富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月二十五日(金)快晴。昨晩三更に久生 十蘭『魔都』読了。奇書と云われるこの物語、江戸川乱歩横溝正史谷譲次らを輩出した『新青年』誌に連載された小説にて新刊として上梓されず、 それが朝日新聞社の文芸文庫となったことだけでも貴重。なにゆえに朝日?と思うが物語は夕陽新聞なる花柳界新聞より下に扱われる三流新聞の記者が主人公に て、何度か小説中にて朝日が一流紙として置かれているが由か(笑)。久生十蘭荒俣宏に受け継がれる博覧 強記、その語感の好さは痛快なれど描かれる物語とその舞台となる東都が果たして「魔都」と呼ぶほどの設定かというと疑問。物語は奇想天外ながら最終的には 警視総監絡む二大新興財閥とヤクザな土建屋の抗争となり、安南の王様もこの記者もあまり個性もなくなり、帝都も江戸の地下堀とロイド建築の帝国ホテルくら いが「闇」で今ひとつ。乱歩の描く東都のほうがよっぽど魔都。今和次郎『新版大東京案内』(ちくま学芸文庫)(底本は昭 和四年中央公論社版)読み始める。まさに『魔都』の時代の東都の全貌ここにあり、という記録。
▼ふと残念と思い出したるは長城に赴く際にCDにてPink FloydがThe Wallを携えなかざる事なり。あのまさに長壁稜線を這う景観にて游ぶ客も数えるほどの寂寥にてThe Wall聴かばいつたい何を感じたか、と後悔。
▼1967年の中共での文革の影響受けた香港の左派による反英暴動(英国 植民地政府の強硬なる鎮圧あり51名が死亡)や89年の天安門事件など香港にとつて痛ましき現代史、これまでF4、5(日本でいう高校1、2年)の歴史教科書にて記述は70年代まで(但し67年の反 英暴動については歴史として語るには時期尚早と記述除外)だったが2004年から使用されるsyllabusにこういった現代史の出来事が 登場、と。今回の改訂は歴史については当然のことながら97年の香港回帰を含むことが重要にて、そのためには反英暴動、天安門事件を語らぬわけにはいか ず。ただしこれをどう教えるのか、易しからず。当然のことながら北京政府からの「指導」もあろう。文革の影響を受け香港政庁に対して打倒植民地主義を唱え た67年のこの騒動は「暴動」とされており、北京政府すら文革を政治的誤謬と認めているのに、この暴動の首謀者の一人であり実刑にて服役すらした Yeung Kwongは昨年、その政治的手法は別にて社会的正義感が評価され(?)董建華よりGrand Bauhinia Medal授与され(嗤)、するとこの67年の騒乱は暴動なのか義挙なのかわからず。 天安門事件にては香港市民が中国民主化を支援しているが汎い意味での愛国心と捉えていいのか。これは23条立法となるとこの中国民主化支援も政府転覆を意 図した有罪行為か。結局のところ政治という装置に支配されている教育においては自由に歴史を語ることはできぬ、といふこと。
▼教育といへば教育基本法の改正に向けた中間報告素案にある「愛国心」という言葉を「国を愛する心」に書き 換え、と(朝日)。 「愛国心との言葉は、偏狭なナショナリズムと誤解される」と(嗤)。愛国心は偏狭なナショナリズムにて国 を愛する心なら広汎なる美徳か?。わからぬ。スワッピングは卑猥にて「夫婦愛を他者と共有する趣味」なら良し、とするが如し。愛国心といふ言葉のどこに恥 ずかしさあろうか。愛国心なる語を国を愛する心などと言い換えて済まそうといふ魂胆すら偏狭なるopportunism日和見主義にて、そんな言い換えを する輩に真の愛国心などなし!。所詮、その程度の意欲しかなき愛国心。ならば国を愛するなどと宣うべからず。また「新しい時代を切り開くたくましい日本 人」を「心豊かでたくましい日本人」とし、これは「たくましいという言葉だけでは経済的な原理だけを感じる」とする委員の意見を踏まえた、と。委員は唯物 史観か?(笑)、もしくは朝日の記者の文章表現の拙さも考えられるが、いずれにせよ意味不明。それにして も問題は「逞しい」の文字のどこに「経済的な原理」=経済的な豊かさ?ってことか、があるのか。どーであれこの程度の真意なき言葉遊びしかできぬ輩集い教 育基本法改正とはお先真っ暗。日本の<国家装置としての>教育も終焉に向うであろう。国家装置としての教育が興隆することなどよか、それでいいのだが。
▼大手7金融グループ・銀行のトップ竹中金融相がまとめる不良債権処理の加速策に対し反対と異例の共同声明 を発表。銀行側にも拙い体質こそあろうものの、竹中某の如き政界の男芸者(といふ言葉は芸者に失礼か)政 界の幇間(これも幇間に失礼か)いずれにせよ慶應でいえば加藤寛に象徴される御用学者(そうそう、これ)の現実性なきやりたい放題に金融業界もさすがに従えず。結局、小泉改革といふもの、傷みを国民で 分かち合うだか何だか知らぬが、最も病んだ患者の手術にて患者が治療法がダメとソッポ向いた。では銀行側がみずから処方箋を出すのか。海外は米国からタン ザニアまでとにかく日本の景気と構造改革にはこの不良債権処理が急務と期待というか絶望の中でその即時実行を求めているのに、この停滞ではますます日本へ の落胆つのるばかり。無惨。さぁ明日から日本シリーズです、などとウカレている場合に非ず。どうせなら金融代表と竹中チームで野球でもやって竹中勝ったら その処理加速策に従うとかとでもすれば?
