富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

九月十日(月)曇。朝明けに霞もいまだ見へぬ寅の刻深く眠りたれば突如寝室に迄響きわたしり大鳴に眠り覚め確かむれば書斎天井がその音の在り処。楼上に住みし人暁に気が触れたか物の怪の仕業かと恐れおののきさりとて楼上に赴き未だ誰とも知らぬ住み人になにが音たてらむと尋ねるもそら恐ろしきことにて楼下が舎人に気味悪き音ありと伝えど舎人仮寝を貪る始末防人を強いて起し拙家に連れ出で書斎にて音聞かさしむ防人寝惚けも覚めればすわ楼上へ出でよと申せど舎人気味悪がり再び楼下り舎人が長呼び守衛頭參る。音は止まずどんどんどんと続くは楼上にて唐国にてはやると伝へききし籠球が球でも床に突くが如く守衛頭とて音を気味悪がれば楼上へと參るも楼上が扉を叩くことに怯え警察司へと急を伝へたり。不思議なるはわが書斎にては大鳴が楼上にては微かに鳴るばかりなり。警察司が督人早馬にて現れ書斎にて大鳴確かめ楼上に赴き住みし人を起せばその人もまた音に目覚め奇怪にて眠れぬ一刻をおくりたりと督人に語りぬ。督人舎人ともども止まらぬ大鳴にやはり物の怪が仕業かと恐れおののき督人警察司に戻り応対をば上司に報せ再び參らんと書斎に戻れば督人曰く「あらためて耳を澄ませばこの音楼上でなくして此処が電脳より響きたる音にあらむ」と電脳を指したるが電脳とて眠る暁に拙者ふと合点するは唐国にてはらじおと云われし収音機が主電源故障せしまま放置されたることひととせなれど聲音はあふとふつと由りかたちこそ小さきものなれど音の調べが好さはそれ唐土より四海に伝え渡りし坊主牌がえれき喇叭につながりしままにて慌て収音機が電気抜けば立所に物の怪が大鳴止みたりける。われ面子なく冷汗流れおちたること南海の驟雨のごとく督人舎人に詫び引き取りたまふ。わが失態に穴あれば入りたき所存なれどそれより驚くは坊主牌が電脳用と売りしかうも小さき姿形のえれき喇叭これほどが音質とは坊主博士が匠が技芸にただただ恐れいるばかりなり。たかだか電脳に坊主牌などつけるものにあらずと一人自省に眠れず暁方空明け霞たなびくを眺めて詠む
夜もすがら坊主来れば明けやらで閨(ねや)の物の怪つれなかりけり
蔡瀾氏一週間経ち本日「盆栽猫」について「做錯事」なる文章を掲載。彼方此方より蔡瀾氏に其はインチキなりと指摘あり。(上述の如く)誤認に基づきたる失態は誰にでもある間違い(笑)としても「こんなことする変態は日本人に違いない!」と主張した事は本人謝罪すべきだが文中にてさらりと「又説:イ尓老人家近日世界到處走、一定是対時事不太熱哀、與其罵日本人変態、不如罵香港政府無能的高官。想イ尓與趣也不大、到不如継続吃渇玩楽、風花雪月也。」(「イ尓」は一文字、渇は正字は「口」扁)と或る読者からの指摘の中にて述べたのみ。唖然。
坊主騒ぎにて終日朦朧数十冊読みかけし本あるなか次はジイド『背徳者』読み始める。美孚が藪用も本日が最終にて深夜尖沙咀がジムにて参加せしクラスもこれが最後と真摯なるお師匠にお礼を告げる。