富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

九月十日(火)晴。九月十一日の週に入り昨日より悪夢續く。悪夢とは恐怖のテロリストによる攻撃には非ず彼の国の挙国しての「正義と勇気」の大合唱なり。これから毎年この大合唱を聞かされるかと思うと言葉もなし。この日を毎年祀るならば正義と勇気ばかりか彼の国の軍事介入すべての日に反省と追悼を捧げるべきではないか。緒方貞子女史NHKの取材に答えて曰く「安全保障がいまや国家だけではできない時代。テロを軍事力で抑えることはできずテロを生む不正、不公平、差別、貧困といったものの解決が必要であり、そういったものの満たされた市民社会があってこそテロに暴走する者を抑えることができる」と。御意。晩にジム。熱帯性低気圧の影響にて久々の大雨。ヨシモト共同幻想論のうち憑人論読む。
▼モスクワの日本大使館、屋内プールやテニスコート、サウナの建設取りやめ約6億円の建設費を節減し総工費は約90億円(朝日新聞より)。プールについて外務省は「防火、非常生活用水の意味がある」と説明していた(笑)が防火とは身からでた火の粉の鎮火か。外壁の素材を御影石からタイルに変更、警備上の必要から二重としていた外壁を一部一重に、石畳としていた地下駐車場などをアスファルト舗装に変えるなどが節減策。対コスト効果としてこの在莫斯科大使館の存在でいったいいくらの国益があるのか。建物の半分は国家威信=見栄として45億円で建物を20年で減価償却するとして年2億円余の国益を生むかといえば生めるわけもなし。外務省の在外公館などオフィスビルの一室で可。いっそのこと仕事が減って困っている実務屋の商社の海外店舗に外交を任せるとか如何か。
▼日剩読まれているY氏よりのメールに氏もNHK WORLD PREMIUMに加入し「最高に面白い海外安全情報を見ています」と。さういへば日曜日にも週刊香港K氏ともこの話題となり、やはりこれは公共の福祉が為とNHKにメールする。
NHKワールドプレミアムの放送が香港で始まりいつも楽しく見せていただいております。そのなかで海外渡航安全情報というような帯番組がありますがこれを見ていてとても気になることがありメールを差し上げる次第です。香港に住んでおりますため香港に関する情報についてなのです。香港でゴミのポイ捨てなどが罰金刑になったことなど旅行者でももし知らなかったら1万円!の罰金になるものでこういった情報はとても有益だと思います。ただし「香港でモンコックのトンチョイストリート、チムサーツエイのネイザンロードや香港島のセントラルなどでスリが多くなっています」というような情報はちょっと疑問があります。まず前提として香港に観光客を狙ったスリが多いのは昔からのこと、またその場所は上述の場所に限ったことではありません。しかもトンチョイストリートなる広東語を英語読みした通り名は日本人には通じずこれは日本人には女人街(にょにんがい)ですがそういった些細なことはいいとしても、この情報を見ていて一番不安なのは「観光客を相手に値段をボる店があるので屋台などではきちんとレシートをもらう」ということを勧めている点です。そもそも屋台で売っている二束三文のものなど値段はあってないようなものでそれをひやかしながら、もし買うならボラれたり値引きしたりを楽しむのが屋台での買い物ではないでしょうか。ブランド商品の偽物を売る店も多いわけです。そんなところで領収書をもらう客など皆無です。無理に「領収書を出せ」といえば消費者委員会からの回し者か、あとで難癖つけるためか、もしくはブランド品の正規の会社が偽物業者壊滅のため情報蒐集か、とそういう憶測をされるだけです。むしろ危険な目に遇うようなことにもなりかねません。必要以上の安全情報を鵜呑みにする観光客がいればむしろ危険。昔から屋台のそぞろ歩きなどスリがつけ狙い、そんな怪しげな場所でなんだかわからぬ商品をひやかしながら値踏みして買うか買わぬか、それを楽しむ、これはそういう文化と、そういった気持ちの余裕が安全な旅行の基本ではないでしょうか。しかもこの情報の紹介をこれまたかなり神妙な表情のアナウンサー氏がすることで事情を知っている者にはお笑いになってしまい全く無知な視聴者には「そんな危険なんだ!」と必要以上の警戒心を与えてしまいます。毎日見せられる安全情報のため、かなり気になってメール差し上げました。
なぜ香港のその特定の場所なのか、なぜ香港なのか、バンコックやバルセロナはどうなのだ?……と考えればこの安全情報に全く根拠なく、結局「番組ありき」で適当にそれ相応の情報を流していればいいといふこと。そして最も重要なことは、昔なら「ちょっと御酉様の縁日でも行ってこようよ」と頻繁に晩に街に出る文化あったものがいつのまにか街は寂れ夜な夜な外出などせぬ状況になっていることなど自覚もなく、この渡航情報など見ながら煎餅頬張り茶など啜りながら十年ほど前の香港旅行のことなど思いだしながら「あら、おとーさん、ちょっと見てよ。やっぱり香港って怖いのねぇ」とつぶやいて、それが時間を潰していること以外何の意味もなく、深層心理では自らが安全な場所にいる喜び(それが幻想であるのだが)を認識するに過ぎず。安全のためといいながら安全保障が安全保障にならぬどころかその判断と行為が危険を誘発する。