富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月一日(火)暖かき快晴なり。長洲島にて元旦徒競走あり走歩会T夫妻とともに高速艇にて長洲島に渡る。長洲島は香港島でいえば赤柱の半島ほどの小島ながら長洲島といえば市街しか歩かず走るまで知らぬことながら予想以上に高低あり小高い丘上からの景色も変化あり殊に島南部のさながらコルシカ島の如き地中海風の海を一望とす小築の棟々は美しき閑居なり。10kmを51分48秒にて走り昼前の船にて香港島に戻る。高速艇は早いばかりで微睡む暇もなく普通船は豪華位にて甲板に出て気持ちよく冬の暖かい太陽を浴びる……が長洲島には基督教の施設合宿所多く大晦日から祈祷でもしたのか興奮さめやらぬ甲板に出てきた若者たちがギター持参にて基督教のフォークソングをギター弾きながら唄われてしまい閉口。自らの精進もよいが諸君らの歌を唄わぬ聞かぬ人々がいることを察しておらぬ不幸。一旦自宅に戻り陽明山荘I氏宅に伺い香港トレイルを山頂より陽明山荘まで25km走歩したI氏、A君、H君それに長洲島から戻ったT夫妻にて新年会。Z嬢が調達した簡易生麦酒ディスペンサーにて朝日麦酒、I氏よりの大関酒造の大吟醸大坂屋長兵衛、馬主C氏よりのPenfolds Bin389など歓飲。競馬は馬簿自宅に忘れながらもテレビ中継で馬名と倍率頼りに賭け、皆さんも私を胴元に賭け始める……無論ノミではなく私が真っ当に携帯にてジョッキークラブに代理で賭けたことは言うまでもなし。こういういい加減な日にかぎって馬場に臨まぬ故安全策で複勝と決めてかかればR1のStarlight Supremeは自宅にて当てR2のD'or Win、R3のChief's Fortuneは移動のタクシー車中にて馬簿忘れ馬番わからず賭け損ねたがどちらのレースも入賞しておりR4は予想もつかず敬遠して(この冷静さ)R5もHalo King Prawnはがちがちの一番人気で見事に二着をMr Happyと当てR6はTattenhall二着に来たものの酒と会話に夢中になり賭け忘れR7のEnergetic Prince、R8のFerruleも複勝で当てる。但しメインのR9中華商会挑戦盃(G3)は番狂わせにてZ嬢のみBest Of The Bestが二着にて複勝で5.6倍という高配当。R10は期待のPo On Win惜しくも四着。競馬場にて熱心に競馬すれば外しこうして洒落で酒を飲みながら賭ければ当たるとは皮肉。▼元旦の新聞を広げれば敬宮愛子さまご尊顔は皇太子殿下のお人柄と妃殿下の聡明さを兼ね備えたお顔立ちにて生後一カ月の幼児とは思えぬ凛々しさ。天皇陛下が昨年詠まれた歌は
アフガニスタン戦場となりて>
カブールの戦終わりて人々の街ゆくすがた喜びに満つ
と短歌の趣としてはけして秀作とはいえぬ御製ながら1945年の状況にてカブールを東京と置き換えれば戦後民主主義を理念として強く抱かれる陛下がそれを蔑ろにする今の日本へのお気持ちが強く表れた歌と察す。これを臣純一郎君は読めるのかどうか(所詮読めぬか)。▼朝日の特集にて「接続詞のない時代に」、井上ひさし曰く接続詞があることで言葉が理路騒然と並び考えるヒトを作るのだが現代は確かに超高層ビル自爆テロで二棟も瞬時に崩れ落ちる様を目にして言葉も続かないのも事実だが総理たる者の相撲千秋楽での「感動した」という一言がヤンヤの喝采をうける。「個人的で、感情的で、断定的な一語文、つまり感動詞を、きっぱりした口調で繰り返し、聞く者に強い印象を与える。そうしておいて、最後は、言っていたこととはちがう、修正した政策を行う」のが小泉政治にて、それを全く実績も根拠もなきものなのに応援するのが国民であるのだから、私たちもまた感動詞で考えて、考えあぐねている人間になっている、と。株価が下落し円安が進み不良債権に苦しみ政府赤字が膨らみ企業が崩壊し失業者が増大しその一方で官僚や政治家の不手際が続き……これだけ最悪の材料が揃っていながら革命とはいわぬまでも大変革がおきないのは我々の思考回路から物事の因果構造を考えること、接続詞が抜け落ちているから、と井上ひさし香山リカは言葉の賞味期限の短さを、別役実は紡ぎ出されるべき言葉から肉声が消えてリズムがいいだけで弄ばれているだけ、と指摘する。まさにその通り。せめて日記だけででもそういった思考のある言葉の運動を続けていこうと改めて思う。