富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

二月十一日(月)曇。巷は陰暦正月の晦日にて先週末より連休に入る仕事場多く今朝は出勤する人も少なく街路も走る車はことのほか少なし。とはいへ昔に比べると正月を初三まで休まず営業する肆も少なからず便利店の無休営業に応じてか蘋果日報はついに初一も休刊とせぬ由本日広告あり。ふと昨晩読む『推理小説家〜』の記述にて思いだせし事は昔は藺草の色もすっかり黄ばみ汚れ古びたちくちくと畳なるものありし事。当世豊かになったのかそんな畳こそ見当たらぬが畳の素材じたいが偽物多くなりちくちくせぬのかも知れぬ。玄関や台所の床軋みガラス窓割れてテープで補強してあったり板で応急措置してあったり。掘っ立て小屋の如き小肆に裸電球ひとつ、土間の奥に小さな板間あり、肆を閉めたあと果物が木箱をひっくり返して机にし同じ小学に通う子ども勉強するを戸板の節穴から覗きみたことなど思い返す。昼にHappy Valleyの日本料理屋慕情、いい鱈子の白子がはいったとのことで白子の天麩羅、白子を鍋にしてくれるが鮟鱇の肝を使った汁にて絶品。金沢の福光屋の黒帯を少々。すでに正月休みにはいった食肆多く紅色の紙貼りだされ休業を告げるが毎年のことながら休みに入るのが収爐、新年の店開きが啓市という表現がいかにも料理屋が竃の火を落しまた新年客を招くその感じが好し。結局蘿蔔米羔購おうとCitysuper訪れると金卓牌なる名前の出店ありけっこうな人が並んで蘿蔔米羔など購ふ。流行る肆なら売る人も殊更福あり親切にて驚く。青森物産展しており津軽路煎餅。聘珍樓の甘栗もさすがに小粒ばかりとなりまた晩秋を待つことになるか栗好きには辛きもの。夕方ジム。晩旧知S氏が数年ぶりに香港に戻り起業とのことでS氏とFortress Hill順寿司。ちなみに大晦日にて利休、宇津木など收爐……刺身など供す食肆に爐はないか。順寿司開いており助かる。まずはエビスビール、それから黒松飲みながら刺身、万願寺からしと最後はお決まりにて鉄火とかっぱ巻き。万願寺からしといえば京野菜なるものは何故に京都のあの狭き地にこうも様々な野菜あるかとかねがね不思議だったがあれは京都に野菜が多いのではなくかつて(平安時代か……)諸国の様々な野菜が京に運ばれ根づかせたものにて各地ではとくに明治以降に商品作物としての野菜の画一化が広まり地元の野菜が淘汰され種が途絶えそれが京に残ったものであるといふようなことを何かで読んだことを思いだす。店に入って恵比寿麦酒を頼めばさっと金比羅が出て食後いい具合に浅漬けの漬物が出るあたりが真に嬉しい食肆。銅鑼湾はビクトリアパークの花市にて渋滞というふ臆測あり地下鉄。車内も夜の三更ともなる時間にことのほか幼子つれた家族多く晦日を思わせる。地下鉄は地上にて三社祭であるとか神田明神の祭礼であるとか銀座で提灯行列とかビクトリアパークの花市であるとか一切さういった「絡み」なしに黙々と走る。▼この秋の十六全代のあと江沢民引退にて胡錦濤(政治局常務委員)に譲られるといふ観測強きなか産経新聞が後任は李鵬(笑)という笑ふにも笑えぬ報道あり(江沢民は軍事委員会主席に留任)。まさか現実になっては困ることだが李鵬健在を示す観測気球か。李鵬国家主席就任は国内でもかなりの反発があり実現の可能性は低いが江沢民が全面引退せず軍事委員会主席に留まるとなると江沢民と同等の党内格にある李鵬を引退させられず引き換え条件として李鵬を実務権限なき名誉職的に国家主席とする可能性はなきにしもあらず、か。それにしてもかつては蒋介石誤用否御用新聞の産経は北京立入り禁止だったものが近年の台湾情勢を反映してか寧ろ国民党右派か台湾・新党モードの如く北京従順いずれにしても権力に縋る点は保守マスコミの本流か(笑)。李鵬といえばロイター電にて李鵬旧正月澳門にて年越しだそうでこれは中央政府が先週末の賭場経営権を含め澳門特区に対する全面支持の表れ、と。この高級貴賓が誰であるかは公式には特定されていないがあちこちから李鵬という情報垂れ流されておりこれも全人代常務委員会委員長という国家中枢の要職でありながら領袖かといわれると否となる閑職にある李鵬健在を示すが意図か。▼共産党といえば『信報』に「誰是党内民主派?」という論説あり共産党一党独裁ながら党内に謂わば民主派あり江沢民胡錦濤といった現主流派がこの民主派に該当するのだが、見方によってはこういった党内政治のバランスがとれているからこそ一党独裁でありながらも「まだまし」の状況にて、これを読みふと目を日本に転じれば現状の政治が全く空洞化しているのは、かつての55年体制なるものは党外にイチャモン勢力=野党がある中で自民党なるものが党内にタカ派ハト派あり宮沢喜一君まで宏池会保守本流であることで自民党一党独裁が「まだ」常識的に機能していたものが、この体制がいけないということで二大政党制を目指し民主党などできてみたところ結局自民党政治が継続するなかで自民党内に党内民主党的な勢力なく田中真紀子的な党内野党があるだけで自民党に自浄機能なく野暮な鈴木宗男的世界に陥る。もしかすると国家の英知が結集している中国共産党のほうが自民党政治より「まだまし」といふことか。中国の一党独裁より政治が機能せぬとすればああ悲惨な日本。