富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

二月十四日(木)初三。快晴。農歴正月は晴天続き、さすが秦那人である、なにか年が明けて少しはマシになりそうな気配。朝山頂にて香港Ladies runners club主催にて第21回美津濃發財Run。山頂一週してMatilda病院までを一週する公称8kmの農歴新年恒例のroadraceにて41分20秒(実質7km余のはず)。しばしばレースにて同じ集団にいる若白髪の走り手に声援多くふと見れば街工派議員の梁耀忠氏であることを今日まで知らず。終点はMt.Austin公園にてピークトラム站から最後上り坂となるがそこにきて半分冗談でダッシュできる体力残っており何故にもっと懸命に走らぬのかと反省。時計も順位も気にせずのFun Runも一理ありだが多少の向上心は必要か。終わって応援のZ嬢とHarlech RdからHatton Rdを散歩。朝は自ら走り午後は沙田にて新年初競馬。さすがに人出多し。R1(IV,1200m)は韋達(Whyte)の一番人気はどうも最近期待外れ多く多少気になりつつTouch of Class、予想通り期待外れ×、10倍以内では勝てない李格力(Legrix)騎が25倍のForever Victoryにて一着、三着のSing A Songは初戦ながら告厩で相性のいい高雅志(Coetzee)騎にて調教時計もよいのを逃す無念。R2(IV,1400m)高雅志のLucky Master一番人気にて10倍未満が七頭という団栗背比レースながら六番人気のCharming Stride(馬佳善)複勝狙うとこれが一着でまぁいいか◎。R3(IV,1600m)好きな鹿鳴(Buck's Fizz)12倍ながら韋達で複勝狙うが×、一番人気Sterling Colours×にて李格力がFavourite Expressにて6.3倍で一着(こういうこともある)。R4(III,1400m)今季調子よき告達理厩で杜利莱(Doleuze)騎の一番人気Celebraton、連複とワイド狙い調教よさそうな26倍のSugar And Spice(梁明偉)いれるがいくらTT絡みのR4でもそう簡単に14枠馬が来るわけないか×。R5(G1,1000m,The Bauhinia Sprint Trophy,126lbs)自信をもって一番人気Our Class(告東尼厩/高雅志)単勝×、馬佳善が相性のいいCharming City六番人気で一着。R6(III,2000m )はThistlejade(愛倫厩/馬偉昌Marwing)が一番人気だがちょっと線が細い馬で我々のシンジケートでは忘備馬となっているDarwin(Size厩)が出ているが騎手がこれまでのDye騎手からKing騎手に替わっておりこれではダメと確信して、杜利莱は複勝なら確実だろうとMe Guiness(告達理厩)を複勝とすると二着◎でちゃんとDarwin一着。King騎乗で一着とはDarwinはマジに強いと敬服。やはりシンジケートの分析は信じるべき……と反省しながら次レースがC氏のDashing Winner参戦のためパドックに向うとSize調教師がいつもの神妙な表情で孤独な雰囲気を漂わせながら口取りに向おうとするのに遭遇。まわりに誰もおらず視線があったのでCongratulation, Mr.Size!と思わず告げると立ち止まって笑顔を見せこの人も笑うのか、ふつうなら調教師というのは持ち馬がレースに出ていれば Racing Centreあたりで観戦しているものがSize調教師がなぜここを歩いてきたかといえば次レースに出るSaintly Partnersのパドックでの馬具装着とかを自らきちんとしていたからで敬服。……ここまではまぁいつものレース展開である、勝ちもしないがせいぜいトントンだろうとR7(II,1000m)に臨む。C氏のDashing Winnerは多少体調崩し40日ほど休養したがここ二戦二勝でしかも今回も杜利莱、ただClass-2で131磅と一番重く一枠。倍率は昨晩9.0倍が4.2倍まで下がり5.0倍程度に落ち着いた模様。いくら上り調子とはいえ131磅は重すぎるし直線1,000mは勝たないと見越して二勝続けて口取りまでさせてもらったのに一番人気2.7倍のChariot of Storm(告東尼/高雅志)と二頭を迷った揚げ句Chariot of StormとしたのだがDashing Winner最後グッと伸びてChariot of Storm○を頭差でさして一着……これで三連勝、Class-1馬となるわけでC氏家族喜びも一入だが流石にDashing Winner買わず口取りに加えてもらうなど失礼な話で辞退する。やはり知古の馬主の馬は勝ち負けにかかわらず買うべきである。