富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月十四日(土)今季ドリアンを初めて食せばイースター前でなかなかの熟し具合、味はまだ浅いがこれは98年以来のドリアン当り年の予感あり。香港映画祭にて沙田の競馬を逸するがため予め馬券を買い、Z嬢と海防道街市にて徳發の牛南面と牛丸麺。太空館にて昨日に続き看王家衛的『重慶森林』、前半の金城武主演の部分をどう看るかによるが後半は『阿飛』にて謎のラストシーンを演じた梁朝偉が二度目の王家衛作品にて「いちいち考えてもしょうがない」という気楽な芝居、王菲王家衛の作品で見事に楽しそうに自然体、一応ストーリー展開しているぶん、ヘンに筋が目立つ、いずれにしても解らない。市大會堂にて阪本順治監督『顔』、どうして藤山直美を殺人犯にして映画が撮りたかったのか、看れば合点、全く華もなく針仕事とテレビとお菓子で家に引き籠った女が母親の死を契機に派手な妹に罵られ、それを殺し、逃げる話なのだが、女は酔った男(勘九郎)に強姦され自分が女になったお礼に祝儀を渡し(これが母親への香典である)、ラブホテルにて初めて家の外で労働し、自転車に乗るという自分の速度を上げる手段を会得し、自転車の乗り方を教えてくれた経営者(岸辺一徳)の自殺で警察との遭遇に脅え逃げ出し、旅の途中で男に恋し(佐藤浩一)、別府でついにホステスとして生まれて初めて明るく積極的に活きる性(さが)を会得するのだが、ここでも勤めたバーのママの弟、ヤクザなのだがその抗争で弟が殺され、ここでもまた「死」に遭遇し、また逃げ、最後は島で御用となりかけるが、ここからもまた今度は海を泳いで逃げていく……この展開で「顔」が引き籠る娘、殺人者、ラブホテルの従業員、恋する女、ホステス、健康そうな島の女と千変万化していくのである、この演技ができる女優は、と考えれば、ニンがあるのは市毛良枝だが、この女を主人公に「一本撮る」には彼女ではなく、また寺島しのぶではまだ若すぎ、とくに本当にブスな娘から色っぽいホステスまで演じきれるのは市原ではなく直美しかおらず、被害者ではなく加害者の視点から撮りたかったという監督だが、やはり加害者から撮るとなると『復讐するは我にあり』の緒形拳とか、これくらいの役者が必要なのだろう。この映画、成人映画指定できっと殺害などの凶悪場面のためであって、直美と勘九郎の濡れ場があったりしてね、それじゃエロ映画じゃなくてグロ映画だ、なんて笑っていたら本当に勘九郎が直美を強姦する役だった(笑)。久々に馬場に行かずの競馬、終わってみれば賞金高HK$7,600萬にまで膨れ上がった3Tでは(当然配当にはつながらないが)R3にて簡厩舎の力圖、R6ではこれはWhiteが騎乗だから難しくないが青山福将を押さえ自分の分析と勘に満足、好きな南美之歓もR7の1,150mの初のDirtで三着に入り、これは複勝を二枚買うミスも塞翁が馬となる。
荷風日記、「一昨日四谷通夜店にて買ひたる梅もどき一株を窓外に植う。此頃の天気模様なれば枯るゝ憂なし。燈下反古紙にて手箱を張る。蟋蟀頻に縁側に上りて啼く。寝に就かむとする時机に凭り小説二三枚ほど書き得たり」という、この日記二日目の記述、これが荷風散人数えで三十九歳である、本人がいくら老成を気取るとはいへ、これは老いのダンディズムの粋ではなく単なる老いの痴呆の域ではないか、病弱とはいえ市ケ谷から九段を散歩して翌日はそれで腹をこわし懇意にする医者の往診が不便だからと木挽町に医者の往診を受けるために借家する……こんなのアリか?。日記面白く、市川段四郎とあり、昭和33年の東都書房版の荷風日記を読んでおり読者の便宜にと付いている栞には「現猿之助の父」とあり、咄嗟に現・三代目の父?と三代目の段四郎を想像するが、よく考えれば昭和33年の猿之助は二代目で後の猿翁、つまりこの大正半ばの段四郎とは猿翁の父か、と判るヤヤコシサ、面白い。