富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月十一日(月)北角の波止場近くに毎朝早く新聞を購う小店あり。丁度、七月の終わり余がこの界隈 にて新聞購ふやうになつた頃に開店した店にて四十ほどの実直なる夫婦営み新聞雑誌の他、煙草、飴など売るのみ。いつも朝早き働き者今朝珍しく店主丁度店開 けるところ店を見回すと新聞など一つもなし。さては寝坊して仕入も間に合わずかと思えば新聞雑誌の類は「ない」と言われ今朝はないのかと思えば「もう売ら ない」と。ふと店の看板みれば○記といふ屋号の後ろにあつた「報誌店」といふ文字に赤い布掛けてあり。店主のどこか悲しげな疲れきったやうな表情から合点 ゆく。いわゆる黒社会暴力団が縄張りの店に要求する保養費の支払いを拒否でもしたのか闇煙草仕入れ正規の値段か多少安くでも売ってそれが闇煙草売りを生 業?とする組に睨まれでもしたか、附近の同業に邪険にされたか、いずれにしても新聞雑誌の問屋からの卸し中断され、日銭商売のかういつた店には新聞売れぬ は打撃甚大。もう路頭に迷へと宣告されたようなもの。保養費も売上げ多き路上の店ならば家賃を払っているわけでもなく保険と思えば路上にて紛争も少なから ず何かあればその組織すぐに飛んできて相手方との争い事に威嚇するなり脅すなりで解決してくれようものの、それでなくとも北角の公共住宅は取壊しで附近に 住民など殆どおらず波止場近くでもフェリーの客など海底隧道巴士に客奪われ閑散、そのような場所でこれではもはや生業にもならぬ店では保養費など捻出も難 し。街頭に面した店、開業して間もなく突然、店の看板に赤布掛けてあるは「海鮮」の二文字が隠されれば海鮮の卸し閉ざされ、報紙の二文字なら新聞売れず、 按摩指圧のうち按摩隠されれば按摩営業できず、と様々な営業妨害あり。いずれにせよ黒社会とて政治家官僚ほど利権のみにて安泰するものに非ず、保養費徴収 する海鮮料理屋より近所に真相開店の同業があっては商売にならずそれの苦情あれば新装開店の店を威嚇せざるを得ず。そこで両店より保養費得るほどの仁義な きことはせず。新聞売りスタンド、按摩とて同じこと。然れどそのような零細の店にて毎朝決まって新聞三紙も購入しておれば自然と馴染みとなり二言三言言葉 交すようになれば情もありやるせなき思ひ。十月の日記にて網上した写真にて人民英雄記念碑と天安門の二葉に指紋あり、と某君より指摘あり(笑)。写真の扱いの悪さも然ることながら指紋公開といふ前代未聞の失態に写真を指紋なしの更に高画質に変えて再上 する。
ウィーン国立歌劇場音楽監督に就任して始めての公演を終えた小澤征爾が生で中継出演とNHKのニュース 10。まず司会アナの「ウィーンフィルニューイヤーコンサートが大盛況」という導入のコメントに「ありがとうございます」とか「とても亢奮しました」で いいものを小澤は団員は一緒だが「ここで歌劇の演奏をすれば歌劇場の楽団で外に行ってコンサートをすればウィーンフィル」とこの国立歌劇場の音楽監督ウィーンフィルの常任指揮者の違いもわからないアナウンサーに説明。日本人にはウィーンフィルニューイヤーコンサートばかりが印象にありるわけだが小沢 にしてみたら自分はウィーンのこの小屋でオペラを振る、といふそれが徹底した関心であり意気込みなわけでニューイヤーコンサートは確かにこの歌劇場であり ながらウィーンフィルという名で演奏会が行われるのは事実だがオペラのないこの小屋でのコンサートなど本人には年末年始の余興にすぎず。それがケニーGと この小澤のニューイヤーコンサートのCDが一緒に並んでいる一般人には理解できず。小澤はしきりにこの歌劇場を自分が五年任されたことの抱負を語りたいの に、小澤との共通言語なき司会アナは「このウィーンで日本人が、アジア人がオケを率いること……」とまた全くボケた質問。小澤は確かに西洋の音楽だが優秀 な演奏家はアジアにもたくさん生まれているわけでモーツアルトは確かにザルツブルグに生まれそこに育ったがモーツアルトは世界の人全てのためにあるわけで 世界の音楽であって別にアジア人でも日本人でも、と実に爽快なるコメント。御意。この相手を納得させてしまふところが同じ天才でも長嶋と小澤の違いなのだ が、小澤が言いたいのは音楽の普遍性(あ、長嶋も言いたいことは野球の、スポーツの普遍性か……笑)。そ れが全くわからず今井某なる男性アナは狼狽し言葉失ふが咄嗟に森田嬢?が強引にも「小澤さんはアジア人として日本人としてぜひウィーンで頑張りたいと」み たいな「だからそーじゃなくて」と反論したい無理矢理なまとめ。小澤は「僕はウィーンだけじゃなくて斉藤記念も新日本フィルも水戸も、若手音楽家を育てる 塾もやってる。その全てが僕にとって勉強でそれを楽団員にぶつけて彼らもすばらしいものを創る。それの繰り返しがあるだけ。このウィーンだって9月の始め にシーズン開幕するわけだけど僕には9月の始めにはもう5年も松本で斉藤記念があるからここにはいない。