というわけでR8(G1,1600m,The Hong Kong Classic Mileでダービー前哨戦)となり一番人気はFKPの同父馬Jeune King Prawn、ただ人気ありすぎでつまらないと思えれば注目の四歳馬はOlympic Express、これが狙い目かと思いながらパドックに向おうとしたらJockey Club Box席から出てきたW夫人と邂逅。W氏の新馬Gogglesがこのレース二戦目なのだ。W夫人に「パドックの中で馬を見てってよ!」とまるで庭の草木でも見せるかのように誘われW弟氏と歓談していたらW弟氏も兄の持ち馬をさておきOlympic Expressを讃める。確かにきれいな馬。しかしGogglesも9.1倍とオッズもよくやはり「知古の馬主の馬は勝ち負けにかかわらず買うべきである」と痛感したばかりであり、しかもW氏の経営する会社の株を上場時に買ってアジア金融危機以降低迷したままで株の損を少しでも回収させてもらおうか(甘いっ)とGogglesの複勝とするがJeune King Prawn楽勝かと思いきや最後直線で速度おちてOlympic Expressが素晴らしい追い込み見せて一着。Gogglesは×。レース終わって「あっ」と声を出しそうになったのだが、ふと思えばOlympic ExpressはOrienal Expressの馬主Larry榮智健氏のHandmasterに続く持ち馬、じつはLarry榮智健氏の会社CITICの株も持っていてこちらのほうがW氏の会社株などよりよっぽど損益大きくこっちこそ回収させてもらうべきだったことに遅ればせながら気づく。やはり「自分が株券を保有する会社のオーナーの持ち馬は買うべきである」と念ず。三レース続けて最初に買おうと思った馬を見捨てて別の馬を選び失敗り続け。R9(Class-1,1400m)こそ大好きな金龍華(Asia Rising/韋達)に賭けるべき、しかも一番人気だ、しかし、である、返し馬で金龍華が勇姿を見せるどころかコトもあろうに私の一番嫌いな「誘導馬に『ねぇねぇ聞いてよ聞いてよ』と話しかけているように見える」あの姿勢で通り過ぎていくのだ。どうしても返し馬で誘導されているだけでも途端に馬券が買いたくなくなるのにしかも「ねぇねぇ聞いてよ聞いてよ」されるともうダメ。そう思うと132磅も重そうだし114磅しか背負ってない皇帝(Huandi)が馬偉昌Marwing騎乗で四番人気の8.0倍、調教の時計もいいし何といっても返し馬が勇壮なのだ、これしかないと皇帝に賭けたが皇帝は第四コーナー回って外枠から上ってくるはずが、あれれ……ぜんぜん伸びない×、反対にいかにも132磅が重そうなのだが金龍華がぐいぐい押し上がってRiver Centaine(Size厩)を押さえて一着。四レース続けて選んだ馬を見捨ててそれが一着になっているということは二の四乗だから16分の一の確立か、と感心してもしょうがない、最終R10(II,2000m)は漢字名<侵略>というFerrule(王厩舎/馬偉昌)が一番人気、続くのがFlying Machine(告東尼/高雅志)。背負っているのは126磅に127磅、枠は13と14、調教も時計もどちらも言うこと無し、馬偉昌も好調だが告東尼/高雅志もいい。返し馬を見て強いていえばFlying Machineのほうがいいか……迷ってもまさかこの二頭で連複にしたからって両方入るとは限らない、入っても一番人気と二番で連複が6.8倍しかつかないし今日のR6からの負けをこの連複で相殺するなど危険すぎる。FerruleかFlying Machineかとゲートインまで迷っていたが実況の解説がやはりこの二頭で迷うといいつつ「馬としてFerruleのほうがいいが、ただ今日の状態でいえばFlying Machineのほうが仕上がりがいい」と……やっぱり私の返し馬を見た目は間違いなかった、とFlying MachineにしたのだがFlying Machine返し馬で勢いあったがその勢いのままスタートから飛び出し高雅志の押さえきかず三四着のいい位置につけてきたFerruleが最後のハロンでちゃんと出てきて一着、Flying Machine五着×。ついに五レース続けてやってしまった。逃した馬は全部一着。しかも浮気したらそれが全部三着にも入らないという惨憺たる結果(32分の一の確率か……)。唖然としたまま帰宅して冷凍庫からAbsolutのペッパー入りウォッカを一杯ぐいっとやる。お好み焼き。Mr.Beanの映画、矢沢永吉『お受験』(滝田洋二郎監督)をVCDで見る。▼朝日新聞でいつもあまり読まないのだが大江健三郎君の『未来に向けて』往復書簡、今回の相手がEdward.E.Said氏となる。