富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月二十六日(金)晴。昼にH君に手渡すブツあり北角、H君と百年ぶりに適当にそのへんの日式料理屋Tに入り野菜ラーメンなるものを注文すれば湯麺かと思えば味噌スープに麺、その上に茹でただけのモヤシ、椎茸、青梗菜が盛られたもの。美味ければいいがスープは出汁もとらずただ味噌をお湯で溶いただけ、そこにただ茹でた野菜が浮いているとは。やはり日式は入るものに非ずと痛感。夜は夜で映画の前にとZ嬢と尖沙咀にて他よりか美味い回転寿司と聞いたCameron道の寿司亭。香港回転寿司界の双璧ダブルGよかまだマシかと思うが舎利が焚き加減イマイチ機械での握りが硬いのが難点ながら回転寿司は所詮回転寿司文句は言うまい。Z嬢映画切符を忘れし事発覚し当日券有りに期待かけるが訪れたは尖沙咀の太空館(Space Museum)にて会場の科学館(Science Museum)と勘違いし開演まで14分すわ科学館と尖沙咀を駆け当日券無事購う。監督・季子羽の『一曲柔情』観る。北京が現代舞踏団を舞台にいわばフジのトレンディドラマ。気楽に観れる内容にて劇場で映画としては客に足を運ばせるには二流。監督色気を理解しておらず。葉紅役の羅海瓊はいい女優だが葉紅と確執する小米(韓暁)それぞれが惚れる亜明役の毛毛「なんでこんな男に惚れる?」という程度にて華がない。鄭伊健のようなただ今様の顔。終わって日式に回転寿司と味覚がかなり狂い口直しにと五味鳥訪れるが満席。尖沙咀にて金曜夜に飲みたいバーも見つからず地下鉄を避けセブンイレブンにて缶ビール購い天星小輪にてビール飲みながら島に渡る。『信報』のリベラルなはずの連載随筆にて驚く記載二つあり。まず岑逸飛「韓日怨恨」という韓国の日本に対する恨みが日本の韓国植民地化と皇民化で生じたものであることを正確に紹介していてそれはいいのだが馬關條約(下関条約)により朝鮮を独立させ中韓関係を断絶させ南韓は中国の属邦でなくなり……と清までの王朝が朝鮮を属国としたことについては当然のこととして記載。日韓関係もさることながら日韓を語る前に中韓を呻吟すべし。劉健威も自らの言葉による相手への威嚇、暴力を省みる文を綴りながら広州の中国大酒店でタクシー長蛇の列ながら二人の「黒人」が列を無視しタクシーに乗り込むを見て怒った劉がそのタクシーを止め二人に降りろと怒鳴り……と自省の文であれば自らを咎めればいいわけで何故に「黒人」と書く必要があるのか、(劉本人がそう思っておらずとも読者にとって)黒人という言葉が規則を守らぬ者という意味合いになることを意識しておらず。民族主義国家主義の片鱗がふと無意識に現れし実例か。ここ五、六年無沙汰を続けてしまった畏友T君は曾てW大の博士課程にて伊勢物語を研究しつつ歌舞伎にてとりわけ大成駒と大松島を愛し10年以上前に京都は南座改築直前の顔見せに一緒に参るなどの仲、同じく畏友にて地唄舞する舞踏家にて医師のN兄よりT君が遂にe-mailまでするようになったと聞き、メールにて交際が復活。大成駒逝去からの喪が明けたT君は歌手Hにゾッコン、香港版のCDを送って差し上げるとお礼にと日本の批評界の本数冊を送ってくれたと連絡ありメールでのやりとりにてクラシック音楽評論家の大御所Y氏が「生きる痛みを知るがゆえに対象に矛先を突きつけられない」という点にT君触れ、T君が批評の批評の対象とせし歌舞伎評論のW氏などは私にとっては尊敬も込めさしずめ「生きる痛みを知らぬがゆえ対象に矛先を突きつけてばかりいる」ようなものかと返書す。