▼香港の裁判所にて裁判で用いる公用語、Putonghua普通話(北京 語)はそれに非ず、と。これは文書にて公用はEnglish and Chinese、英語及び中文と書かれており、そのChineseが意味するものは?と問われ、これは広東語である、と。法律など書き言葉としての中文は 問題ないのだが裁判など話し言葉を用いる場合にこれが微妙。とくにPutonghuaを話す者(つまり大陸人)が 係わる裁判が急増しており(91年に4,656件が01年に9,158件)、その需要が高まっているなか での見解。本来は明確にすべき点なれど広東語としてしまうと本来の口語としての広東語にてはとくに官文としては用を足さずPutonghuaとしてしまっ ては広東語が用いられる香港には合わず、そういう事情がありわかっていて敢えて「中文」といふ表記にて誤魔化しているのが香港基本法での公用語の規定も含 めた実情。それんしても本来であればラテン国家の如く分裂して当然であるのに、この中文つまり漢文あってこそこの広い大地の民が会話も通じぬのに文書つま り官報により一つの政治権力によって統率し続けられ今日に到ったと思うと漢文という装置のもつ凄まじき精度を痛感せざるを得ず。
民主党石井紘基代議士刺され死亡。政治汚職を強い姿勢にて追及しテロ特措法に基づく自衛隊派遣の承認案 の採決で党方針に反して棄権、天下り土建政治の土壌でしなかい道路公団の無駄さを追及し続け特殊法人の見直しなど税金の無駄遣いの監視を続け「国民会計 検査院・国会議員の会」の代表幹事。4月の衆院安全保障委員会航空自衛隊機入札でスイスのメーカーが落札できなかった経緯について、防衛庁会計検査院 の検査報告書を改竄してスイス政府に送付していたことを明らかにした、と(朝日)。巨悪魑魅魍魎闊歩する 政界においてマシではないか。これで殺害されるとは昭和初期の如き物騒な世相なり。代議士の殺害とへば90年の自民党代議士丹羽兵助君以来12年ぶり。丹 羽君は陸上自衛隊駐屯地で刺され死亡ながらこれは犯人が政治的背景なき精神異常者にて而も病院での輸血ミスによるもの。ということは殺傷され現場での死亡 は記録に生々しき社会党院長の浅沼稲次郎君以来にて既に42年も前のこと。
▼築地H君によればイスラエル軍による再度のジェニンに侵攻にて、その侵攻理由は「自爆テロの犯人の出身地 だから」と。阿呆か。しかしこのような理由にもならぬ理由が罷り通るが理性なき現代にて、結局のところテロリストがイスラム系であることにてイスラム社会 全体がバッシングされるのとて同じこと。牧伸二と郷里が同じであれば「おまえウクレレで漫才してみろ」と因縁づけるのと同じレベルにて国際政治が動く。
▼同じく築地のH君見つけたる読売新聞のお笑いは(いつも朝日揶揄ばかり にてたまには読売も)華盛頓での連続狙撃犯逮捕にて犯人二人の関係を「養子とされる少年は、戸籍上の関係はないが、ムハンマド容疑者と交際 のあった女性の子供で、その後2人で共同生活を送っていたという」と(笑)。米国に戸籍制度などなし。戸 籍があるのは世界上で日本、韓国、台湾のみ。戸籍制度がないのだから戸籍上の関係などないのは当然。読売がいいたかったことは「養子とされているが法的に 養子縁組の手続きがなされていない」ということか。また朝日も「私生活では結婚と離婚を繰り返し最後は入国記録のないジャマイカ出身の少年とホームレス同 然の生活を送っていた。すさんだ日々のなかで、何が無差別殺人へと駆り立てたのか……」などと曾ての「テレビ三面記事」の再現ドラマ以下の安っぽい記述。 新聞の質の低下陥る底知らず。このムハマンド君の経歴にある「41歳の元軍人でDVで離婚歴あり」では普通は所詮どーしようもない「白人で太ってて、禿て るくせに長髪をうしろで縛ってて無精ひげはやしてるみたいな。郊外のバーで毎晩のんだくれて、おっぱいの大きな女にしょっちゅう絡んでて、酔っ払ったとき の自慢話は戦場でいかに俺様がかっこよかったか、というような話を100万回くりかえしてるような」「トレーラーハウスに住んでて、アル中のヤク中のくせ に唯一のプライドは白人であるというだけ」(H君)というような輩しか想像できぬが、この過激犯の顔写真 を見れば端正なる顔立ちとその語るに深き視線。そこにいったい何があるのか。「米国の首都ワシントン近郊を中心に犯行が相次いだ連続狙撃事件の容疑者が逮 捕されたことで首都圏に住む約7000人の日本人社会の間では安堵感が広がった」(朝日)とは事実だろう がこの犯人が捕まっても実質的には彼の国の何も解決されておらず。それにしてもこの連れの17歳の少年もまことに興味深し。ジャマイカ出身で密入国、荒れ た家庭環境でこのムハンマド氏とホームレス同然の共同生活と続け、今回の狙撃犯行。少年はクラッカーと蜂蜜、栄養剤しか食べることを許されていなかった、 と。それを「極限状況のなかで2人は社会への被害妄想を高めていったのかもしれない」(朝日)とドラマ仕 立てにするのも勝手だが、どうせなら三島先生か17歳の天皇狙撃犯に天皇の行列見下ろしながら性器をゴムで縛ってまでの自慰をさせた「かつての」大江健三 郎なら、これも愛を物語れることだろう。核心はこのム ハンマド氏とこの少年でね。日本版なら高倉健とかつての岡本健一少年、その母に太地喜和子か。それにしても彼の国ではこの17歳の少年を州によっ ては死刑にできるそうにて(華盛頓府は終身刑)正義の名の下にどう裁くかが焦点、と。