それでも……と言いかけて「こういうところであん まり難しい話してもね」と小澤。話は単純なことで小澤にとっては音楽を真剣にやる集団があればどこでもいいのであって、ウィーンは自分がこれまで「そこま で」勉強したことのない歌劇の少なくても世界一の歌劇団であって、そこで小澤の好きな言葉だが「勉強できる」、その感激と意欲がある、だけのこと。それが 偶然に欧州にありウィーンにある、自分が偶然に日本人の顔をして日本食を食べるだけのこと。それを「日本人として」みたいな質問は結局、小澤がスクーター に日の丸の旗をつけて欧州に旅立った『僕の音楽武者修業』の時から小澤は成長しても、それを期待するNHK=日本のまなざしが成長しておらぬ証拠。
▼テレビのニュースにて斡旋収賄は「あっせん」収賄と書く。何故に斡旋は平仮名で収賄は漢字か。斡旋の 「斡」といふ字がこの斡旋といふ言葉ででしか扱われぬマイナーな当用漢字外のため、か。収賄の「賄」は収賄の他、贈賄、賄賂と永田町界隈にて使用頻度高い がために漢字が残る。あっ旋収賄と書かれるよかまだマシか。
▼中国の第16回党大会にて中国の根本理念としてマルクスレーニン主義毛沢東思想、登β小平理論、三個代 表理論の4つの提唱が確認される。マルクスレーニンのは主義だが毛沢東は思想であり登β小平は理論、つまりマルクスレーニンの提唱した共産主義思想を土台 に毛沢東の革命により建国し、その国の現代の具体的な運営が登β小平の中国の特色ある社会主義といふ理論である、と、ここまでは良い。が、問題は江沢民の 宣ふ「中国共産党は先進生産力、先進文化、広大なる人民利益を代表する」といふこの「三個代表」の何処に理論性があるのか理解できず。それを江沢民理論と しなかっただけまだマシかもしれぬが、少なくとも登β小平理論と同格に「理論」としては先達に失礼極まりなし。また中国共産党は「中国労働者階級を統率す る」「中国の全ての人民と民族を統率する」といふ二大根幹がある、と。資本家の入党問題があり、それへの批判かわしでまず労働者階級の党であり「だけど」 全ての人民の党である=だから資本家もね、って、そういう屁理屈。こんなこと討議……そんなものされぬ、この茶番のシャンシャン大会開催しているとは少な くても与党政府への非難が公言できる日本の国会などと比べても甚だお粗末。それにしても最も不思議なことは4日の日剩にも綴ったがこの全国人民代表大会に 先だって開催された7中全会(中国共産党第15期中央委員会第七回全体会議)、この党の中央委員会の会議で実は(憲法上なんの権限もないのに)国家の重要 案件が全て決まってしまふといふこと。まぁ日本とて自民党党三役の会合がこの○中全会のようなもので、茶飲みで終わってしまふよりまだ会議の形式をとって いるだけマシか。
▼香港中文大学のInternational Asian Studies Programmeという組織(90年当時ここで1年研修を受けたことあり)より感謝祭のパーティの招待状届く。少なくとも国家、民族を越えた世 界宗教の一つである基督教の聖誕祭だのイースターだのならまだ異教徒にまで祝祭を強いるのも千歩譲ってわかるが何故に感謝祭を祝うか理解できず。感謝祭は インディアンを征伐しつつ「開拓」した国家・合州国の祝日にて何故に香港「中文」大学の一組織がこのプログラムに米国籍の学生多いことは理解できるがそれ を行事とするか理解できず。1621年にメイフラワー号にて「新」大陸に移住した英国系の分離派清教徒たちPilgrim Fathersらが初めての収穫を祝い神に感謝して「三日間続いた祭典にはインディアンも招かれご馳走が出された」(平 凡社世界大百科)そうだが、たかだか三日のご馳走でアメリカ原住民から搾取された土地と人命は免罪されまひ。1789年にワシントン大統領 により法定祝日とされリンカン大統領の時に11月最終木曜となったがニューディール期にローズベルト大統領は「クリスマス前の買物景気を煽るため1週間繰 り上げを行った」と!、それの何処が清貧を尊ぶ清教徒の祝祭か……。1941年より11月第四木曜と定着。
▼最近よく銅鑼灣など繁華街で乳飲み子だの可愛らしい幼児を連れた物乞い多くさすがに不憫と思えば蘋果日報 によると主に湖南省より出稼ぎ乞食のプロ集団あり銅鑼灣などで物乞い、正規の旅行許可にて香港に入境、許可ギリギリの数週間物乞いすれば収入は日に数百ド ルあり結構な収入。物陰から見張る「天文台」と呼ばれる係がおり警察などが来ると物乞いに近づき指示、すぐに姿を消す、と。この天文台、実は仲間うちで現 金収入をちょろまかすのも見張っているのだろう。シビアな世界。
合州国中間選挙。唯一の希望的観測は今回の改選が東海岸北部や西海岸といった民主党の強い地区=都会が 非改選のため中南部の田舎=保守王国(日本はこの図式は崩れてきており寧ろ首都が保守極右だ)にて共和党が圧勝ということ。