富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月十五日(日)晴。A御大とI氏の両夫妻と藍田からウィルソントレイルに入り春の彼岸の墓参りに賑わう華人墓地と将軍澳を眺め清水湾道まで歩く。かつての国民党部落の調景嶺、陸の孤島と云われしものが今ではすっかり形跡もなく超高層マンションの建設が進む。芸術館にて山東青州龍興寺出土の仏教造像展、千秋楽にて、仏像は傳教の果て日本に残るものが洗練され好きなのだが、毀れて出土した佛の御手に素晴らしきものあり。ただ三尊像のコレクションは殊に照明に執拗に神秘的に見せようするするあまりマテリアルとしての良さが見えぬ展示多し。埃及展での質の劣る硝子に近いものを感じる。先ごろアフガニスタンイスラム強硬派による佛教遺跡破壊が野蛮とされたが廃佛は幕末から明治の日本でも、そしてこの龍興寺とて儒教の影響での廃佛にて多くの仏像が頭や手を毀されてもいる。宗教による宗教の弾圧を野蛮というのは易しい。科学館にて香港映画祭『哈哈上海』、30年前に母が文革寸前に海外へ移住しようと上海の家を2,000元にて手放し米国で育った娘が映画製作者となり30年ぶりに上海を訪れる、とここまでは最近珍しくない上海モノなのであるが、この崔明慧なる監督はこっちが恥ずかしくなるくらい屈託がなく、今回この上映に来ていたのだが「 イエーイッ!」と両手を挙げてステージに踊って上ってくるようなオバサンで、それはいいが作品もそのまま、いきなりその30年前の家を取り戻そうと、まだ文革で強制徴用されたならまだしも母は国外に逃げる資金を得るために2,000元を得て、その後の人生の安全との引き換えに家を手放したものを、何ら疑問がなく再び取り戻そうとは……破廉恥。尖沙咀の韓国宮、八年ぶりくらいか、相変わらず全席韓国同胞ばかり、それにしてもあの世界、香港での狭い韓国社会での礼儀を重んじるためか店に誰か客が来るたびに全員の視線が入口に集中し、いざ先輩知古ならば先ず礼を尽くす緊張感、飲みだした酒は自ら止めれず、勧められた煙草は断らず、先に席を立つは失礼、あの全テーブルは何処まで酔うまで飲み続けるのか。味でいえば秘苑なり、同じ韓国社会でも雰囲気の気軽さでいえば梨花苑なり、石焼ビビンバなら景光街なり、美味い店は他にいくらでもあるが、かなり濃い韓国社会を垣間見るには韓国宮、かつての銀座太郎での日本人社会のようなもの、ついこちらまで義理もないが思わずその義理で真露を二本700mlも飲んでしまい酔う。