新潟のたかだか一高校校長から名指しで反国家的な言動を指摘された大江君であるが(そういえば国旗国家護持がために大江君講演会中止を決定した校長はどうなったのか、愛国的判断で教育委員会並びに文部省の思召し高くなったのか、国旗国家問題をノーベル賞作家絡みでクローズアップさせてしまったことが揶揄されたのか)9・11以降合州国にて文化と国家のアイデンティティが同一化され巨大な暴力が正義となって世界を支配していこうとしているなかでマトモにそれに発言する文化人が少ない中(発言しているといえば田中康夫君、大橋巨泉君、坂本龍一君、筒井康隆君……ああみんなかなり「濃い」人たちばかり……笑)少なくとも日本を代表する知識人たる作家として大江君がここまで立場を鮮明にして主張を積極的に行っていることは凄いコト。大江光君登場以降の小説は私は個人的には読めないが、大江君曰く「長く考えつめた上で小説をいったん断念したのは自分の作品が出発時の姿勢と野心から離れて、個人的かつ神秘主義的な迷路に入り込み、そのまま書き続けてゆけば小説自体で歪んだ信仰告白をしてしまいそうであったから」と、やはり本人もそう自覚していたのだと知る。その大江君がサイード(そういえば合州国ではSaidなる名がやはりsayの過去形のsaidとして発音されてしまいサイードと呼ばれることじたい難しいことになっている……欧州人ならまだSaidにはサイードなる呼び方があることを理解する度量があるが合州国の米語感覚が言語的にも画一化していることの表れ)の『文化と帝国主義』を読みまさに日本がいま置かれている状況が文化と国民的アイデンティティの画一化つまり文化の帝国主義という状況に進んで支配されようとしている状況にある、と大江君は危機感を募らせる。いまの日本の首相など一見「日本の日本らしさ」を体言しているように見えるがせいぜい歌舞伎が好きな程度で(厚生大臣だった頃か何度か歌舞伎座でお見かけしたが義理人情と忠義に苦悩するあの世界に酔っていたのか)文化と国家的アイデンティティに対しては皆目鈍感であろうし、東京都知事もあれが真の右翼だとしたら赤尾敏先生など激怒するはずである。そういう状況で朝日新聞とてかなりいろいろ???なところはあるが全国紙で大江君とSaid君の往復書簡を連載できるだけ「国家としての日本での」朝日があることがせめてもの救いだろうし、いったいどのような世論、政治的思考があるのかは皆目つかめないが大江君とSaid君の対談のその読者たる「国民」がいることだけでもまだ日本はマシか。合州国でサイードチョムスキーの往復書簡であるとか仏蘭西で先日亡くなったピエール=ブルデューとのこれらの「進歩的」文化人の対談であるとかがこれだけの規模の新聞で掲載されるという話も聞かず。だが朝日が全国紙であってそれにこれが掲載されていても世論にどれだけの影響があるのか、かなり少ないとしたら結局掲載されてもほとんど読まれていない?か。▼合州国といえば怖いのはブッシュ君が9・11直後のあの怯えた声が(テキサス訛りなのか彼独特なのかクセのある米語で聞き取り難いが)日に日に勇気と自信に満ちあふれていること。もはや自信に満ちあふれた「最も強く豊かな民主主義の国が世界の警察として果たす役割」つまり「遅れている<彼ら>に<私たち>の民主主義を与えれば世界は平和になる」という考え方(大江君が紹介する紐育の学生の発言だがブッシュそのまま)が世界を覆い始め(合州国パキスタン首相が訪問する姿などもはや権威服従そのもの=平等な外交に非ず)日本は世界経済の一つの軸として本格的な構造改革が要求されていたのに全く何もできずに日本バッシングが起きるところでこの9・11が発生し全く何もせぬまま首相先導でこの紐育の学生の謂うところの<私たち>の側つまり平和で強く豊かな民主主義の国に位置づいてしまったことでバッシングの矛先からまんまと逃げているようなもの。サイード氏曰く同時多発テロは「文明の衝突」でも「貧困」でもなく近代化社会そのものに原因があり、強大なポストモダン文明と文化帝国主義的な単純な(上述した紐育の学生のような)アイデンティティ、この二つが結合した結果として観念として爆発すると合州国のような状態となり、これが今後、欧州や日本でも起こる可能性がある、とサイード氏は警告する。鈴木宗男は論外として(笑)小泉君、石原君の世界というのはまさに主張すべきことは主張する自立した個としての強い(強そうに見える)現代的なアイデンティティポストモダンの日本を体言しているもの)と全くもって無自覚に個と国家が融合してしまう渾沌があるという点でこのサイードが指摘する状態ではなかろうか。▼大江君が朝日で紹介したサイード君の一連の9・11以降のインターネットでの積極的な発言をまとめたものがみすず書房から『戦争とプロパガンダ』という書籍として発売されてたそうな。これと同著『文化と帝国主義』、それに(日本語訳は浜邦彦氏らよって年内に以文社から刊行予定か?)Hardt&Negriの『帝国』は現代にあって必読では?。