富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月廿九日(金)曇。朝、ミニバスにてむやみに流れ邪魔、不快以外の何ものでもなきテレビ放送にて ワンポイント英会話の類の番組あり。Have a ball といふ表現が今日の勉強にて、これは「球を持つ」に非ず意味は「楽しい時を過ごす」で"Last night, I had a ball!" のように使う、と。そこまではよいのだが先生曰く「子供の頃にボールを持っていると楽しかったでしょう、あの気持ちです」と。爆笑。この ball はホテルのホテルのボールルームの ball にて社交舞踏会の意味なり。The Ball in Anjos で安城家の舞踏会。 ふと、「安城家の舞踏会」は A Ball か The Ball か、と気になったが A Ball のほうがきれいだがそれじゃ年柄年中開かれている舞踏会での或る晩の出来事になっちまって、ありゃ没落貴族の平民化を前にした最後の舞踏会なのだから (……とこういう映画表現は快楽亭ブラック師匠みたいだね、って いっても師匠は英語が苦手)やはり The Ball か、と思い調べたら正式な英題は The Ball at the Anjo House 、確かにね。M君とICQにてシャープのZaurusなど小さ くなりすぎて鍵盤は片手入力、もはや使い難いものと語っていて「片手で便利なのは算盤くらい」と言って、ふと算盤を文字入力に応用し「さ」なら3行3段で 33と入力、「ち」なら42、で変換は算盤の上珠の5を降ろす、とか、Zaurus開けると10桁ほどの算盤がついていて計算はそのまま、文字入力に共用 とか面白いのではないか、と話す。ふと魔が差して両切りのキャメル吸って懐かしき煙草の味満喫するもののニコチンの量に眩暈甚だし。馬主C氏より電話あり 明日の沙田に招かれる。Dashing WinnerとDashing Championの二頭がそれぞれ参戦。DCは一着濃厚にてDWは雪辱戦、前回に比べると強敵ない中での復活を期待。残念ながら明日は参れずまことに残 念。かういふ日にかぎってDWもDCも勝ってしまったりするもの。晩遅く北角の蕃薯苗にて上海風味の水餃と回鍋肉菜飯。調理の迅きこと取柄の香港の一杯飯 屋にて一人ふらりと入りじっくりと料理されると新聞読みつつなかなか辛きものあり。そこそこ美味し。わざわざ遠方より来るほどでなきにしも廉食の店並ぶ北 角道にあれば訪れるに値す。野坂昭如の旅の 果て日記しみじみと読む。さすが、いい日記なり。酒への依存症、他人事に思えず。PrinceのPurple Rain聴く。このCDも確か20年ほど前。当時カフェバーが流行りモニタにてPrinceよく見聴きしたもの。カフェバーでありながらカティサークなど ボトルキープありズブロッカなど飲むのがお洒落。酒に強きを気取りロンリコなどショットで飲む。小金あればI.W. ハーパーとか。明日の競馬予想済ます。
▼築地H君作で榊原玲奈(つまり橋本治)が桃尻語訳したら、の『ライ麦畑でつかまえて』届く。
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大きな声じゃ言えないけど、あたし、こんな話ホントはしたくなかったって思うの。あたしがどこで生まれたと か、ちっちゃい頃どんなだったとか、あたしの生まれる前にパパやママが何やってたかとかサ、そんな「デビッド・カッパーフィールド」みたいなつまんないお 話をよ、聞きたいなんて思ってる連中がいるわけ?まずそんなタイクツなことあたしはやってらんないし、それにパパもママも自分たちの身の回りのことを誰か に言われるのが、ホント大嫌いなワケ。それこそ脳溢血をそれも2回ずつ起こしちゃうくらい嫌い。特にパパなんかそりゃあもう大変なもんなんだけど、まあ悪 い人間というほどでもない。マ、とにかくそんな調子。
あたしは何もここで自叙伝とかサ、そんな大それたこと書くつもりはないのよ。ただ、去年のクリスマスの頃に あたしすっかり弱気になっちゃって、西部のこのチンケな町で静養しなくちゃいけなくなったワケ。で、そのクリスマスの前ってのがそれはもうイカレタ目に いっぱいあったっていう、その話をしようと思うの。まア、D.Bに話したことと同じ話になるかもしんないけど。あ、D.Bってのはあたしの兄貴で、いまハ リウッドにいるんだ。
……と。さすが、なかなかの出来。余はこれに野坂昭如なら、と即興で応える。
嘘は述べぬと実なる事をば語り申せば俺は斯々然々此の様な事他言するのも論外にて君がどうせ俺の生み落とさ れた場所であるとか俺が焼け跡でどれ程惨めな餓鬼の頃過ごしたとか俺が生み落とされる前に俺の父と母が何を生業にしていたとかそういう「デーヴィッド・カ パーーフィールド」の如き詰らぬ話をどうせ聞きたいねぇと所望するのだろうが本当に君が俺の詰らぬ話など心底聞きたいと思うのか俺にはついぞ解せずまずそ んな俺の餓鬼の頃の話など退屈この上なきものにてそれに俺は俺を捨てざるを得ずの両親のことなど彼らは彼らでけして悪人ではなきものながらも俺は語ること を欲せずかりにそんなことなどしようものなら脳溢血でも起しかねぬこととは申せ其れを欲する輩もあり俺の親は父親ことに気が短きもの。いま俺が語ることな るは俺がこの西部の町にてご静養などするハメになる去年の聖誕節前のかの奇妙なる経験のこと是すでにわが奇っ怪なる兄DBに語ったことの焼き直し。DBい まは加州聖林に。
築地H君と白水社に手紙書き、村上春樹「らい麦」出版これを機に「永遠のベストセラーを人気作家が競訳!あ なたはどのホールデンが好き?」を提案しては?と。白水社、これで食ってける。大阪を舞台に宮本輝、とか、柳美里の在日のホールデン編、長嶋茂雄が「英語 の単語の説明が全部書かれている便利な本」=辞書みながら訳したのとか。この長嶋神話は 有名なものにて今さら説明も要らぬかと思いつつ、この逸話、立教大学に入学した長嶋茂雄、大学故に一般教養の英語の授業に出て辞書を引いていた学生に「キ ミ、英語がそんなに出てるなんていい本もってるね、それ何っていう本?」と言ったとか、「立教大学時代の長嶋が友達がフランス語の辞書を買いにいくという のでつきあって曰く『英語にもこういうのがあったら便利なのになぁ』」とか。でも長嶋茂雄ならやはり本人による朗読テープか、とH君。