数値を信じて疑わない」と梶山先生曰く。まさに軍需産業大手から 戦闘機のプラモデルを貰って喜んでいる自民党などの国防 キッズ、世界で安全保障上確固たる地位に立つことが国家の意思と信じる者たちがこれ。